コロナ禍におけるカスタマーハラスメントの増加~厚労省から企業向け対策マニュアルが公開されました~

皆さんはカスハラという言葉をご存知でしょうか。
カスハラは正式には「カスタマーハラスメント」という2018年頃に生まれた造語で、以下のように「カスタマー(顧客・消費者)が従業員・企業に対し、高圧的な態度で過度の謝罪や理不尽な要求を求めること」を指します。

顧客等のクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
出所:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(PDF)」

私自身はあまり目にしたことがなかったため(気づいてないだけかもしれませんが)のですが、知人友人から予想の斜め上をいく事例をいくつも聞くことができました。

・ 明らかに新品ではない状態の衣類を手に「娘が勝手に買ったものだから返金して!」とレジに怒鳴り込まれた
・ 賞味期限前の封を切ってある商品を持ち込み「中身が腐っている!」とレジで延々、返金と謝罪を求められた など

映画やドラマのフィクションであれば奇想天外な発想をする人もいるもんだなと笑ってしまうところですが、実害を受けているのが当事者や親しい友人だと、そうも言っていられません。
コロナ禍による環境の変化、ストレスの溜まりやすい世情にあるためか、カスハラの被害はここ数年で増加傾向にあり、今一度、従業員をどう守るかに焦点が当たる時期が来ています。

件数が増加しているカスハラの実情

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社「令和2年度「厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」」では、過去3年間のハラスメント相談件数は、高い順にパワハラ(48.2%)、セクハラ(29.8%)、カスハラ(19.5%)と続くうえに、カスハラのみ「件数が増加している」の割合が「減少している」よりも多いという結果がでています。
なかでも被害数値の高い回答として、以下が挙げられました。

・ 長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの):52.0%
・ 名誉毀損・侮辱・ひどい暴言:46.9%

近年ではカスハラの内容も悪質化しており、従業員の精神疾患・休職・果ては離職に繋がってしまうケースも増加しています。
それは従業員にとっても企業においてもマイナスでしかありません。
ネット上には、クレーマーによるカスハラからストーカー事件や傷害事件に発展したケースも取り上げられており、悪質な客から従業員・企業を守る動きを取ることは急務といえます。

カスハラの具体的な対策をはじめよう

線引きが難しいカスハラの基準

現状、業態・業種・企業文化の違いから、制度・法的に明確なカスハラの定義はないものの、2022年2月25日に公開された厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアルマニュアル」では、各社で判断基準を明確にし、統一された対応方針を現場と共有することが重要とし、以下2点の尺度について言及しています。

① 顧客等の要求内容に妥当性はあるか
顧客等の主張について、まずは事実関係、因果関係を確認し、自社に過失がないか、根拠のある要求がなされているかを確認し、顧客等の主張が妥当かどうか判断します。
たとえば、顧客が購入した商品に瑕疵がある場合、謝罪とともに商品の交換・返金に応じることは妥当ですが、自社の過失、商品の瑕疵などがなければ、顧客の要求には正当な理由がないと考えられます。
② 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当か
顧客等の要求内容の妥当性の確認と合わせて、その要求を実現するための手順・大度・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるかを確認します。
たとえば、長時間に及ぶクレームは業務の遂行に支障が生じるという点から、社会通念上相当性を欠く場合が多いと考えられます。
また、顧客等の要求内容に妥当性がない場合はもとより、妥当性がある場合であっても、その言動が暴力的・威圧的・継続的・拘束的・差別的・性的である場合は社会通念上不相当であると考えられ、カスタマーハラスメントに該当し得ます。
一方、顧客等の要求内容に妥当性がないと考えられる場合でも、企業が顧客の要求を拒否した際にすぐに顧客等が要求を取り下げた等の場合は、従業員の就業環境を害されたといえず、カスタマーハラスメントには該当しない可能性があります。

企業としてカスハラ対策に取り組むために

企業ごとにカスハラを定義化させた後は、対策と事後対応について現場との認識共有が重要です、カスハラを発生させない策を講じることは非常に困難です。
そのため企業側が事前に従業員に周知する内容として、以下の4点があげられます。

・ 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
・ 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
・ 対応方法、手順の策定
・ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修

こうした社内周知を行うメリットとしては、会社側がカスハラ対策を講じることで、現場にいる従業員の精神的安定・安心感を得られることが考えられます。
また、カスハラに対する教育を実施することで自己判断を促し、従業員自身と企業にとっての自己防衛にも繋がることが予想されます。
次に、カスハラが実際に発生してしまった場合に備えた枠組み作りも必要です。

・ 事実関係の正確な確認と事案への対応
・ 従業員への配慮の措置
・ 再発防止のための取り組み
・ これらまでの措置と合わせて講ずべき措置

こうした対応を行うことで、普段現場にいることのない管理職が現象の把握による対策を講じ、全体への周知を図ることによる経験の蓄積と知識の共有が可能になります。
また、現場の従業員も対応方法がわかないことがストレスの一端になっていることが予想されるため、対応方法が明確化されることにより対応がスムーズに行えることで心理的負荷が多少軽減されることが考えられます。

最後に

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアルマニュアル」では、他のハラスメント対策として設置が義務付けられている「相談窓口」には言及がなされていないものの、業種によってはこうした窓口を設けることも検討してみるといいかもいしれません。
カスハラ対策の取り組みを行うことで、健康的で安全な職場の維持、ひいては離職率の低下や作業効率の増加が見込めるでしょう。

<参照>
・ 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(PDF)」
・ 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社「令和2年度「厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」」

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大月誠司株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

サービス業や人材紹介業を経てさまざまな業種、役職の人とお会いしてきました。
ストレスの形も業種や役職によって一つひとつ多様化してきていると感じております。
働く人の心と身体を健康にするお手伝いを、ドクタートラストで実現していきたいと思います。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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