「歯科健診」は企業の安全配慮義務に含まれるか

突然ですが、あなたが一番最近歯医者さんへ行ったのはいつでしょうか?
1年以上前という方は要注意です。

日本人の平均寿命は、男性80.21歳、女性86.61歳(平成25年 厚生労働省)と世界のトップレベルです。
ところが、歯の寿命は、長くなった平均寿命に追いついていません。
特に歯周病は、糖尿病や心臓病と同じく生活習慣病に位置づけられています。
近年では、口の健康とからだの健康の関係性が高いことがわかっており、からだの健康を保つためにも口腔ケアが重要であるとの報告が多くあります。

法令上の義務は、からだの健康診断のみ

労働安全衛生法では、労働者の健康確保のために定期健康診断を行うことが義務づけられています。
ただし、歯科健診が義務づけられているのは、一部の方のみです。

<安衛則第48条(抜粋)>
次の有害な業務に常時従事する労働者等に対し、原則として、雇入れ時、配置替えの際及び6か月以内ごとに1回、それぞれ特別の健康診断を実施しなければなりません。

○歯科医師による健診
塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者

つまり、一般の労働者には歯科健診が義務づけられていません。

歯科健診 義務化の是非

口腔ケアにおいて最も重要かつ効果的なものの一つは、歯科健診を定期的(3~6か月に1回)に受けることです。
現在、法的に実施義務があるのは、1歳6か月健診、3歳児健診(母子保健法)、就学時健診、学校健診(学校保健安全法)のみで、健康増進法にもとづく40歳以上の基本健診にも、労働安全衛生法にもとづく労働者への健診にも歯科健診は含まれていません。
すべての年齢層において法律に基づいた歯科検診を実施できるよう、成人の歯科健診を義務化すべきとの声も上がっています。
これに対する国会の答弁は……。

<答弁要約>(平成22年12月10日)
健康増進法は、生涯にわたる国民の健康増進に向けた自主的な努力を促進するために定めているものであり、歯科健診の実施のみを義務付けることは困難である。
また、労働安全衛生法は、あくまでも労働者の業務に関連する健康障害を防止する観点から実施義務を課しているものであるため、以上のことと関わりなく歯科健診の実施を義務付けることは困難である。

国の回答によると、成人の歯科健診の義務化はまだまだ難しい印象です。
口腔ケア・歯科健診の重要性を問うためにも今後さらなる研究が進み、施策が進むことを期待したいところです。

「歯科口腔保健の推進に関する法律(平成23年公布・施行)」とは

口の健康の重要性が認識されはじめ、国が定めた法律です。
この法律が私たちにとって、どのように役立つかご存知でしょうか。

<具体的な取り組み>
・ 歯科口腔保健に関する知識と予防に向けた取り組みを広め、理解を深める
・ 定期的に歯科検診を受けることを推奨する
・ 必要に応じて歯科保健指導を受けることを推奨する
・ 障害者、介護を必要とする高齢者などが定期的に歯科検診を受けられる施策を検討する
・ 個別的または公衆衛生の見地から行う歯科疾患(虫歯や歯周病など)予防などの措置をとる
・ お口の健康に関する調査および研究の推進を行う

以上のように、各自治体において具体的な取り組みを実施することが定められました。
しかしながら、そのサービス内容や条例は各自治体によって異なり、今後の環境整備の拡充が求められます。

加入健保・自治体のサービスをチェックしよう

各自治体によって条例やサービスの内容は異なりますが、口腔保健の環境整備の動きが広がりつつあります。
健康で明るく元気に生活する期間、つまり寝たきりや痴呆にならならずに自律している期間のことを「健康寿命」といいますが、日本人は平均寿命が長い一方、健康寿命との解離が大きい(9~13年)ことが問題視されています。
歯と口は、「食べる」「味わう」「話す」といった、人がQOLを保って生きる上で重要な役割を持っています。
歯の寿命を延ばすことは、健康寿命を延ばすためにとても大切なのです。
職場の福利厚生や自治体において歯科健診のサービスが受けられる場合もありますので、この機会に、加入健保や地域の取り組みを調べ、自主的に歯科健診を受けることをおすすめします。
8020推進財団
日本口腔保健協会

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高橋 さなえ株式会社ドクタートラスト 産業保健部 保健師

投稿者プロフィール

会社員時代に産業保健に興味を持ち、保健師になりました。
企業勤めの経験を活かし、はたらく人にとって身近なテーマを発信させていただきます!

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