
2025年10月31日、東京労働局は「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」を公表しました。
これは、2024年度に長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果と監督指導事例をまとめたものです。
今回、監督指導の結果をわかりやすく解説します。
監督指導対象の事業場
監督指導とは、各種情報から時間外・休日労働時間数が1カ月あたり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死などに係る労災請求が行われた事業場を対象としています。
2025年度に監督指導の対象となったのは4,138事業場でした。
3,438事業場だった2024年度より700事業場増えました。
事業場規模別の監督指導実施事業場数
| 合計 | 1~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 50~99人 | 100~299人 | 300人以上 |
| 4,138 | 807 (19.5%) | 1,297 (31.3%) | 673 (16.3%) | 503 (12.2%) | 528 (12.8%) | 330 (8.0%) |
10~29人の事業場規模で、31.3%と高い割合となりました。
また、10~29人事業場1,297(31.3%)、1~9人事業場807(19.5%)、30~49人事業場673(16.3%)と、50人以下の事業場で約7割(67.1%)を占めていました。
企業規模別の監督指導実施事業場数
| 合計 | 1~9人 | 10~29人 | 30~49人 | 50~99人 | 100~299人 | 300人以上 |
| 4,138 | 328 (7.9%) | 668(16.1%) | 462(11.2%) | 470(11.4%) | 745(18.0%) | 1,465(35.4%) |
企業別では、300人以上が1,465(35.4%)で全体の約4割を占めていました。
違法な時間外労働
監督指導の対象となった4,138事業場のうち、違法な時間外労働を確認したため、是正・改善に向けた指導の対象となったのは1,545 事業場(37.3%)でした。
また、実際に1カ月あたり 80時間を超える時間外・休日労働が認められた事業場は、732事業場(違法な時間外労働があったもののうち47.4%)です。
時間外労働には、労働基準法において上限規制が設定されています。
(時間外及び休日の労働)
第36条
(中略)
3 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
4 前項の限度時間は、1箇月について45時間及び1年について360時間(第32条の4第1項第二号の対象期間として3箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、1箇月について42時間及び1年について320時間)とする。
出所:労働基準法
厚生労働省では「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参考に、労働時間の考え方をまとめています。
【労働時間の考え方】
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。
また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものである。出所:東京労働局「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します」
雇用主と従業員が、お互いに労働時間についての認識をすり合わせておくことで、トラブルを防ぐことにもつながるでしょう。
(1)月80時間を超える時間別事業場数の内訳
今回の指導で、違法な時間外労働を確認したため是正・改善に向けた指導の対象となった1,545事業場の中でも、月80時間を超える時間別事業場数の内訳は以下のとおりです。
違法な時間外労働があったもの1,545事業場(37.3%)
うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が月80時間を超えるもの:732事業場(47.4%)
うち、月100時間を超えるもの:442事業場(28.6%)
うち、月150時間を超えるもの:104事業場(6.7%)
うち、月200時間を超えるもの:23事業場(1.5%)
(2)労働時間の管理方法
労働時間の管理方法監督指導を実施した事業場において、始業・終業時刻等を記録など労働時間の管理方法を確認しました。
使用者が自ら現認することにより確認しているのが183事業場、タイムカードを基礎に確認しているのが1,118事業場、ICカード、IDカードを基礎に確認しているのが984事業場、PCの使用時間記録を基礎に確認しているのが333事業場、自己申告制により確認しているのが1,364事業場でした。
タイムカードで始業・終業時刻等を記録している事業場が多いことがわかります。
賃金不払残業、健康障害防止指導
賃金不払残業、過重労働による健康障害防止措置が未実施の事業場
違法な時間外労働があった事業場の他に、賃金不払残業があったのが296事業場(7.2%)、過重労働による健康障害防止措置が未実施のは887事業場(21.4%)でした。
主な健康障害防止に関する指導の状況
(1)過重労働による健康障害防止のための指導状況
監督指導の対象となった4,138事業場のうち、長時間労働を行った労働者に対する医師による面接指導等の過重労働による健康障害防止措置を講じるよう指導したのは2,302事業場(55.6%)でした。
指導事項として、面接指導等の実施、月45時間以内への削減、月80時間以内への削減、面接指導等が実施出来るしくみの整備など、ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策に関する調査審議が実施されました。
(2)労働時間の適正な把握に関する指導状況
監督指導の対象となった4,138事業場のうち、労働時間の把握が不適正なため指導したのは767事業場(18.5%)でした。
指導事項として、始業・終業時刻の確認・記録、自己申告制の説明、実態調査の実施、適正な申告の阻害要因の排除、管理者の責務、労使協議組織の活用が行われました。
過重労働による健康障害防止のための指導状況の指導事項でもあるストレスチェック制度は、2025年5月に「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が正式に成立し、2028年までにすべての事業場でストレスチェックの実施が必須となる見込みとなりました。
本格的な施行となる前に、会社として準備を進めることが必要です。
政府では「労働時間の規制の緩和」も検討されているとされており、今後、政府の方針だけでなく、私たち一人ひとりの働き方に対する考え方が変化していく可能性があります。
変化の大きい今だからこそ、働き方を改めて見直すことで、より良い職場環境づくりにつながることでしょう。
<参考>
・ 東京労働局「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します」
・ 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」




















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