転倒対策わずか9.1%、高齢者安全対策も32.1%~東京労働局調査で見えた労災防止の課題~

はじめに

東京労働局は、2024年度年末・年始Safe Work推進強調期間(2024年12月1日~2025年1月31日)における取組の一環として、東京労働局管内の事業場を対象とした労働災害防止対策の取組に係る自主点検を実施し、その結果を取りまとめ、公表しました。
自主点検は、東京労働局管内の10,000事業場を対象とし、有効回答数は1,980事業場(19.8%)でした。
労働災害の防止や改善など、行政の呼びかけや法令を通した取り組みは行われていますが、実際に取り組みを行うのは各企業です。
そのような中で、東京労働局は各企業の取り組みの実態を把握するため調査を行い公表しましたので、調査結果を踏まえて解説します。

結果の概要

結果の概要は大きく3つに分けて公表されました。

1. 労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策の取組

労働者の「転倒」を防止するためハード・ソフト両面の対策を実施している事業場の割合は9.1%(181事業場)。
小売業、社会福祉施設の事業場における正社員以外の労働者に対する何らかの安全衛生教育を実施している事業場の割合は85.7%(709事業場)。

2. 高年齢労働者への労働災害防止対策の取組

「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組を実施する事業場の割合は32.1%(636事業場)。

3. 業種別の労働災害防止対策の取組

墜落・転落災害の防止に関するリスクアセスメントに取り組む建設業の事業場の割合は87.4%(76事業場)。
陸上貨物運送事業等の事業場において、「陸上貨物運送事業における荷役作業の安全対策ガイドライン」に基づく措置を実施している事業場の割合は40.6%(803事業場)。
機械による「はさまれ・巻き込まれ」防止対策に取り組む製造業の事業場の割合は94.1%(177事業場)。

この結果から、特に「転倒対策」や「高齢労働者の安全対策」は、まだまだ実施率が高くないことがわかります。
日本社会の問題として少子高齢化がありますが、労働力としても若い世代のみに頼ることが難しい時代となっています。
また、技術や文化、歴史を繋いでいくためにも、高齢労働者(ベテラン)の働きやすい環境を整えることは、企業を守っていくためにも必要であると言えます。
これらのは東京労働局管内の事業場を対象としているため、全国の事業場を対象とした場合、さらに多くの事業場で各種対策ができていない可能性があるのではないでしょうか。

労災における過去の判例から学ぶ

業務中の不慮の事故により労災認定された判例は複数存在します。
これらの事例が起こった背景には、「自分たちに起きることはないだろう」という安易な考えや、「これが社風だからしかたない」とそもそも従業員がその環境を当たり前と感じていたケースが見受けられます。
特に「社風」というのは、なかなか変えることが難しいかもしれません。
従業員は企業の駒ではなく、会社を支えている存在であることを改めて考える機会を設けることで、これまでの会社の文化を無くすのではなく、新しく進化することができるのではないでしょうか。
実際の判例は、厚生労働省や裁判所のウェブサイト等で確認することができますので、同業種の過去の事例としてどのようなことが起きているのかを確認し、経営層と従業員が一丸となって課題解決に取り組むことが望まれます。

産業医の活用も

50名を超える事業場で選任義務が発生する産業医の業務は、従業員の健康管理や衛生委員会などをはじめ、職場巡視も義務付けられています。
職場巡視では、危険要因排除の指示や作業管理の改善のための助言といったことを確認します。
慣れた環境では、従業員も危険要因に気付きにくかったり、安全意識が薄まる場合がありますが、医師としての目線と第三者目線から、労働災害などの予防に繋げることができます。

法令を満たして終わりではなく、有意義な取り組みとなるよう企業と産業医、産業保健会社などが連携を取っていくことが大切です。

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金子剛己株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

消防士として約5年勤務。うち3年間は救急隊員を務めました。投資用不動産の営業経験を重ねたのち、ドクタートラストに入社しました。
応急救護に関するお話や震災時の行動などを都民の方に指導する経験から、医療や健康の大切さを肌で感じました。
遠いようですごく身近な応急救護や産業医・保健師などについて情報発信ができるよう努めてまいります。
【保有資格】救急技術(庁内資格)、応急手当指導員、危険物乙4類
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】
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