残業上限の引下げ
1月28日、政府は、「働き方改革」で、残業時間の上限を繁忙期も含めて年間720時間、月平均60時間とする方向で調整に入ったことが明らかになりました。
ただし、繁忙期には、月最大100時間、2カ月の月平均80時間までの残業は認め、労使との調整を経て、本年度内にまとめる「働き方改革」の実行計画に具体策を盛り込む方向です。
現在の労働基準法は、労働時間の上限を「1日8時間」「1週間40時間」と定めています。
これを超えて労働者を働かせるためには、労働基準法36条に基づいて残業の上限時間を定めた労使協定(三六協定)を結ぶ必要があります。
協定を結ばずに残業させたり、協定した時間を超え残業させたりした場合は違法となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
その残業時間は「月45時間、年360時間以内にするのがのぞましい」とされていますが、労使間で「特別条項」を付ければ、年6カ月までは、法律の上限を超えた残業が認められます。
これまでは、三六協定を結んでいる場合、長時間の残業を設定しても罰則がないため、長時間労働や過労死を生む原因と指摘され、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる過労死の労災認定基準は、1カ月100時間、または2~6カ月の月平均80時間とされていました。
このため政府は、労働基準法を改正し、残業時間の上限を原則として「月45時間」「年間360時間」と規定し、そのうえで、企業の繁忙期に対応できるよう6カ月は例外を設け、「月最大100時間」「2カ月の月平均80時間」の残業を認めることにするようです。
その場合でも、「年間720時間」「月平均60時間」に抑えるよう義務づけ、違反に対しては罰則を科し、これまで事実上、青天井になっていた長時間労働に制限を設けるため、今回調整に入っていく見通しです。
違法長時間労働を放置する企業は社名を公表
また、厚生労働省は、電通の女性社員の過労自殺を受け、違法な長時間労働の撲滅を目指す「過労死等ゼロ」緊急対策を12月26日にまとめ、違法な長時間労働を放置する大企業の社名を行政指導段階で公表する基準を改定しました。
従来は、月100時間以上の違法な長時間労働が3事業所で確認された場合としていましたが、80時間超・2事業所に引き下げています。
なお、指導・公表の対象は、次のⅠおよびⅡのいずれにもあてはまります。
Ⅰ 社会的に影響力の大きい企業であること
具体的には、「複数の都道府県に事業場を有している企業」であり、中小企業に該当しないものであること。
※ 中小企業基本法に規定する「中小企業者」に該当しない企業。
Ⅱ 違法な長時間労働が相当数の労働者に認められ、このような実態が一定期間内に複数の事業場で繰り返されていること
※相当数の労働者は、1箇所の事業場において、10人以上の労働者または当該事業場の4分の1以上の労働者において、違法な長時間労働が認められること。
※一定期間内に複数の事業場で繰り返されているについて、具体的には、おおむね1年程度の期間に3箇所以上の事業場で違法な長時間労働が認められること。
最近では1月31日に、旅行会社大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が、東京都内の複数の店舗で従業員に労使協定の上限を超える残業をさせ、複数回の是正勧告を受けており、是正勧告を受けながらも改善がみられないことから、東京労働局は、労働基準法違反の疑いで同社と労務管理をしていた複数の幹部社員を、近く書類送検する方針を固めました。
このように、過重労働についての規定が厳しくなる取り組みは、進んでいます。
同時に、プレミアムフライデーの導入も検討されており、「会社ではなく、自宅やカフェに移動後仕事をする」「帰宅への仕事の持ち帰りが増加するだけで業務量は減らない」という声も聞こえます。
各企業で、働き方について、考え直さなければいけない時機が来ています。