2020年6月にハラスメント法が施行され、大企業は相談窓口の設置が義務となりました。
中小企業でも従業員のケアに力を入れているところは、早くも「内部相談窓口」もしくは「外部相談窓口」の設置に取り組んでいらっしゃいます。
しかし、実際に会社で窓口を担当されている方からお話を聞くと、以下のような悩みがあるようです。
「あまり社員の方からの相談がもらえない」
「転職・退職が決まってから原因となった件について詳しく話がきける」
「問題が起こっている最中には相談してもらえない」
今回は、「なぜメンタル不調者は相談してくれずに離職・退職の選択になってしまうのか」「企業で実際に行っている改善対策」をわかりやすく解説します。
メンタル不調者を出さないための企業の取り組み
まず、企業としては『職場におけるハラスメント』に対し、下記を設けることが必要となってきます。
【義務】
事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
①から③までの措置と併せて講ずべき措置
【望ましい取り組み】
・コミュニケーションの活性化や円滑化のために研修等の必要な取組を行うこと
・適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組を行うこと
ハラスメントの悩み・メンタル不調に悩まれている従業員の方が相談できない理由として、さまざまな心理的圧迫感や負荷がかかっている可能性があります。
また実際にご相談をいただく中で、ご家庭のお悩みからメンタル不調に陥られる方は、予想よりも多い印象を受けました。
業務に関することであれば、まだ比較的相談しやすいのかもしれませんが、プライベートな悩みとなると、本当にボロボロになるまで誰にもご相談できないといった歯痒い事例もあります。
気の置けない同僚・友人だからこそ、逆にご相談ができないという場合には、外部機関を頼ることも非常に重要です。
「病院・メンタルクリニックに行く」ことに抵抗を感じる方には、まず、産業医・産業保健師にご面談設定を進めてあげてください。
その際に、管理監督者の方が一度面談をするとなお良いです。
周知の大切さ
メンタル不調に陥った方が重症化してしまう要因は「相談先がない・わからない」の他にもう一つあります。
それは、自分の相談内容が誰かほかの人の耳に入るのではないか?という「秘匿性に対する不安」です。
産業保健新聞を運営するドクタートラストには医療職が複数名在籍していますが、その中で特に感じることは「秘匿性の高さ」です。
医療職従事者はその性質上、機微な個人情報を取り扱います。
そのため高い職業倫理が求められ、現在ではほぼすべての医学校の卒業式で以下の宣誓がなされています。
ヒポクラテスの誓い(一部抜粋)
・私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
・医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
上記は2000年前に書かれた、医師の職業倫理に関する宣誓文であり、現在も医療倫理の根幹をなしております。
また、医療職・医薬品販売業者・弁護士などの方々が守秘義務規定を違反し、秘密漏示をした際には刑法にて裁かれます。
「個人情報の秘匿に対して資格取得上の守秘義務規定を持っている」相手が相談先というのは、安心できる大きな要素だと思います。
他社様の実例
最後に、他社様での例についてご紹介させていただきます。
【 A社 】
若年層の離職率についてお悩みの企業様から保健師導入のご相談をいただきました。
せっかく業務に馴染んできたころに辞めてしまうので、長く勤務する社員が減少してしまうという課題を解決するために、産業保健師の導入後、若年層を中心に全従業員の面談をしています。
現在も継続して面談をしていますが、社内人事担当者がきけないお話を聞くことができるなど、メンタルケアの部分で充分な効果を感じているそうです。
やはり経験豊富な保健師が対応するということで、従業員の方も安心感を持って面談を受けてくれているように思います。
また、こちらの企業様ではもう一つ特徴的な部分として、上級役職者の方が産業保健師との面談を、自身も利用したことがあるということを周知していることです。
重複にはなりますが、やはり敷居を低くするためには「誰かが利用していた(面談者に近い方もしくは上級職の方)」という実績があると効果が高いという裏付けになっているように感じます。
【 B社 】
社内でハラスメントに関するトラブルのあった企業様の改善への取り組みについてお話をいただきました。
この企業様では、各拠点ごとに意見箱を設置するという取り組みを行っています。
なお、意見箱への投書は「直接役員に届く(直上長や先輩の目を介さず)」などの決まり事があります。
こちら意見箱は利用率が高く、役員の方や社長がきちんと従業員の皆様の声に目を通し、参考にしていたことが大変印象的です。
現在は意見箱の設置にとどまっておりますが、今後従業員の年齢層に合わせて別のアプローチも考えているとのこと。
こちらの企業様につきましては、管理職からの意見と現場からの意見という多角的な視点を持てることが一番特徴的なのではないでしょうか。
裾野の広い企業様でも、匿名性という安心感が利用率の向上につながっているように感じますね。
<参考>
・ 厚生労働省「明るい職場応援団」
・ 厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」
・ 厚生労働省「第5章 相談体制」
・ 厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」