「パワハラ」の定義
2019年12月23日の厚生労働省の労働政策審議会で決定をした「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。
とても長い名称ですが、いわゆるパワハラ防止措置指針が2020年1月15日に告示されました。
報道などでご存知かとは思いますが、2019年5月29日に参議院本会議で可決され、労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)が公布されました。
施行日は2020年6月1日です。(中小企業は2022年3月31日までは努力義務)
その法律の中で、事業主が雇用管理上講ずべき措置の具体的内容として別途示されることとなっていた指針が、ついに確定版として正式にリリースされたかたちです。
昨今、ニュースで事件が取り上げられることも増えたハラスメントに関する法規制ということもあって、今回の防止法ならびに同指針に多くの国民が注目していたようで、2019年11月21日から1か月募集を行ったパブリックコメントには1,139件という異例のコメント数を記録しました。
すべてのパブリックコメントが指針に反映はされてはいませんが、努力義務として盛り込まれ、見直しのタイミングで義務化が見込まれる措置もありそうです。
施行も目前ですので、パワハラ防止指針に示された「雇用管理上講ずべき措置」について具体的に確認してみましょう。
指針素案や修正案の時点でバッチリ確認をされていた方にはほとんど再確認になりますが、まずは今回定義された「パワハラ」についてです。
パワハラは法律上「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する③労働者の就業環境が害されること」と定義され、①~③の要件をすべて満たすものとされています。
この構成要件を一つひとつ解説していきます。
1.「職場において行われる」の「職場」とは
「職場において行われる」の「職場」とは、あくまでも業務を遂行する場所であり、通常就業している場所以外でも業務を遂行する場所は「職場」に含まれるとしています。
これまでの判例などからも業務関連性によって「職場」に該当するかどうかは比較的緩く判断され、業務時間外の宴会などでも趣旨や参加者、参加条件などにより職場として扱われています。
2.「労働者」の定義
「労働者」の定義としては、正規雇用労働者、パートタイム労働者、契約社員等非正規雇用労働者など、事業主が雇用する労働者のすべてとした上で、「みなし事業主(雇用主)」として派遣労働者も含むものとしています。
3.「優越的な関係を背景とした言動」とは
① 「優越的な関係を背景とした言動」とは、
⑴ 職務上の地位が上位の者による言動
⑵ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
⑶ 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
上記のように、「抵抗又は拒絶することができない蓋然性(がいぜんせい)が高い関係」のもとに行われる言動なので、管理職や先輩、非正規社員に対しての正規社員などはもちろん、部下から上司へのハラスメントもしっかり含まれています。
4.「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」とは
② 「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」とは、
⑴ 業務上明らかに必要性のない言動
⑵ 業務の目的を大きく逸脱した言動
⑶ 業務を遂行するための手段として不適当な言動
⑷ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様な手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
上記のように、常識に照らして業務遂行上必要か否か?言い方や態度、やり様は適切かどうか?を、経緯や状況、業種・業態や業務内容等による判断も含め、事案ごとに相対的に判断されます。
5.「労働者の就業環境が害される」とは
③ 「労働者の就業環境が害される」とは、「労働者が人体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものになったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」です。
上記の看過できない程度の支障が生じているかどうかは、社会一般の労働者が装用の言動を受けたときに看過できないほどの支障が生じたと感じるかどうかを基準とするとしながらも、当該言動により労働者が受ける身体的または精神的な苦痛の程度などを総合的に考慮して判断することが必要としています。
講ずべき措置(措置義務)
① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
・ 職場におけるパワーハラスメントの内容、行ってはならない旨の方針の明確化と労働者への周知・啓発
・ 職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針、対処の内容を就業規則など服務規律等に定めた文書に規定と労働者への周知・啓発
② 労働者からの相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
・ 担当者が、相談に対し、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする
③ 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速な対応
・ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する
・ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
・ 行為者に対する措置を適正に行う
・ 再発防止措置
※ハラスメント発生の事実が確認できなかった場合も同様の措置を講ずる
④ 相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置
⑤ 相談したこと、事実確認等の事業主が講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決援助の求め、調停等制度の利用等を理由として、解雇その他の不利益取扱いの禁止と、労働者への周知・啓発
行うことが望ましい取り組み(努力義務)
① セクハラ、マタハラ、ケアハラその他ハラスメント等と一元的に応じることができる相談窓口の体制を整備
② コミュニケーションの活性化や円滑化のための研修等の必要な措置
③ 適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取り組み
④ アンケート調査などにより、取り組みの運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討
⑤ 他の事業主が雇用する労働者、求職者、個人事業主、インターンシップを行っている者等、労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮する
⑥ 義務として定める方針などに⑤についても併せて示す
⑦ 他の事業主が雇用する労働者等からのハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
⑧ 他の事業主が雇用する労働者等からのハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為の被害者への配慮のための取り組み
⑨ 他の事業主が雇用する労働者等からのハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取り組み
※労働施策総合推進法にて、「労働者の関心と理解を深めるとともに、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するように努めなければならない」として、研修の実施やその他必要な措置が努力義務と定められています
具体的な対応と今後の見込み
今回の指針では、措置を講じていると認められる例も合わせて何点かずつ掲載されていますが、どれも「とりあえず策定した」「とりあえず相談窓口を設けた」などという状態を容認しないものとなっています。
しっかりと事業主の方針や就業規則などの服務規律等への明確化、その上で労働者への周知徹底が求められており、努力義務である研修の実施等と併せて啓発を行う必要があります。
2006年にセクハラ防止に関しての指針で定められた相談窓口は、形だけとなってしまっていて機能していない企業が圧倒的に多いという調査結果もありますが、実際に相談窓口による情報収集からの迅速な対応が、問題の深刻化を防ぐ端緒となり、企業にとっても職場環境改善に取り組むきっかけにもなり、貴重な人材の流出を防ぎつつ生産性の向上に寄与することも想定されます。
冒頭でご紹介したパブリックコメントでも多く指摘のあった項目は、今回の指針では努力義務としての盛り込みに留まりましたが、今後の見直しの中で義務化が見込まれるものがほとんどです。
ぜひこの機会にドラスティックに方針や就業規則等に併せて盛り込むことを検討してください。