私たちの「食」に欠かせない消化器官を知ろう!食道編

私たちが生きていく中で欠かすことができない行動はいくつもあります。
その中でも「食べる」という行動は、生理的欲求を満たすために非常に重要な行動です。
私たちは毎日何かしら食べて生きています。
また「食べる」という行動をとおして、家族や友人などと楽しく過ごすことができたり、美味しいものを食べて幸せに感じたりなど、生命維持だけではなく精神衛生にも大きく関わっています。
そして食に欠かせないのが、消化や吸収、排泄などの過程を担う臓器の存在です。
今回から3回にわたって「食」にまつわる臓器についてお話しします。
第1回目はこのうち「食道」の役割や気を付けたい病気、予防方法を解説します。

① 食道の役割は?

食道は口腔と胃をつなぐ長さ約25㎝の管状の臓器です。
食道の粘膜は扁平上皮という皮膚と同じ細胞でできています。
私たちが飲み込んだ食べ物は、重力で胃の中へ落ちていくわけではありません。
食道の壁は筋肉でできており、蠕動(ぜんどう)運動という筋肉が上から下へ収縮を繰り返すことで、胃へ送りこんでいます。
この機能があるおかげで、横に寝転がって食事をすることも可能です。
蠕動運動に加えて、食道と胃のつなぎ目にある逆流防止の機能(食道括約筋)によって胃の内容物が戻ってこないようになっています。
また、食道は外界からのさまざまな刺激や細菌などにさらされやすく、酸やアルカリに弱い特徴があります。

② 食道疾患

食道に起きる病気はいくつかありますが、ここでは比較的罹患する人が多く、有名なものをとりあげます。

(1)逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃酸が胃から食道に逆流してしまうことで、胸やけや呑(どん)酸(さん)(酸っぱいものがあがってくる)などの症状を感じたり、食道の粘膜がただれたりする病気です。
近年増加しています。

●原因
・ 食べ過ぎにより胃に大量の食べ物が入ると、胃が下に引きのばされて食道括約筋が緩んでしまい、胃酸が逆流しやすくなる
・ 加齢により食道の動きが低下することにより、胃酸の逆流を胃へ押し戻すことができない
・ 食生活が欧米化
・ 喫煙や飲酒などの生活習慣

(2)食道静脈瘤(じょうみゃくりゅう)

食道静脈瘤は、肝硬変が原因で生じる病気です。肝硬変になると血液が肝臓に流れにくくなり、本来肝臓に流れるはずの血液が食道の表面を通る血管に流れてしまい、その血管が太く脆くなります。
この状態を食道静脈瘤と呼びます。食道静脈瘤は食道の内側に凹凸をつくるため、硬いものを食べるだけでも傷つき、出血を起こす可能性があります。
破裂した場合、吐血や便が黒くなる、血圧低下によって起こるめまいやふらつきなどの症状が出現します。

(3)食道がん

食道がんは、食道にできるがんで、早期発見が難しいがんといわれています。
進行するまで無症状のことも多く、飲み込みにくいなどの症状が現れたときには、ある程度の大きさになっていることもあります。
初期の段階で症状がある場合は、食べ物や飲み物がしみる、声がかすれる、食べ物がつまる感じがあるなどです。
厚生労働省の人口動態統計によると、日本における食道がんによる死亡者は毎年10,000人を超えています。
2021年の食道がんによる死亡者は10,958人で、そのうち8割は男性です。
男性は50歳頃から発症が増加し、好発年齢は60~70歳代です。
食道がんが限局(食道にのみ)の場合の5年生存率は80%ですが、遠隔転移(遠隔の臓器やリンパ節などに転移、浸潤している状態)している場合は、10%となります。
また、食道がん全体の5年生存率は41.5%であり、同じ消化器官である胃がんは66.6%、大腸がんは71.4%とくらべて予後が悪いといえます。
食道は壁が薄く、周囲の臓器に浸潤しやすい特徴を持っており、食道の周囲には心臓、肺、気管などの重要な臓器が存在しています。
そのため、進行スピードが速く、治療も難しい場合が多いがんとなります。

