妊婦の早産リスクは猛暑で1.16倍に|会社が今すぐできる暑さ対策と通勤・職場環境の整え方

東京科学大学の藤原武男氏らによる研究で、妊娠中期(妊娠16週~22週)に極端な暑さにさらされると、早産のリスクが通常時と比較して1.16倍に上昇することが明らかになりました。
気象庁が最高気温40℃以上の日を「酷暑日」と命名したニュースも話題になったように、今年も通常の生活が脅かされるほどの猛暑が続く見込みです。
だれでも熱中症などのリスクがあるなか、妊婦・お腹の中の赤ちゃんは特に危険性が高まります。

猛暑と早産・合併症との関係

早産は赤ちゃんの肺や脳の発達に影響を及ぼし、長期的なケアを必要とする可能性を高める可能性があります。
さらに深刻なのは、母子の生命に直結する「常位胎盤早期剥離」のリスクです。
通常、赤ちゃんが生まれた後に剥がれるはずの胎盤が、妊娠中に剥がれてしまうこの疾患は、発症すると母体内で大量出血を引き起こします。
胎児の死亡率は25~30%と極めて高く、たとえ命が助かったとしても、脳性まひなどの重篤な後遺症が残るリスクがあります。
暑さ指数が上昇した「翌日」にこのリスクが顕著に高まることがわかっており、妊婦が猛暑にさらされる危険性が示されています。

妊婦は熱をためこみやすい

なぜ、これほどまでに暑さが妊婦にとって危険なのでしょうか。
その理由は、妊娠中特有の生理的な変化にあります。
妊婦の体は、赤ちゃんを育てるために基礎代謝が上がり、通常時よりも体温が高めに維持されています。
また、皮下脂肪が厚くなることや、血液量が非妊娠時の約1.5倍に増加することで、心臓への負担が常に高い状態にあります。
これにより、体内の熱を効率的に体外へ逃がす「放熱機能」が低下し、熱中症になりやすい、いわば「熱がこもりやすい体質」になっています。
さらに、夏場に起こりやすい脱水症状でも危険性が高まります。
妊娠中は血液をサラサラに保ち、赤ちゃんへ栄養を届けるために大量の水分を必要としますが、発汗によって水分が失われると、血液が濃縮され血流が悪化します。
これが胎盤へのダメージとなり、前述の早期剥離や、子宮収縮を誘発して早産につながるのです。

命を守るために会社ができること

① 通勤時の配慮

テレワークの導入

気温が一定を超える日は、可能であれば原則在宅勤務とするといった対応が望ましいです。

時差出勤・オフピーク通勤

午前10時以降や夕方以降など、気温のピークと満員電車の混雑を避ける設定にすることもおすすめです。

タクシー利用の補助

最寄り駅からオフィスまで、炎天下の歩行を避けるための交通費補填を検討するといった方法もあります。

妊娠中は脳への血流が一時的に低下する「脳貧血」を起こしやすく、特に夏の駅ホームや満員電車内は、高温多湿に加えて人混みによる圧迫があり、健康な人でも体調を崩しやすい環境です。
過去には、妊婦が通勤途中に立ちくらみを起こし、電車のホームへ転落するという痛ましい事故も報告されています。

② 作業環境の調整

妊娠期間中の作業内容の変更

炎天下の屋外作業、高温になる厨房や工場内作業、長時間の立ち仕事からは、産休入りまで完全に外れるよう配置転換を行うといった配慮も検討してください。

休憩をとれる環境と場所の確保

通常の休憩とは別に、体調に異変を感じた際に即座に休憩がとれる環境づくり、横になれるスペース(ソファや救護室)を確保するとよいでしょう。

冷却グッズの貸与

冷感スカーフ、ファン付きベスト、冷却パックなどを会社支給で提供する企業も増えています。

③ 就業規則などの運用整備

母健連絡カードの周知・迅速な対応

医師からの「母性健康管理指導事項連絡カード」が提出されたら、即座に業務軽減や休業措置を行いましょう。
これは法的義務ですが、対応が遅れるケースがあったり、人事労務がカードの存在を知らないといったケースもあります。

「時間単位」の有給・特別休暇

「朝、少し体調が悪い」「日中の日差しが強すぎる」といった際に、数時間だけ休める柔軟な制度を運用することも効果的です。

飲料・補水液の無償提供

経口補水液や麦茶など、脱水を防ぐ飲み物をオフィスや現場に常備し、自由に飲めるようにしておくと、水分補給への意識が高まります。

今回は妊婦にフォーカスしたお話を紹介しましたが、今後ますます気温上昇が見込まれる中、健康を保ちながら働くためには全従業員に対しての猛暑対策が必須です。
妊婦の健康リスクを考えた対策をおこなうと、全従業員にとってもプラスの対策となるでしょう。
ぜひ、暑さが本格化するまえに会社での運用を検討してみましょう。

<参考>
・ Shuhei Terada、Hisaaki Nishimura、Naoyuki Miyasaka、Nobutoshi Nawa、Takeo Fujiwara「Critical gestational windows of heat exposure associated with preterm birth: a nationwide observational study」(『American Journal of Epidemiology』2026年3月30日)
・ 東京科学大学「猛暑の『翌日』に注意、妊婦の重大疾患リスクが上昇 暑さ指数と常位胎盤早期剥離の関連を全国データで実証」
・ 気象庁「最高気温が40℃以上の日の名称を『酷暑日』に決定」
・ 気象庁「東京都2025年8月(日ごとの値)最高気温(℃)」

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丸毛 恭子株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学卒業後、行政保健師として勤務しておりました。その中でメンタルヘルスの相談を受けることも多くメンタルヘルス疾患の予防などに携わりたいと思いドクタートラストへ入社いたしました。保健師として、健康を心がけることが身近に感じられるような情報を発信できるよう努めてまいります。
【保有資格】保健師、看護師、第一種衛生管理者、メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
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