人材育成の取り組み、課題は企業規模によってどう異なる?JILPT調査で明らかになったこととは
- 2025/4/23
- 人材育成

近年、企業の競争力を高めるために、人材育成と能力開発は不可欠な取り組みとなっています。
しかし、企業の取り組みや労働者の自己啓発の状況には、規模や業種によって大きな差があるのが現状です。
企業は従業員のスキル向上を求める一方で、適切な教育機会の提供が課題となっています。
2025年3月13日、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が発表した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(以下、本調査)は、企業と労働者の両面から日本の人材育成の実態を明らかにしました。
本記事では、調査結果をもとに、企業の取り組み、労働者の能力開発状況、そして直面する課題について解説します。
企業の人材育成・能力開発の取り組み状況
本調査によると、従業員に対する人材育成・能力開発の方針を定めている企業のうち、「今いる人材を前提に、その能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」と回答した企業が28.4%と最も多くなっています。
一方で、「人材育成・能力開発の方針について特に定めていない」とする企業は約21.9%に上り、特に従業員数が9人以下の小規模企業では約30.6%が方針を定めていない状況が明らかになりました。
また、業務命令に基づき、通常の業務を離れて行う教育訓練・研修(OFF-JT)を実施した企業は全体の31.6%でした。
これに対し、従業員の自己啓発に対する支援を行った企業は29.2%にとどまっています。
企業規模別にみると、規模の大きい企業ほどこれらの取り組みを積極的に行っており、従業員数300人以上の企業ではOFF-JT実施率が76.1%、自己啓発支援実施率が61.1%に達しています。
一方で、9人以下の企業ではそれぞれ16.2%、20.8%と大幅に低い水準となっています。

出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(PDF)」

出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(PDF)」
労働者の能力開発への参加状況と課題
本調査の結果、2023年度にOFF-JTを受講した労働者は全体の13.7%にとどまりました。
また、自己啓発を実施した労働者の割合も14.9%と低い数値を示しています。
企業規模別にみると、従業員数300人以上の企業に勤務する労働者のOFF-JT受講率は17.1%でしたが、9人以下の企業では4.5%にとどまり、企業規模が小さいほど人材育成の機会が限られていることがわかります。
自己啓発を行わなかった理由として、「仕事が忙しくて時間が取れない」が32.8%と最も多く、次いで「自己啓発を行っても会社で評価されない」が26.1%を占めました。
特に、小規模企業では研修制度が整っていないことが多く、労働者自身が自主的に学習することが求められますが、時間的・経済的な負担が大きいため、自己啓発を諦めるケースも少なくないと言えます。

出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(PDF)」
人材育成・能力開発における企業の課題
企業が人材育成・能力開発を進める上で直面する課題として、「指導する人材が不足している」が33.5%と最も多く挙げられました。
次いで「人材を育成しても辞めてしまう」が32.1%、「人材育成を行う時間がない」が30.8%となっています。
特に小規模企業では、従業員が日々の業務に追われる中で、計画的な能力開発を行うことが難しい現状があります。
また、研修を実施しても、スキルを身につけた従業員が他社に転職してしまうケースもあり、人材育成に対する投資対効果を懸念する企業もあるのではないでしょうか。
今回の調査結果から、日本の企業における人材育成と能力開発の取り組みには、企業規模による格差があることが明らかになりました。
特に小規模企業では、人材育成の方針が定まっていない、指導者不足、時間不足などの課題が浮き彫りになっています。
一方、大企業では一定の取り組みが行われているものの、労働者の意識や評価制度の問題から、自己啓発が十分に進んでいないことが課題となっています。
これらの課題を解決するためには、企業が明確な人材育成方針を打ち出し、研修制度を整備することが必要ではないでしょうか。
また、政府や業界団体が支援策を拡充し、企業規模に関わらず従業員が学び続けられる環境を提供することが求められます。
人材育成は企業の成長だけでなく、日本全体の競争力を左右する重要な要素です。今後の政策動向や企業の対応に注目が集まります。
<参考>
出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(PDF)」