男性トイレにも生理用品を設置~貧困、活躍、健康・権利の視点からみる社会の動き~

コロナ禍に女性の貧困がクローズアップされたことも契機となって、近年叫ばれるようになった「生理の貧困」。
その主役である生理用品を女性トイレに設置する学校や企業、商業施設などがみられるようになってきました。
東京大学では、2023年度から女性トイレだけでなく、男性トイレや多目的トイレにも設置しています(※1)。
今回は、広がりを見せる生理用品をめぐる動きを、①生理の貧困、②女性の活躍推進、③セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの3つの側面から見ていきます。

「生理の貧困」から見る生理用品~生理用品代は生涯53万円超~

皆さんは「生理の貧困」をご存知でしょうか?
「経済的な理由で生理用品を購入できない」問題のことです。
生理がある女性にとって、生理用品は嗜好品ではなく、なくてはならない生活必需品です。

生理用品にかかる費用を計算すると

女性の初経年齢を12歳、閉経年齢を50歳とした場合、生理がある期間は38年間。
1カ月に1回起こる生理は、38年間で456回に及びます。
これを生理用品にかかる金額に換算すると、「生理用ナプキン1枚20円×1日あたり5枚×7日間」、「生理用タンポン1本30円×1日あたり5本×2日間」、「下着1枚1,000円×1年あたり2枚購入」で計算した場合、生涯総額は53万1,800円になります。(※2)
人によっては生理用品だけでなく、さらに医薬品や通院費もかかる場合もあります。
はたらく女性は増えている一方、男性とくらべると非正規雇用者が多く賃金格差もあるなかで、さらなる金銭的負担がかかるわけです。

 

諸外国の状況

海外では、近年生理用品の無償提供を義務化する動きが進んでいます。
スコットランドやニュージーランドのほか、ケニア、ウガンダ、ザンビアなどでも生理用品の無償提供がされています。

日本の状況

日本では、生理用品の無償提供はおろか、消費税の軽減税率も適用されていないのが現状です。
2022年7月の内閣府の調査では「生理の貧困」にかかる取り組みを実施している地方公共団体は715団体(※3)あり、2021年7月の調査時の581団体より増加はしています。
今後ますます支援が拡大していくことが期待されます。

「女性の活躍推進」からみる生理用品

日本は超少子高齢社会に突入しています。
15~65歳までの生産年齢人口が減り、今は女性の労働力なくして社会は回らない状況です。
女性は寿退社、または妊娠出産したら退社という時代ではなくなっています。

企業に求められる対応

女性のライフステージが変わっても働き続けられるのかを考え、環境を整えることが企業に求められています。
「突然生理がきて生理用品の手持ちがない」「生理用品の持ち合わせがなくトイレットペーパーで対処するときもあり、そういう時は漏れないか不安で落ち着かない」「トイレに入ってから生理が来たことに気づく」「生理用品を取りに自席に戻る時間がない」といった経験がある女性は少なくないと考えられます。
そのような女性従業員の声をもとに、個室トイレから出ずに生理用品を入手できるように設置する企業もあります。

SDGsの目標「ジェンダーの平等」

SDGs(持続可能な開発目標)では、国際社会共通の目標として17の項目が掲げられており、日本政府も強く推進していることは、皆さまもご存じのことでしょう。
17の項目の一つに「ジェンダー平等を実現しよう」があります。
企業が女性を支援したり、活躍を推し進める努力は、企業価値にも直結してきます。

「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」からみる生理用品

「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)」とは、「性と生殖に関する健康と権利」です。
基本的人権の一つであり、身体・感情・精神・社会的な幸福がセクシュアリティと生殖のすべての局面で実現できていることをいいます。

利用したいトイレと、利用しているトイレの不一致

生理はもともと生殖にまつわる現象で、女性に起こるものですが、性的指向・性自認(sexual orientation gender identity:SOGI)はさまざまな形で誰もが備えているものです。
出生時に割り当てられた生物学的性別に対する不一致や違和感を抱える人は、利用したいトイレと実際に利用しているトイレが一致しないこともあります。
ストレスを感じたり、困ることもあると考えられます。
実際に、ある調査では男女別トイレ利用時の困りごととして、「生理の時、男性用トイレに汚物入れがなくて困った」という声もあります(※4)。
こうした背景を踏まえると、男性トイレや多目的トイレに生理用品を設置するという動きも自然な支援と考えることができます。

時代とともに変わる「共助」のあり方

誰もが「男性」「女性」という概念以前にひとりの人間であり、その人自身が健やかに快適に過ごすことが何より大事です。
最新の2022年版ジェンダーギャップ指数で、日本は146カ国中116位と、主要7か国(G7)の中で最低の順位でした。
冒頭に紹介した東京大学のような支援取り組みは、ギャップ解消を進めていく一助になることでしょう。

トイレに設置される生理用品は、トイレットペーパーのようにロール式で、既存のトイレットペーパーホルダーにも設置できるものや、特製ディスペンサーにアプリをダウンロードしたスマホをかざすと提供されるシステムなども出てきています。
さまざまな支援形態が出現している点からも、生理用品をめぐる社会の動きが拡大していることがわかります。
時代とともに労働や公助、共助の考え方やあり方は変化していきます。
一人ひとりが知識と意識をアップデートしていく姿勢が大切です。

<出所>
※1:東京大学教養学部学生自治会「2023年度以降の生理用品配布について」
※2:米川瑞穂著、日経BP総合研究所メディカル・ヘルスラボ編著『ウェルビーイング向上のための女性健康支援とフェムテック』(2022年11月、日経BP)
※3:内閣府共同参画局「「生理の貧困」に係る地方公共団体の取組(第3回調査 2022年7月1日時点)概要」
※4:特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ、株式会社LIXIL「性的マイノリティのトイレ問題に関するWEB調査結果2016(PDF)」

<参考>
・ 厚生労働省「『生理の貧困』が女性の心身の健康等に及ぼす影響に関する調査結果」
・ 杉田映理「「生理の貧困」対策かジェンダー平等化か 日本における生理用品トイレ内無償提供のアクション・リサーチから考える」(日本文化人類学会第56回研究大会)
・ 「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの新展開-“私らしく生きる”を次世代に」(「週刊医学のあゆみ」2022年5月14日号、医歯薬出版)
・ 高尾美穂、博多大吉『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』(2022年10月、辰巳出版)

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大場 ひろこ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

助産師として医療機関勤務後、長らく学校保健現場に携わってきました。幅広い年代の方々と関わる中で、働く人々の健康が周囲にもたらすしあわせの輪を広げたいと感じ、現在は産業保健領域で活動中。具体的には、特定保健指導、企業に訪問しての健診判定や救急対応、カウンセリング、アンリ相談員、セミナーなど幅広い業務に携わっています。得意分野は「女性の健康」です。
【保有資格】保健師、助産師、看護師、養護教諭専修、第一種衛生管理者、受胎調節実地指導員、公衆衛生士、女性の健康経営推進員、人間ドック健診情報管理指導士
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