「Put your oxygen mask first」世界共通の航空ルールは企業にも共通していた!管理職の方こそセルフケアを

飛行機に搭乗したとき、離陸前に流れる安全のビデオは誰もが目にしたことがあると思います。
緊急時における酸素マスクの使用法では、親は子どもに酸素マスクをつける前にまず自分の酸素マスクをつけて、自身の安全を確保するよう説明しています。
これは世界共通の航空ルールとなっていますが、企業にも共通するルールと考えられます。

今回は、このルールの真相を掘り下げ、企業ではこのルールをどのように考えたらよいのかを説明していきます。

「大人が先」の真相は?

旅客機は離陸した後、安定して飛行を続けられる巡航高度まで上昇を続けます。
上空の気圧は地上よりも低いため、機内では人工的に圧力をかけて気圧を一定に保っていますが、何らかのトラブルで機内の気圧が保たれずに急減圧が発生すると、機内の酸素が一気に薄くなります。
人は低酸素状態になると30秒以内に意識を失うといわれています。
つまり、30秒以内に酸素マスクを装着する必要があるわけですが、子どもはマスクに手が届かなかったり、嫌がって外してしまったりすることも考えられます。
大人が安全を確保したうえで、速やかに子どもを手伝うことが、大人も子どもも助かるために重要なのです。

「管理職が先」は生産性向上にもつながる

部下を持つと、親が子どもの酸素マスクを先につけようとするのと同じように、自分のことより部下の心配をしてしまうのではないでしょうか?
チームを率いるという責任もあり、部下が心身ともに楽しく働けているか、休暇は取れているか、と気を回すことが多いかもしれません。
自身もプレイイングマネージャーとして多くの業務を抱えながら、指示を出したり仕事を振る難しさもありますし、部下が指示通りに動いてくれないとか、自分より年上で気を遣ってしまうということもあるかもしれませんね。
そんな時に、上司に相談したところで「それを何とかするのが君の仕事」と言われてしまい、上司がストレスの緩衝材にならないことも……。
もしくは、「自分が対処できないことを証明することになる」と相談すらできないこともあるかもしれません。

そんな状態では、時間的にも心にもゆとりがなくなります。
無自覚でも殺気立っているかもしれませんし、判断力も低下していることが考えられます。
そういった様子は周囲にも少なからず伝わります。
すると、部下は報告や相談がしづらくなり、それどころか近寄りがたいとさえ感じる可能性もあります。
その結果、チーム内での関係には距離ができていき、業務が円滑に進まなくなってしまうのは想像にたやすいと思います。
管理職自身が常に良いコンディションであることを優先することは、ひいてはチームのコンディションを引き上げ、生産性を高めることにもつながるのです。

管理職自身が心がけるセルフケアとは?

管理職に限らず、すべての方のセルフケアの基本は睡眠・運動・食事です。
今回はこの3つ以外のポイントを説明します。

① ストレスの源・ストレス反応を振り返る

あなたはどんなことにストレスを感じていますか?
気づくことができて初めて、私たちはそれに対処できます。
無意識的な思考や感情は、改善・解消したくても、意識できないままではどうにもできませんので、まずはご自身のストレスの源を棚卸してみましょう。
漠然としてとらえどころがないものを具体的にとらえられると取り扱う方法が考えられるものです。
ストレスの源がわかったら、その源があなたの心や身体に引き起こした変化や違和感、もやもや感……などを意識してみましょう。

たとえば、「睡眠不足だと判断ミスが増える」といった感じです。
もしあなたが、お酒を飲んだ日は眠りの質が悪くなると気づいていたなら、大事な会議の前日は飲酒を控えるといった判断ミスの予防行動をとることにもつなげられます。

② 物事を見る視点や立場を変えてみる

あなたの目の前に、見上げるほどの高さで重さ10トンの巨大な石が現れたとします。
あなたはそれを動かすことができますか?
一見、太刀打ちのできないことのように思いますが、実際にそうでしょうか?
動かすことに「人力で」や「一人で」という条件はなかったので、他の人の力や重機などの機械や道具を使ってもいいわけです。

