その要求、正当ですか?スーパーマーケットでのカスタマーハラスメントの現状と対策
- 2025/6/13
- ハラスメント

近年、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント、以下「カスハラ」)が顕在化し、社会問題として注目されるようになりました。
こうした背景を受け、業界全体で共通の対応方針を打ち出そうとする動きが進んでおり、厚生労働省はスーパーマーケット業界に特化した対策マニュアル「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)」(以下、本マニュアル)を公表しました。
カスタマーハラスメントの定義
本マニュアルでは、カスハラを次のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、要求の内容の妥当性に照らして、手段・態様が社会通念上不相当であり、労働者の就業環境が害されるもの」
出所元:厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)」p.4
具体的には、以下のような行為が該当します。
① 顧客等の要求の内容が妥当性を欠く言動
提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
具体例:商品に対する根拠のない過度なクレーム(消費期限内の惣菜に対して根拠 なく腐敗・汚損しているといった主張を繰り返す)
要求の内容が提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
具体例:従業員の個人情報や勤務日・勤務時間等の情報の要求、店長や従業員の解雇の要求
② 要求を実現するための手段・態様が 社会通念上不相当な言動
要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの
具体例:身体的攻撃(暴行、傷害)、精神的攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)、威圧的な言動、土下座の要求、継続的・執拗な言動、拘束的な行動、差別的・性的な言動、従業員個人への攻撃、SNS等を用いた誹謗中傷
要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの
具体例:商品の交換等の過大な要求、金銭補償の要求 、謝罪の要求(土下座を除く)
また、本マニュアルでの「スーパーマーケット業界におけるカスタマーハラスメントに対する共通の方針」は次のように定義しています。
スーパーマーケット業界における カスタマーハラスメントに対する共通の方針
私たちは、お客様への対応について、日々サービス品質を向上させるよう真摯に取り組んでいきます。 しかしその一方で、暴力的な言動や過剰ととれる要求、根拠のない主張など、社会通念上不相当なものに ついては、十分説明した上でご理解いただけない場合、企業・店舗として顧客等に注意・警告を行うなど 毅然と対応します。出所元:厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)」p.12
スーパーマーケットでのカスタマーハラスメントの実態調査
<実態把握調査>
実施概要
・調査実施期間:令和6年9月5日~9月30日
・調査対象:スーパーマーケット業を中心に営む企業
・回答方法:WEB ・発送件数(電子メールでの回答依頼も含む):982件 ・回収数:107件(回収率10.9%)
今回のマニュアル作成に伴い、スーパーマーケットを中心に行われた実態調査によると、過去3年間に従業員からカスタマーハラスメントに関する相談があったと回答した企業の割合は76.2%、相談はなかったと回答した企業の割合は18.8%、わからないと回答した企業は5.0%でした。
また、該当件数の推移については 「件数が増加している」が42.9%、「件数は変わらない」が23.4%、「件数は減少している」が5.2%、「件数の増減は分からない」23.4%、「該当すると判断した事例はない」が5.2%でした。
「件数が増加している」と回答した企業が、「件数が減少している」と回答した企業より37.7%も多い結果となりました。
過去3年間にカスタマーハラスメントの相談として取り扱った件数の傾向のグラフ

出所元:厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)」p.9
また、実態把握調査の結果より、企業がカスタマーハラスメントと判断した事例は、「継続的な、執拗な言動」84.9%が最も高く、次いで「威圧的な言動」75.3%、「精神的な攻撃」65.8%、「正当な理由のない過度な要求」57.5%、「明らかに業務内容と関係のない顧客等からの言動」53.4%、「拘束的な言動」49.3%、「身体的な攻撃」20.5%、「その他」4.1%でした。
最も多い「継続的な、執拗な言動」とは頻繁なクレーム、同じ質問を繰り返すなどの行為のことです。数値が高い事例の共通点として「身体的な攻撃」より、「言動や精神的な攻撃」が多い結果となりました。
カスタマーハラスメントに該当すると判断した事業の内容(複数回答)グラフ

出所元:厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)」p.13
企業が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策
スーパーマーケットでのカスタマーハラスメントは、次の7つを意識することで対策できます。
① 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
店舗にカスハラ防止ポスターを掲示するなど、企業の方針を明確に打ち出す。
② 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
現場から本社まで一貫した相談の流れを確立する。
③ 対応方法、手順の策定
過去の事例を参考に、実用的な手順を用意する。
④ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修
ロールプレイや研修を通して、従業員の対応力を高める。
⑤ 事実関係の正確な確認と事案への対応
クレームが正当かどうかを慎重に見極める体制を作る。
⑥ 従業員への配慮の措置
メンタルケアなどのフォロー体制を社内で整備する。
⑦ 再発防止のための取組
自社で起きた事例を分析し、判断基準として現場に共有する。
厚生労働省が運営している、ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」では、店舗に掲示できる周知用ポスターや、マニュアルの内容及びカスタマーハラスメントに対応するための取組方法などの解説動画が掲載されています。
自身の店舗や環境にあった対策方法を実施してみましょう。
日頃から私たちがよく使うスーパーマーケット。
私たちは知らずに、カスタマーハラスメントの「被害者」にも「加害者」にもなり得ます。
社会的な注目が高まる今、企業が適切な対策を取らなければ、人材の確保や職場の安定にも悪影響が出る可能性があります。
一方で、対策をしっかり進めることで、従業員の安心感や満足度が高まり、結果として顧客も安心して買い物ができる環境の整備につながることでしょう。
<参考>
厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル (スーパーマーケット業編)」
厚生労働省「あかるい職場応援団」
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」