私たちの「食」に欠かせない消化器官を知ろう!胃編

私たちは毎日何かしら食べて生きています。
また「食べる」という行動をとおして、家族や友人などと楽しく過ごすことができたり、美味しいものを食べて幸せに感じたりなど、生命維持だけではなく精神衛生にも大きく関わっています。
そして食に欠かせないのが、消化や吸収、排泄などの過程を担う臓器の存在です。
前回から3回にわたり、シリーズで「食」にまつわる臓器の解説をしています。
第1回では、食に欠かせない消化や吸収、排泄などを担う臓器のひとつ、「食道」について解説しました。

今回は食道の下の臓器、「胃」についてです。
胃は生活習慣やストレスなどの影響を受けやすく、身体的にも精神的にも不調が出やすい臓器になります。
消化を担う「胃」について、役割や気を付けたい病気、予防方法を解説します。

① 胃の役割は?

胃は「胃袋」と呼ばれることもあるように、筋肉でできた袋状の臓器です。
みぞおちあたりに存在しています。
空腹時の胃は平べったい形状ですが、食べ物が送られてくると壁がのびて風船のように膨らみます。
満腹時は1.5リットル程度に膨らむといわれています。
食べ物がすべて消化され、胃の中が空になるまで3~5時間かかります。
胃の主な働きは以下です。

・ 胃液を分泌して食べ物を消化し粥状にする
・ 粥状にしたものを一時的に貯蔵して少しずつ腸へ送る
・ 水分や糖分、アルコールを吸収する(栄養の吸収はほとんどしない)
・ 強酸性の胃液で食べ物と一緒に入ってきたウイルスや細菌の殺菌や増殖を防ぐ

② 胃疾患

(1) 胃炎

胃の粘膜に炎症が起きた状態を胃炎といいます。
まったく症状がなく、胃レントゲンや胃カメラで胃炎を指摘される人もいる、胃疾患の中でもよくみられる病気のひとつです。
胃炎は3種類にわけられます。

●急性胃炎

暴飲暴食、香辛料などの刺激物の摂取が原因で胃に炎症が起きた状態を急性胃炎といいます。
飲酒や喫煙をしている場合、胃液が過剰分泌して胃の粘膜に炎症が起きます。
また、ストレスが引き金になり自律神経が乱れ、胃酸分泌が過剰となり発症することもあります。
突然の胃痛やむかつき、吐き気などの症状が現れ、2~3日軽い症状が続くだけのものから、不快感が長く続くものもあります。

●慢性胃炎

慢性胃炎とは、胃粘膜の炎症が長期にわたって持続、繰り返している状態のことをいいます。
急性胃炎と同様に、生活習慣が問題となることもありますが、慢性胃炎の80%程度はピロリ菌の感染が原因といわれています。
症状は急性胃炎と同様のものもありますが、ときには吐血、下血が現れることもあります。

●萎縮性胃炎

慢性胃炎が長期間にわたって継続すると炎症によって胃の粘膜が薄くなることを萎縮性胃炎と呼びます。
胃カメラでは、胃の粘膜が薄くなり血管が透けて見える状態になっています。
胃の萎縮が進行すると「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という、胃の粘膜が腸の粘膜のような状態になることがあり、これががん化するといわれています。
そのため、萎縮性胃炎は胃がんの発症地になるので非常に注意が必要です。

(2) 胃潰瘍

胃潰瘍とは、ピロリ菌や解熱鎮痛薬、ストレス、暴飲暴食などの理由で胃の粘膜が傷ついたところに、胃酸が攻撃し胃粘膜を消化してしまいます。胸やけの症状が強く、吐き気や嘔吐、食欲不振、体重減少が起きることもあります。自覚症状の程度と潰瘍の度合いに相関はあまり関係ないといわれており、胃の壁が穿孔(胃の壁に穴が開いた状態)していても痛みを感じない人もいます。
潰瘍から出血がある場合、胃酸で酸化し黒~褐色に変色して吐血や下血をする場合もあります。また、胃壁に穴が開いた場合は、緊急で手術が必要なこともあります。

