転勤はキャリアアップから離職要因へ?2025年企業調査で見えた働き方の変化

転勤制度は、企業の人材配置やキャリア形成に欠かせませんが、働き方の多様化が進む現代において大きな課題となっています。
東京商工リサーチが2025年8月28日に発表した「企業の転勤に関するアンケート調査」では、全国6,691社の回答から、転勤制度の実施状況や従業員の離職リスク、さらに柔軟な転勤制度の導入度合いが明らかになりました。
本記事では、調査のポイントを整理し、企業が直面する転勤制度の課題と今後の展望を解説します。

転勤実績の現状 大企業と中小企業で大きな差

調査によると、「転勤・配置転換・グループ会社への転籍」の実績があると回答した企業は全体で36.2%にとどまりました。
しかし、大企業(資本金1億円以上)に限るとその割合は75.6%に達し、中小企業(資本金1億円未満)の32.3%と比べて倍以上の差が生じています。

この背景には、大企業が全国に複数の拠点を持ち、人材の最適配置やキャリア形成の一環として転勤制度を積極的に活用している実情があります。
一方、中小企業は地域密着型の事業が多く、そもそも転勤の必要性が少ないことが影響していると考えられます。

また、業種別に見ると「金融・保険業」が最も高く60.0%、次いで「運輸業」52.6%、「卸売業」42.1%、「製造業」37.8%と続きました。
反対に「不動産業」は24.5%と最も低く、業種ごとに転勤の必要性や文化に大きな違いがあることも明らかになっています。

転勤が退職を招く現実 3社に1社以上で離職の事例

転勤制度は企業の都合に応じた人材配置を可能にしますが、従業員にとっては生活環境や家族の事情を大きく左右する要因となります。
調査では「過去3年以内に転勤や配置転換を理由に従業員が退職したか」を尋ねたところ、全体の30.1%が「退職があった」と回答しました。特に大企業では38.0%と高く、中小企業の28.3%を上回っています。つまり、大企業の約4割で転勤が原因となる離職が発生しているという深刻な実態が浮き彫りになりました。

この傾向は、共働き世帯の増加や、介護・育児などライフイベントを抱える社員の増加とも関係しています。
従来であれば「転勤はキャリアの一環」と受け入れられていた制度も、現代では「退職の引き金」となるケースが増えています。
企業にとっては、せっかく採用・育成した人材を転勤で失うことは大きな損失であり、人材定着戦略上の大きなリスクだといえます。

柔軟な転勤制度の導入は進まず 対応に遅れる企業が多数

転勤が離職につながっている現状を踏まえ、社員の意向を尊重する制度の導入が求められています。
たとえば「転勤の可否を社員が選択できる制度」や「勤務地限定社員制度(エリア社員制度)」、さらに「転勤手当や支援金」などです。

しかし今回の調査によると、こうした柔軟な制度を「導入している」または「直近3年以内に見直した」と回答した企業は全体のわずか14.6%にとどまりました。
大企業でも31.1%、中小企業に至っては12.6%と低水準であり、多くの企業が十分な対策を講じられていないことがわかります。

さらに大企業の半数以上が「柔軟な転勤制度を導入する予定はない」と回答していることも明らかになっています。
つまり現時点では、転勤制度改革に積極的な企業はまだ少数派にとどまっています。

一方で、あいおいニッセイ同和損害保険など一部企業では「転勤可否を社員が選択できる仕組み」を導入し、育児や介護中の社員が働き続けられるような工夫しています。
このような取り組みは、人材流出を防ぐ有効な手段となっていると考えられます。


2025年の調査結果から、転勤制度は依然として多くの企業で存在しているものの、その運用が従業員の離職につながっている現状が明らかになりました。
さらに、柔軟な制度を導入している企業は少数派にとどまっており、多くは課題に対応できていない状況です。

企業が今後も持続的に成長していくためには、「転勤は当たり前」という従来の発想から脱却し、社員一人ひとりのライフスタイルに合わせた柔軟な制度設計が不可欠です。
転勤制度を見直すことは、福利厚生の改善にとどまらず、企業の将来的な競争力を考える上でも検討すべきテーマといえるのではないでしょうか。

<参照>
東京商工リサーチ「『転勤』で従業員退職、大企業の38.0%が経験 柔軟な転勤制度の導入 全企業の約1割止まり 」
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社「人財マネジメント」

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白惟 ようすけ株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

15年以上にわたり、広告代理店を数社渡り歩きながら、数百社にわたるクライアント様のWebサイト改善に携わってきました。今度は、代理店の立場から自社サイトの運用・改善になりますので、業界知識はもちろんのこと、常に新しい施策を盛り込みながら貢献していきたいと思います。
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