厚生労働省より、2026年8月6日に「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況」が公表されました。
労働基準関係法令違反の内容は、労働時間、割増賃金の支払い、休息期間などに関するもので、直接事故につながった事案ではありません。
しかし、長時間労働や休息不足によって運転者の健康が損なわれ、重大な事故に至った事例は過去にも数多く存在します。
今回は公表内容について解説いたします。
業界の平均年齢
まず、各業種ごとの平均年齢は以下の通りです。
・営業用大型貨物自動車運転者 51.5歳
・営業用貨物自動車運転者 50.3歳
・タクシー運転者 56.8歳
いずれの業態も40~50代が半数を占め、若手の10~30代は全体の25%程度とされています。
若手の流入が少ないからこそ、必然的にベテランドライバー達が継続して勤務をしている状況です。
外的要因によるスケジュール調整の難しさ
事例1(トラック)
トラック事業者に対し、長時間労働の削減及び改善基準告示の遵守等を指導
労基署の指導等
■スーパーマーケットに食品のルート配送を行っているトラック運転者に、時間外・休日労働に関する協定(以下「36協定」という。)で定めた特別延長時間を超える違法な時間外労働(1か月当たり最大125時間、年間1328時間)が認められたため、是正勧告した。
■改善基準告示に関し、①1か月の総拘束時間が労使協定で定める月の拘束時間(310時間)を超えていること、②1日の拘束時間が15時間を超えていること、③休息期間が継続9時間を下回っていること、④連続運転時間が4時間を超えていること、が認められたため、是正勧告した。
■休憩時間について、労働時間の途中に少なくとも1時間与えていない状況が一部認められたため、是正勧告した。
■健康診断結果について、有所見者に対して医師からの意見聴取を行っていなかったため、是正勧告した。
出所:厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」
上記の事例では「違法な長時間労働」の是正勧告が挙げられました。
内訳は「総拘束時間の超過」「休息時間の取得不足」「連続運転4時間の超過」です。
しかし、トラックドライバーの拘束時間の内訳の25~30%は荷待・荷役であるとされています。
トラック・物流Gメンにて確認された荷主の約7割で、荷主都合による「長時間の荷待ち」「契約にない附帯業務」が発生しています。
そのため、トラックドライバーの勤務形態の改善にはドライバー本人と所属企業だけでなく依頼主の協力も不可欠であるといえます。

トラック・物流Gメンってなに?
トラック・物流Gメンとは、トラック運送における不適正な取引の監視を強化するため国土交通省が2023年に創設した組織です。
主に悪質な荷主・元請事業者等の是正指導を行っています。
以下が主な違反原因行為と無許可経営等原因行為の例です。


貸し切りバス事業者への是正勧告
事例3(バス)
地方運輸機関からの通報を契機に貸切バス事業者に対し、監督を実施し、改善基準告示の遵守等を指導
労基署の指導等
■地方運輸機関から改善基準告示違反の通報があったことを契機に、貸切バス事業者に監督を実施したところ、改善基準告示に関し、ツアーバスのバス運転者に、①1日の拘束時間が15時間を超えていること、②休息期間が継続9時間を下回っていること、③連続運転時間が4時間を超えていること、が認められたため、是正勧告した。
■36協定の締結がなされないまま、時間外・休日労働を行っていたため、是正勧告した。
■就業規則について、労働者を10名以上使用しているにもかかわらず、労働基準監督署に届け出ていなかったため、是正勧告した。
出所:厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」
事例3では「違法な労働時間」「36協定の未締結」「就業規則の未届け出」が挙げられています。
労基署からの指導を受けて、受注段階で旅行会社に対して無理のない運行計画での依頼を要請しました。
合わせて36協定の締結・就業規則の作成と労働基準監督署への届け出も実施しています。
貸し切りバスと聞いて脳裏をよぎったのは、直近2026年5月に発生した磐越道の高校生死亡事故です。
4年前にも2022年にも静岡で発生した大型貸切バス横転事故により1名が亡くなっています。
費用を抑えるために未許可の車両やドライバーを利用することが無いよう、依頼元も認識を改める必要があるといえます。
「歩合制」の抱えるジレンマ
事例4(タクシー)
タクシー事業者に対し、改善基準告示の遵守及び累進歩合制の廃止等を指導
労基署の指導等
■タクシー運転者の毎月の賃金が基本給のほか運賃収入に応じた歩合給で構成されていたが、支給割合が段階的に上がる、いわゆる「累進歩合制度」が採用されており、長時間労働等を極端に誘発するおそれがあったため、労使間で検討の上、賃金制度を見直すなどにより、累進歩合制を廃止するよう指導した。
■改善基準告示に関し、タクシー運転者2名について、1日の拘束時間が15時間を超えていることが認められたため、是正勧告した。
■年次有給休暇について、年休管理簿を作成しておらず、また直近1年間で法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に対し、1年以内に5日の時季指定をしていなかったことが認められたため、労働基準法違反として是正勧告した。
出所:厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」
事例4として「タクシー事業者に対し、改善基準告示の遵守及び累進歩合制の廃止等を指導」が挙げられています。
これはトラックなどの運送業やタクシー業界の給料では「歩合制/累進歩合制」をとる企業が多いことから長時間労働等を極端に誘発するおそれがあったため、是正勧告がなされました。
現在「累進歩合制」は廃止が進められ、「積算歩合制」の導入が一般的となりつつあります。
「累進歩合制」と「積算歩合制」の違いって何?
累進歩合給制は、運賃収入等をその高低に応じて数階級に区分し、階級区分の上昇に応じ逓増する歩率を運賃収入等に乗じて歩合給を算定する方式です。

積算歩合制は運賃収入等の増額に応じて歩合率を高く設定する方式です。
賃金の変動に急激な段差がないことが特徴です。

「累進歩合制」のように階段状になっている給与の場合に生じる、目標額に向けて無理な運転の誘発(過重労働やスピード違反や信号無視などの道交法違反)やテリトリー侵害等によるドライバー同士の争いなどが問題視されています。
まとめ
現在、世論として「健康な体で労働寿命を伸ばす」動きが推奨されています。
しかし、高度経済成長~バブル期と呼ばれる平成初期の頃までは「24時間働けますか」「モーレツ社員」「ファイト一発!」などのキャッチコピーが流行るなど、長時間労働が美徳とされた時代がありました。
今の50~60代の方はちょうどその時代に社会人になられた先輩方です。
現役で現場に立つ方や、経営に携わる方もいらっしゃることでしょう。
制度の変更や健康志向を重視する風潮である過渡期である現在において、これまでの働き方や意識を変えるのはとても難しいだと思いますが、業界として引き続き改革が必要であることは間違いありません。
現代の運送業界は社会インフラを考える上で必要不可欠な業界です。
だからこそ、己の健康を害する働き方は、本人だけではなく所属企業、無関係の第三者にも影響を及ぼす恐れがあることを、どうか忘れないでほしいと思います。
<参考>
・厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」
・厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」
・厚生労働省「統計からみるハイヤー・タクシー運転者の仕事」
・厚生労働省「トラックドライバーの拘束時間の内訳(荷主・元請運送事業者の皆さまへ)」
・厚生労働省「発着荷主等に対する要請の取組」
・国土交通省「『トラック・物流Gメン』について」
・厚生労働省「バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
・厚生労働省 福岡労働局・労働基準監督署「『累進歩合制度』は廃止しましょう!」