(3) 胃がん

胃がんは胃壁の内側の粘膜が何らかの原因でがん化し、増殖することで発生します。
厚生労働省の人口動態統計によると、日本における胃がんによる死亡者は毎年40,000人を超えています。
2021年の胃がんによる死亡者は41,624人です。男女ともに50歳代から発症が増加し、男女ともに80歳代が好発年齢になります。
がん細胞が粘膜または粘膜の下の粘膜下層までにとどまっているものを「早期胃がん」といい、5年相対生存率は96.7%となります。
しかし、粘膜下層の下の筋層より深く達した「進行がん」になると、近くにある横隔膜や肝臓、大腸、膵臓などにも広がっていく可能性が高くなり、5年相対生存率は6.6%と非常に厳しい数値となります。
日本人の死因で最も多いのはがんですが、その中でも胃がんは罹患数、死亡数ともに第3位(2021年男女計)といずれも高い水準となります。

胃がんは、早期がんの場合は自覚症状がほとんどなく、進行しても症状が出ない場合もあります。
症状が出る場合は、胃痛、不快感・違和感、吐き気、胸やけ、食欲不振、下血などで胃炎や胃潰瘍と似ており、また体重減少や食事がつかえるような感じがする場合は、進行がんの可能性が高いといわれています。
胃がんの主な原因も胃炎や胃潰瘍と同じで、暴飲暴食や喫煙、ピロリ菌などになります。

③ 胃疾患を予防するために

前回の食道疾患の予防と一緒ですが、禁煙と飲酒を控えることは非常に重要です。前回の記事も参考にして、まずは生活習慣改善に努めましょう。

●ストレスを避ける

私たちは食べ物について考えたり、見たり、においを嗅いだりすると、胃液の分泌を刺激します。反対に運動や疲労感、不安や心配は消化を止めてしまいます。
身体や脳を動かすと胃から血液が離れていくためです。
胃が働いている時は運動やストレスを出来るだけ与えないようにしましょう。
また日ごろから過度なストレスを受けないように適宜気分転換をするようにしましょう。

●胃がん検診を受ける

がん検診は早期発見、治療を行うことでがんによる死亡を減少させる目的があります。
胃がん検診はレントゲンまたはカメラになります。
胃レントゲン(胃カメラ)は法定項目ではないので、必ず受診しなければならない検査ではありませんが、毎年受ける定期健康診断で受検することをおすすめします。
要精密検査の場合は、必ず病院を受診しましょう。

●ピロリ菌除菌

ピロリ菌は上下水道の環境が整っていなかった世代(65歳以上)に感染している人が多く、また乳幼児期に親族から口を介して感染するといわれています。
「②胃疾患」で紹介したように、ピロリ菌は胃炎や胃潰瘍、胃がんのリスクになります。
ピロリ菌除菌はこれらの疾患に有効です。
一度除菌すれば日常生活での再感染は低いと言われているので、感染が疑われる場合は除菌することをおすすめします。
ただし、除菌後も胃がん発症のリスクをゼロにすることはできないため、定期的に胃がん検診を受けるようにしましょう。

<参考>
厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況」
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計2009-2011年生存率報告」

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保健師 大島かよ

投稿者プロフィール

病棟・クリニックでの患者さんとの関わりの中で、「もっと早く治療開始できていれば」、「病気になる前に何かできないか?」と考えるように。その思いから次第に予防に興味を持ち、「働く世代」に対するアプローチがしたい!と、産業保健の世界へ飛び込みました。
現在産業保健師として数社訪問、健保で特定保健指導を担うフリーランスの保健師です。
自分の経験なども盛り込みながら、産業保健に関連する情報を発信していきます。
【取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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