
「新入社員や若手社員、中堅社員をどう育成するか」
これは多くの企業の人材育成担当者が直面している課題です。
2025年4月に東京商工会議所が公表した意識調査・集計の結果からは、現場のリアルな声が浮き彫りになっています。
本記事では、その調査結果をもとに、企業の人材育成担当者が抱える課題や期待、必要とされるスキルについてわかりやすく解説します。
新入社員に求められるのは「ビジネスマナー」と「基本スキル」
新入社員に対して最も強く求めているのは、「ビジネスマナー(64.2%)」「パソコンスキル(53.3%)」「電話応対(23.9%)」といった、基本的なビジネススキルであることが明らかになりました。
これらは社会人としての最低限の基礎力といえるもので、早い段階で身につけておくことが強く期待されています。
一方、近年注目される「生成AIに関する知識」を挙げた企業はわずか5.3%にとどまりました。
デジタル技術の活用が進む一方で、まずは人としての基本が大事だと考える企業が多いことが伺えます。
社会人1年目の新入社員が入社時点までに身につけて欲しいスキル・知識

出所元:東京商工会議所「企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査 集計結果」
また、「主体性(71.9%)」「実行力(34.2%)」「規律性(34.5%)」といった「社会人基礎力※1」の要素が重視されている点も見逃せません。
これらは経済産業省が定義する力ですが、今後の社会人生活の土台となる重要な力として認識されているようです。
「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。
出所元:経済産業省「社会人基礎力」
若手社員への期待と現場の悩みとは?
Z世代の若手社員について、企業は「ITやデジタル関連のスキルがある(49.9%)」「効率性を重視した発想ができる(26.5%)」「自己成長への意欲が高い(24.7%)」といった前向きな評価をしている一方で、「打たれ弱い(42.2%)」「価値観や就労観が分からない(35.0%)」「承認欲求が強い(18.6%)」といった戸惑いの声も多く聞かれました。
つまり、若手社員にはポテンシャルを感じつつも、その育成には配慮が必要だと感じている企業が多い状況です。
特に、ストレス耐性や対人コミュニケーション力の不足に関する懸念が目立ちました。
Z世代の若手社員を指導・育成する際に困っていること

出所元:東京商工会議所「企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査 集計結果」
そのため、上司や指導役となる社員に対しては、「丁寧な指導(39.8%)」「若者の感覚や考え方を理解すること(30.0%)」「部下の意見を真摯に聞くこと(29.3%)」といった姿勢が求められています。
上から押さえつけるのではなく、共感と対話を重視した指導が、今の時代に合った育成スタイルといえそうです。
中堅社員の育成と「管理職になりたくない」問題
中堅社員の管理職育成については、企業の人材育成担当者が頭を悩ませているテーマのひとつです。
「管理職になることを希望する社員が少ない(34.5%)」「上長の育成力や指導意欲が不足している(32.1%)」「管理職候補になる人材が育っていない(29.7%)」といった声が上がっており、管理職のなり手不足が深刻化していることが分かります。
管理職候補の中堅社員の管理職への育成に関する企業としての課題

出所元:東京商工会議所「企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査 集計結果」
さらに、管理職になるために必要なスキルとしては、「後輩・チームメンバーの指導・育成力(47.7%)」「業務管理・進捗管理能力(46.4%)」「課題解決力(36.9%)」が重視されています。
いずれも、マネジメントに必要不可欠なスキルですが、それを持ち合わせた人材が十分に育っていない現状があります。
その背景には、「業務が忙しく育成に時間が割けない(28.6%)」「育成しようとしても離職してしまう(13.0%)」といった、人的リソースとエンゲージメントの問題が絡んでいるようです。
これからの管理職育成には、計画的な研修や個別支援がより重要になってくるかもしれません。
今回の調査結果から見えてきたのは、企業が新入社員には「基本的なビジネスマナー」、若手社員には「柔軟な対応とコミュニケーション力」、中堅社員には「マネジメントスキルとリーダーシップ」を期待しているという実態です。
一方で、それぞれの世代ごとに育成上の課題や悩みも抱えており、企業が一方的に期待を押しつけるのではなく、相互理解と丁寧なコミュニケーションによって成長を支える姿勢が求められています。
これからの人材育成においては、各層のニーズを正しく把握し、それに応じた柔軟で持続可能な育成戦略が必要不可欠と言えます。企業と社員がともに成長できる関係づくりが、未来の組織の鍵となるでしょう。
<参考>
・東京商工会議所「『企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員・中堅社員に対する意識調査』の集計結果について」