私たちは毎日何かしら食べて生きています。
また「食べる」という行動をとおして、家族や友人などと楽しく過ごすことができたり、美味しいものを食べて幸せに感じたりなど、生命維持だけではなく精神衛生にも大きく関わっています。
そして食に欠かせないのが、消化や吸収、排泄などの過程を担う臓器の存在です。
全3回にわたり、シリーズで「食」にまつわる臓器の解説をしています。
第1回は「食道」について、第2回は「胃」について解説しました。
シリーズ最後となる今回は「大腸」についてです。
食道や胃などの消化器官と呼ばれる臓器の最後を司る器官になります。排泄に関わる非常に重要な臓器ですが、現在日本で最も多くの人が罹患するがんは大腸がんといわれています。
今回は大腸の役割や主な疾患について、詳しく解説します。
大腸の役割は?
大腸は全長約1.5~2mの長さがあり、表面積はテニスコート半面分(約100㎡)もの広さになるといわれている、長くて広い臓器です。
右下腹部からお腹の中をぐるりと大きく回って、肛門につながっています。
大腸は結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)、盲腸、直腸にわけられます。
大腸では、小腸で栄養素を細かく分解、吸収した残りかすから、結腸で水分やミネラルを吸収し、便をつくり、食物繊維などを発酵させて直腸へ便を送ります。
便が肛門手前の直腸まで運ばれると、その刺激が脳へ伝わって便意をもよおします。口から食物が入り、便になって体外へ排出されるまで、24~48時間かかります。
小指くらいの大きさの虫垂(ちゅうすい)といわれる盲腸は、退化した器官とされており、特別な働きはしていないと考えられています。
大腸疾患
(1) 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは、大腸カメラなどの検査を実施しても炎症や潰瘍などの目に見える病気がないにもかかわらず、下痢や便秘、下腹部の痛みなどの不快な症状が続く病気のことです。
はっきりとした原因はわからないといわれていますが、ストレスや生活リズムの乱れ、アルコールなどが関係しているといわれています。
診断基準は、少なくとも6か月前から症状出現、過去3か月に1週間で1回以上の腹痛があることが前提の上で、①排便による症状改善、②発症時に排便頻度が変化、③発症時に便の形状が変化から2項目以上当てはまる方になります。
(2) 大腸ポリープ
大腸ポリープとは、大腸の壁の最も浅い粘膜が内側にイボ状に盛り上がった隆起のことをいいます。
無症状が多く、便潜血検査で陽性になった方が、大腸カメラを実施して発見されることがほとんどです。
大腸ポリープは良性のものが大半を占めますが、大腸がんになる可能性のあるポリープも存在するため、便潜血検査で陽性の場合は受診が必要です。
内視鏡で切り取れる大腸ポリープのことが多いため、消化器内科のクリニックなどで、日帰りでの治療が可能です。
大腸ポリープができやすい要因(後述の大腸がんも同様)
・ 40歳以上の男性
・ 喫煙、飲酒
・ 高カロリーな食事(欧米食)
・ 肥満
・ 脂質異常症
・ 高血圧
・ 糖尿病
・ 潰瘍性大腸炎
・ 家族で大腸ポリープ、大腸がんになったことがある方
(3) 大腸がん
大腸がんは、大腸の内側の粘膜に発生するがんのことです。
良性ポリープ(腺腫というポリープ)ががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。
日本人は大腸の末端の(肛門に繋がる)S状結腸と直腸にがんができやすいといわれています。
初期の段階では自覚症状はほとんどなく、進行すると症状が出ることが多くなります。
主な症状は、血便や下血です。さらに進行すると慢性的な出血により貧血になる方もいます。
また、腸が狭くなることにより便が細くなる、残便感がある、お腹が張ることもあります。
厚生労働省の人口動態統計によると、日本における大腸がんの死亡数は52,418人(2021年)となっています。
国立がん研究センターの統計情報で、大腸がんの罹患数は155,625人(2019年)となっており、死亡数、罹患数ともに年々増加傾向です。
また、大腸がんの死亡数はがん全体の2位、罹患数は1位と多くの方が罹患、それによって死亡しています。
50歳代から発症が増加し、男性は女性の2倍大腸がんにかかっています。
がん細胞が粘膜または粘膜の下の粘膜下層までにとどまっているものを「早期大腸がん」といい、5年相対生存率は97.3%となります。
しかし、粘膜下層の下の筋層より深く達した「進行がん」になると、腹膜や肺、肝臓、脳、骨などにも広がっていく可能性が高くなり、5年相対生存率は17.3%と非常に厳しい数値となります。
大腸疾患を予防するために
前回の食道、胃疾患の予防と一緒ですが、禁煙と飲酒を控えることは非常に重要です。前回の記事も参考にして、まずは生活習慣改善に努めましょう。
●食生活改善
欧米化した食事が大腸疾患のリスクになるといわれています。
和食をとる機会を増やしましょう。
野菜やキノコ類など食物繊維が豊富な食材を積極的にとり入れ、ハムやベーコンなどの加工肉は控えましょう。
●運動習慣をつける
大腸がんは運動による予防効果を期待できます。
大腸がんだけでなく運動習慣をつけることは肥満を予防し、さまざまな病気の発症を予防できるので、日ごろから身体をこまめに動かすように意識しましょう。
●定期的に検査を受ける
便潜血検査を定期健康診断受けることができるので、1年に1回検査するようにしましょう。
便潜血検査は侵襲が少ない検査で、便潜血2日法で進行がんの約80~90%、早期がんの約50%を発見することができるといわれています。
また、日本対がん協会によると、便潜血検査が要性となった場合、約3%の割合で大腸がんが見つかったという調査もあります。
早期がんのうちに発見し治療することが重要なため、定期的に便潜血検査を実施し、陽性の場合は精密検査を受けましょう。
<参考>
厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況」
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計2009-2011年生存率報告」
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所 予防関連プロジェクト「身体活動量と大腸がん罹患との関連について」
日本対がん協会「検診の意義と目的」