6月1日付けで労働施策総合推進法が施行され、パワハラ防止措置が事業主の義務となったばかりですが、厚生労働省が毎年公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」の令和元年度分が7月1日に公表されました。
ひとまず、ポイントとなる数字のみ確認してみると、以下のような状況です。
・ 令和元年度の総合労働相談件数118万8,340件(前年比7万件以上増加)
※100万件超え期間連続12年間
・ 総合労働相談中、民事上の個別労働紛争相談件数27万9,210件(前年比2万件弱増加)
・ 総合労働相談中「いじめ・嫌がらせ」に関する相談8万7,570件(前年比約4,800件増加)
※「いじめ・嫌がらせ」は7年連続の最多相談内容
結果的にどの項目も増加傾向は変わらず、高止まりしてしまっているようです。
まず、言葉の意味を整理しましょう
政府や官公庁からの通達などは、法律に則った言葉や公文書に使われる言葉が使用されるため、何となく意味がわかりづらいですよね。
冒頭でご紹介した言葉も、いったん整理しておきましょう。
個別労働紛争解決制度
「個別」という言葉がある通り、労働組合などの団体交渉ではなく、労働者個人と事業主の労働条件や労働契約、職場環境、損害賠償などに関する紛争を、できるだけ短期間で金銭的負担を抑えて解決するための制度です。
詳しくは以下の記事をご覧ください
総合労働相談
労働に関するさまざまな職場のトラブルに関する相談のことです。
労働者だけではなく、事業主からの相談も受け付けていて件数にはどちらも含まれます。
民事上の個別労働紛争
労働基準法などの違反を伴わない、労働条件・その他労働関係に関する事項についての労働者個人と事業主との間の紛争をいいます。
たとえば、事業主が解雇予告手当として平均賃金日額の30日分を支払い解雇した場合、その解雇自体は労働基準法上違反はありませんが、労働者が解雇を不服とした場合には民事上の個別労働紛争に発展する可能性があります。
訴訟など時間やコストのかかる制度以外の救済措置としての個別労働紛争解決制度ですが、やはりできるだけ問題は社内で解決していきたいものです。
ハラスメント防止措置できてますか?
昨年は、国際労働機関(ILO)で暴力及びハラスメント条約が可決され、仕事の世界における暴力とハラスメント問題を扱う初の労働国際基準が発行されました。
日本でも、パワハラ防止に関する法律が成立したり、ハラスメントに関する事件の報道が多くあったり、必然的に世の中のハラスメントへの意識が高まったことが、相談件数増加につながった側面もあるかもしれません。
しかし、ハラスメントに対する世間の目は厳しくなり続けるでしょう。
事業主にパワハラ防止措置が義務化されましたが、事業主に求められていることはハラスメントの根絶ではなく、あくまでも予防のための取り組みと発生した問題の解決への取り組みです。
そのために、必要最小限実施していなければならない取り組みを措置義務として法律上明記したにすぎません。
今後ますます増えていく可能性のある労働に関する相談を、できるだけ社内で円満に解決していけるように、最低限の準備としてハラスメント防止措置にしっかりと取り組みましょう。
①規定を整える ②相談窓口を設置、運用する
指針に示された事業主の措置義務のなかでも、まず取り組まなければならないことが就業規則や規定類の見直しと策定です。
就業規則は企業にとっての法律です。
法律=ルールがなければ問題が起きたとしても裁くことも対処することもできません。
まずは、事業主としてハラスメント行為に対しては毅然とした対応と対処を定め、労働者に周知啓発を行いましょう。
そのうえで、予防や解決の要になるのが相談窓口です。
社内設置でも社外設置でも構わないのですが、愚痴を聞くなどのガス抜き効果ももちろんですが、事業主として事案に迅速に適切に対応するために情報を収集できなければ意味がありません。
指針に示された措置義務としての相談窓口は、外部に相談先があり労働者がいつでも利用できるだけでは要件を充たせていません。
しっかりと相談の概要や相談者の意向などが確認でき、事業主が解決や対応のために動くことのできる、または検討することができる情報収集窓口でなければなりません。
上記含め現在の相談窓口が適しているのか?検証し、その上で利用しやすい窓口にするためにはどのようにすべきか検討し、労働問題の社内解決に努めましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「『令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します」
・ 厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」
・ 国際労働機関(ILO)「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」