同じ場所から眺めているだけでは、1つの情報にとらわれて視野狭窄に陥りがちです。
データを集め、先入観や偏見を突破したり、部分ではなく全体を見ることで、中立的に判断したり行動することができます。
日頃から事実と感情を分けて考えてみるとよいでしょう。

今は職場でも「個人の価値観」や「個性」が尊重される時代です。
管理職世代は自身が通ってきた上意下達の構造や「会社に尽くす」といった精神論をひきずっていて、現在の風潮に否定的だったり、行き詰りを感じていることも少なくありません。
だからこそ、ニュートラルに物事を見てみると、行き詰まり感が軽減するかもしれません。

③ やっぱり辛かったらとにかく話してみる

「他人に迷惑をかけず、自分一人で解決するのが美学」と考えていませんか?
心の中のモヤモヤを言葉にして話せると、人はスッキリします。
たとえ問題が解決していなくてもです。
イソップ寓話の「王さまの耳はロバの耳」ではそのことをわかりやすく示してくれています。

ある国の王さまはぼうしの下にロバの耳がはえており、床屋は王さまの髪を切るときにその秘密を知ってしまった。
床屋は王さまから「ひみつをだれにも言うな」と言われたが、がまんできず地面に穴を掘り、そこへ「王さまの耳はロバの耳」と叫んだ。
ふしぎなことに、「王さまの耳はロバの耳」という言葉は草木や子どもをとおして町中に広まった。
王さまは怒ったが、いっそのことみんなの前で帽子を脱ぐことにすると、とてもすっきりした気分になったのだった。

このお話では、「秘密を抱えるのは苦しい」ということ、「秘密を打ち明けると受け入れてもらえることもある」ことを教えてくれています。
王さまの耳がロバの耳であるという問題自体は解決していなくても、理髪師・王さまはモヤモヤを打ち明けたことで、2人とも心がすっきりしています。

人に話すことは自己開示でもあるため、ハードルが高く感じやすいのは人の自然な心理です。
しかし、勇気をもってありのままの自分をさらけ出してみると、話した相手も相応の自己開示をしてくれることが少なくありません(自己開示の返報性)。
最終的な解決にゴールを設定するのではなく、スッキリすること、ガスを抜くことを目標に人に話してみることをおすすめします。

新しい年度を迎え、環境の変化が大きい時期であり、環境の変化はどんな人にも心身の疲れをもたらします。
そんな時に生産性とチーム力を上げるためにも、管理職の方ご自身のセルフケアを見直してみましょう!

<参考>
・ 山本晴義「師長自身を守る!セルフケアとしてのメンタルヘルス」(『ナーシングビジネス4(12)』1052-1057、2010年)
・ 島津明人「産業領域におけるセルフケア教育―科学的根拠に基づくガイドラインと実施マニュアルー」(『Journal of Health Psychology Research』131-137、2017年)
・ 伊藤絵美『セルフケアの道具箱 ストレスと上手に付き合う100のワーク』(晶文社、2020年)
・ 樺沢紫苑『言葉にすれば「悩み」は消える 言語化の魔力』(幻冬舎、2022年)
・ 樺沢紫苑『ブレインメンタル強化大全』(サンクチュアリ出版、2020年)
・ ゆうきゆう監修『眠れなくなるほど面白い 図解 ストレスの話』(日本文芸社、2021年)

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大場 ひろこ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

助産師として医療機関勤務後、長らく学校保健現場に携わってきました。幅広い年代の方々と関わる中で、働く人々の健康が周囲にもたらすしあわせの輪を広げたいと感じ、現在は産業保健領域で活動中。具体的には、特定保健指導、企業に訪問しての健診判定や救急対応、カウンセリング、アンリ相談員、セミナーなど幅広い業務に携わっています。得意分野は「女性の健康」です。
【保有資格】保健師、助産師、看護師、養護教諭専修、第一種衛生管理者、受胎調節実地指導員、公衆衛生士、女性の健康経営推進員、人間ドック健診情報管理指導士
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