●原因
・ 喫煙
・ 飲酒
・ 熱い食べ物や飲み物、辛いものをよく摂取する
・ 野菜やくだものをあまり食べない など

③ 食道疾患を予防するために

食道疾患を予防するために「②食道疾患」で取り上げた原因をできる限り避けましょう。下記にあげるものの中から、まずは一つからでも良いので取り組みましょう。「今さらやっても意味ないでしょ」と思わず、今日から意識し取り組むことが非常に重要なステップになります。

●禁煙する

たばこはあらゆる病気の発症リスクを高めるといわれており、4,000種類以上の化学物質と250種類以上の発がん性物質が含まれています。
食道は、たばこの有害な煙に常にさらされている状態のため、食道が傷つき、病気発症のリスクを高めるので、禁煙しましょう。

●飲酒を控える

肝臓でアルコールが分解される過程で生じるアセトアルデヒドは発がん性物質であり、二日酔いを引き起こす物質として知られています。
このアセトアルデヒドを分解する酵素が日本人などの黄色人種には少ない人が多いといわれています。
肝臓で分解しきれなかったアセトアルデヒドが、再び血液に戻って全身にめぐり、そして肺に運ばれ、呼気に含まれたアセトアルデヒドは食道に付着します。
これが食道がんを引き起こすリスクになります。
アルコールを摂取した時に顔が赤くなる人は、アルコール分解酵素が少ないので、より注意が必要です。
アルコールに弱い人は、飲む機会をできる限り減らすほうが良いでしょう。また、休肝日を設定すること、1日の量を1合程度にするなど節酒することが必要です。

食道がんの最も大きな原因は喫煙と飲酒です。
食道がんに罹患している日本人男性の81.4%は飲酒または喫煙が原因で発生しており、喫煙単独では55.4%、飲酒単独で61.2%が原因となっていると研究で明らかになっています。
どちらか一方をやめるだけでも約6割近く、さらに両方やめることで約8割が予防できるといわれているので、取り組む価値は非常に高いです。

●食生活改善に取り組む

満腹まで食べることによって、胃酸が逆流しやすくなります。腹八分目を意識しましょう。
また、就寝前(2~3時間)の食事は避けることがベストです。
厚生労働省「健康日本21」では、野菜は1日350g必要と提言されています。(生なら両手で3杯分、茹でなら片手で3杯分が目安)
野菜の摂取を増やすことで、病気のリスクが低減するので、積極的にとりましょう。
また、逆流しやすい食品を食べ過ぎないようにしましょう。

<特に食道疾患に良い野菜>
キャベツ、白菜、大根、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、水菜、カブ、チンゲン菜 など
<逆流しやすい食品>
アルコール、コーヒー、炭酸飲料、脂っこい食べ物、甘いもの、香辛料などの刺激物、酸味が強いもの など

<参考>
厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況」
厚生労働省e-ヘルスネット「野菜、食べていますか?」
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計2009-2011年生存率報告」
Isao Ozeほか「Revisit of an unanswered question by pooled analysis of eight cohort studies in Japan: Does cigarette smoking and alcohol drinking have interaction for the risk of esophageal cancer?」(「Cancer Medicine」2019年10月号)

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保健師 大島かよ

投稿者プロフィール

病棟・クリニックでの患者さんとの関わりの中で、「もっと早く治療開始できていれば」、「病気になる前に何かできないか?」と考えるように。その思いから次第に予防に興味を持ち、「働く世代」に対するアプローチがしたい!と、産業保健の世界へ飛び込みました。
現在産業保健師として数社訪問、健保で特定保健指導を担うフリーランスの保健師です。
自分の経験なども盛り込みながら、産業保健に関連する情報を発信していきます。
【取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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