小さな子どもがいる家庭にとって「幼児教育無償化」はビッグニュースだったではないでしょうか。
今回は、幼児教育無償化に伴う「働き方の変化」と「今後の課題」についてまとめたいと思います。
2019年10月より無償化スタート!
無償化の範囲は以下です。
■ 3歳児~5歳児
認可保育園、幼稚園、こども園:無償
上記以外の預かり保育等:補助上限37,000円まで
(内閣官房「幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書」(平成30年5月31日公表)より)
■0歳児~2歳児
認可保育園:補助上限42,000円まで
発端は、内閣府の“人づくり革命”
これまで保育士の薄給が問題視されており、「高額な保育料も仕方ない」「手のかかる小さな子を見てくれているのだから当然だ」との意見も少なくなかったでしょう。
そんな最中、幼児教育無償化に至った理由とは?
背景には、前代未聞の超少子高齢社会に突入し、人生100年時代をどう生きるかという問題に直面した我が国の動きがあります。
若者から高齢者まですべての世代の人が元気に活躍し続けられる社会を築くためには、幼児教育や義務教育をはじめとする質の高い教育を生涯通じて受けられることが必要である、との考えから、人材投資に力を注ぐこととなったわけです。
「人づくり革命」には様々なプランがあり、幼児教育無償化はその一つです。
人づくり革命とは
新しい経済政策パッケージの一つ。
新しい経済政策パッケージとは、「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪として、少子高齢化という最大の壁に立ち向かうため2020年度までに取り組んでいく政策のこと。平成29年12月8日、閣議決定された。<参考>
内閣府「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)
子どもをもつことが不安な日本
20、30 代の人が子どもを持たないのは「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が最大の理由といわれています。
実際、国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(2015 年)に よると、妻が 50 歳未満である初婚同士の夫婦のうち、予定子供数が理想子供数を下回る夫婦を対象に行った質問において、理想の子供数を持たない理由について、30 歳未満では 76.5%、30 歳~34 歳は 81.1%が「子育てや教育にお金が かかりすぎるから」と回答しています。
わが国の少子化問題は、子どもをもつことへの経済的な不安が大きいようです。
主に女性の働き方が変わる?
幼児教育無償化によって、主に影響を受けるのは女性(母親)の就業形態ではないでしょうか。
男性の育児休業も徐々に認められつつあるとはいえ、出産・育児によって働き方の選択を迫られるのは現在は主に女性です。
女性の就業率が高まった昨今でも、約6割の女性が出産を機に仕事を辞めているというデータもあり、退職しないまでも、フルタイムから時短勤務に変更したり、パートやアルバイトへ転職するなど、さまざまな選択肢があります。
・ 無償化によって経済的負担がなくなるため、その分収入をおさえた働き方を選択する(フルタイム以外の増加)
・ 無償化によって経済的負担がなくなるため、少しでも収入を得たい、社会に出たい(パート、アルバイトの増加)
などが想定されます。
また、子どもをもつことの経済的な不安が軽くなるとすれば、
・ 出産回数が増え、就業期間のうち産休・育休の総取得期間が増加する
・ 無償化によって経済的負担がなくなるため、早期に復職を希望する人が増加する
早期に復職を希望する人が増えれば、
・ 保育園への入園が困難となり、入園を希望する人の不満が募る
・ 育児休暇最大2年との兼ね合いで、1歳児・2歳児入園がより困難になる
・ 少しでも収入を得たい、社会に出たい人の増加により待機児童問題に拍車がかかる
ことも想定されます。
待機児童問題は解決せず
無償化の対象となる家庭にとっては、ありがたい制度でしょう。
また、「収入の多くが保育料に消えるため、無理して仕事をする意味が見出せない」など、高額な保育料がネックとなり就業をあきらめていた人にとっても嬉しいニュースであり、労働人口が増えるきっかけともなるでしょう。
しかし、受け皿である保育園の待機児童問題は解消されたわけではありません。
「働きたくても保育園に入れない」、「保育園に入れないため仕事を辞めざるを得ない」という人にとっては、不公平感がより増す可能性も示唆されます。
幼児教育の義務化はまだ
無償化には以下のような疑問の声も挙がっているようです。
・ 無償化にすることは、我が国の政策の優先順位として合っているのか?
・ 無償化よりも全入化・義務化をしたほうがいい
・ 富裕層までを無償化にする理由があるか
・ 消費税増税(10%)を財源にするのは本末転倒であり、不公平である
日本の義務教育は、ご存じの通り、小学校と中学校の9年間のみです。
幼児期の教育や社会性が人間の発達において重要であるといわれてはいるものの、保育園も幼稚園も義務教育ではないため、通園は親の任意に委ねられているのが現状です。
3~5歳児において、約20万人もの子どもたちが通園しておらず、幼児教育からこぼれ落ちているという実態から目をそらすことはできません。(出典:東京都福祉保健局)
これらの子どもたちは、児童虐待の被害者であるケースも多く、幼児教育の義務化によって自動虐待の発見に大きな貢献をすることは、いうまでもありません。
疑問の声や今後の課題はあり、企業としても、子育て世代の働き方について変化があるかもしれません。