【精神障害の労災認定が史上初めて1,000件を突破】2024年度「過労死等の労災補償状況」
- 2025/8/4
- 労災

厚生労働省は2025年6月25日、令和6年度(2024年度)における「過労死等の労災補償状況」の詳細を公表しました。
この調査は、過度な業務負荷に起因する脳・心臓疾患、および強い心理的負荷による精神障害の労災補償に関する最新の動向をまとめたものです。
今回の公表では、請求件数および支給決定件数がともに過去最多を更新し、特に精神障害の労災認定件数が初めて1,000件を超えるという歴史的な転換点を迎えました。
職場におけるハラスメントや働き方の変化が、労働者の健康に与える影響の深刻さが改めて浮き彫りとなっています。今回は、最新の調査結果をもとに、過労死等の現状と今後の課題について解説します。
過労死等労災の請求、認定が過去最多を更新
2024年度における「過労死等」全体の労災請求件数は4,810件に達し、前年度の4,598件から212件増加し、過去最多を記録しました。
また、支給決定件数も1,304件となり、前年度の1,108件から196件増加し、同様に過去最多を更新しています。
このうち、死亡・自殺(未遂を含む)の件数は159件で、前年度の138件から21件増加しました。
これらの数値は、働き方改革が進む中でも、依然として多くの労働者が過重労働や精神的ストレスに直面しており、労災補償制度へのアクセスが増加している現状を示唆しています。
脳・心臓疾患に関する状況
脳・心臓疾患に関する労災請求件数は1,030件(前年度1,023件から7件増)、支給決定件数は241件(前年度216件から25件増)でした。
支給決定件数における認定率は30.8%であり、前年度の32.4%から微減しています。
支給決定された241件を「時間外労働時間」別に見てみると、最も多かったのは「1か月間の時間外労働時間が100時間以上120時間未満」で18件でした。
次いで、「1か月間の時間外労働時間が80時間以上100時間未満」が17件となっています。
さらに、発症前2か月間から6か月間における1か月あたりの平均時間外労働時間が80時間以上100時間未満のケースでは63件が支給決定されており、この範囲が最も多い時間帯となりました。
これは、単月での極端な長時間労働だけでなく、数か月にわたる累積的な疲労が脳・心臓疾患の発症に深く関与していることを示唆しています。
死亡に至ったケースでは、請求件数が255件、支給決定件数が67件(認定率28.9%)でした。
これらの結果は、過重な業務が身体的健康に及ぼす深刻な影響を改めて浮き彫りにしています。

出所:厚生労働省「業務災害に係る脳・心臓疾患の労災補償状況」

出所:厚生労働省「業務災害に係る脳・心臓疾患の労災補償状況」
さらに、「複数業務要因災害」として認定された脳・心臓疾患は、決定件数が20件(前年度18件から2件増)、支給決定件数が6件(前年度5件から1件増)でした。
これは、一つの職場での過重労働だけでなく、兼業・副業など複数の職場での労働が合算されて過重な負荷と判断されるケースが増加傾向にあることを示しており、多様な働き方が進む現代において、労働時間管理の複雑化と健康リスクへの新たな対応が求められています。

出所:厚生労働省「複数業務要因災害に係る脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」
精神障害に関する状況~パワハラが主要因、認定件数1,000件超え
精神障害に関する労災補償状況は、特に憂慮すべき結果となりました。
2024年度の請求件数は3,780件(前年度3,575件から205件増)で、支給決定件数は1,055件(前年度883件から172件増)となり、過去最多を6年連続で更新し、初の1,000件超えとなりました。
支給決定件数の認定率は30.2%です。

出所:厚生労働省「業務災害に係る精神障害の労災補償状況」
精神障害の支給決定1,055件を詳しく見ると、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が224件(全体の21.2%)で最も多く、2年連続で最多要因となっています。
これに続き、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が119件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(カスタマーハラスメント)」が108件でした。これらのデータは、職場における人間関係、特にハラスメントが労働者の精神的健康に甚大な影響を与えている実態を示しています。

出所:厚生労働省「業務災害に係る精神障害の労災補償状況」
時間外労働時間別の支給決定件数では、「1か月間の時間外労働時間が100時間以上120時間未満」が74件で最多であり、精神障害も長時間労働との関連性が高いことが改めて確認されました。自殺(未遂を含む)の件数は、支給決定が88件でした。

出所:厚生労働省「業務災害に係る精神障害の労災補償状況」
「複数業務要因災害」として認定された精神障害の件数も、決定件数15件(前年度11件から4件増)、支給決定件数2件(前年度4件から2件減)と推移しており、複数の業務が複合的に影響して精神的な健康問題を引き起こすケースも存在します。

出所:厚生労働省「複数業務要因災害に係る精神障害の労災補償状況」
調査結果をふまえて
これらの調査結果は、過労死等防止対策の一層の強化が急務であることを明確に示しています。
特に、ハラスメント対策の徹底、労働時間管理の適正化が、企業にとって急を要する課題となっています。労働者の心身の健康を守り、誰もが安心して働ける職場環境を整備することが、持続可能な社会の実現に不可欠であると言えるのではないでしょうか。
<参考>
・厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」
・厚生労働省「業務災害に係る脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」
・厚生労働省「業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況」
・厚生労働省「複数業務要因災害に係る脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」
・厚生労働省「複数業務要因災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況」