男性もHPVワクチンを接種すべき?子宮頸がんだけではない、リスクを減らせる病気
- 2023/2/22
- 雑学
2022年11月17日、子宮頸がんなどを防ぐためのHPVワクチンについて、男性も定期接種として無料で受けられるようにしてほしいと、国際基督教大学の学生グループ「Voice Up Japan ICU支部」がおよそ1万5,000人分の署名を厚生労働省に提出しました。
2022年4月に約8年ぶりに積極的な勧奨が再開したHPVワクチンですが、定期接種(公費)の対象者は、小学校6年~高校1年相当の女性で(積極的勧奨の再開までに接種の機会を逃してしまった対象者にもあらためて接種の機会が設けられています)、男性は対象になっていません。
ワクチンの種類については、これまでの定期接種の2価、4価より効果が高いとされる「9価HPVワクチン」は2021年2月より接種可能となり、公費による定期接種も2023年4月より開始する方針です(2022年11月8日、第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)。
一方で9価ワクチンはまだ、男性への接種適応がありません。
2価ワクチンも同様で、現在国内で男性が接種できるのは、4価ワクチンのみです。
ワクチンの種類 | 対象となるウイルス | 特徴 |
2価 | 16型、18型 | 女性:無料 男性:接種可能(自己負担) 特に発がん性の高い16、18型のウイルスを抑える。日本で定期接種ができる |
4価 | 6型、11月、16型、18型 | |
9価 | 4価の型に加え、31、33、45、52、58型を予防 | 女性:接種可能(自己負担) 男性:接種不可 現在の世界の主流。9割を超える予防効果があると集計されている |
今回は、HPV(ヒトパピローマウィルス)が引き起こす病気、世界で進む男性のHPVワクチン接種、日本男性のHPVワクチン事情について説明します。
HPV(ヒトパピローマウィルス)が引き起こすのは子宮頸がんだけではない
HPVウィルスが引き起こす疾患には以下のようなものがあります。
がん
HPVが関係しているがんは子宮頸がん以外にも中咽頭がん、肛門がんなどが報告されています。
具体的に陰茎がんの36%、中咽頭がんの50%、肛門がんに至っては93%がHPV感染によるものとされています 。
HPVは実は身近なウィルスで、がんとも大いに関係しているのです。
なお、HPVウィルスがそもそもどこに存在し、どのようにうつっていくのかは、まだわかっていません。
性感染症
HPVは性交渉により男性から女性へ感染することはわかっていますが、男性がどこからかかってくるのかは明らかになっていません。
HPVは尖圭コンジローマという性感染症の原因でもあります。これは主にHPVが原因(約90%)で陰茎にできものができる性感染症です。
かゆみが出たり、痛くなったりします。
自然に治ることもありますが、レーザー治療や外科的な切除が必要になることもあります。
日本では年間約6,000人の患者数が報告されています 。
世界で進む男性のHPVワクチン接種
HPVが引き起こす病気は女性だけでなく男性にも関係があります。
ワクチン接種は男性自身のがんや性感染症予防になります。
そして、男性が感染しないことで女性にHPVをうつすことがなくなれば、女性を子宮頸がんから守ることにもつながります。
HPVは性交渉を通して感染することがほとんどです。
そのため接種する男性が増えることは、パートナーの女性を守ることでもあるのです。
こうした理由から、海外では男性もHPVワクチンの接種対象となっている国が増えています。
オーストラリアではHPVワクチンは定期接種となっています。
15歳の男女の接種率が80%を超えており、近いうちに子宮頸がんは撲滅される見通しです。
アメリカでは女性のHPVワクチン接種率や検診率が高まったことで、子宮頸がんの排除が進んでいます。
その結果、子宮頸がんよりも男性の中咽頭がんの罹患者数のほうが多くなっています。
そのため、現在アメリカでは9価HPVワクチンを男女の区別なく11歳から12歳を対象に定期接種化しています。
日本男性のHPVワクチン事情
日本の男子大学生約1,000人を対象にしたアンケート調査では、子宮頸がんが女性の妊娠・出産に影響すると知っている人は約75%だったのに対し、男性の陰茎がんなどの原因にHPVが関係していることを知っていたのはわずか約17%でした。
HPVに関わる正しい情報の認知率はまだまだ低いようです。
日本では2020年に厚生労働省が男性に4価のHPVワクチンを使用することを認めましたが、公費接種ではないため、約半年ほどの期間をかけて全3回接種するには5~6万円ほどの費用がかかります。
現時点での男性の接種率等は明らかになっていませんが、2020年時点で女性の接種率が7.1%であることを考えると、さらに低い接種率だと考えられます。
低い接種率には、費用の問題も大きな壁となっていることが考えられます。
費用助成の制度を設けている自治体もありますが、まだごく一部です。
接種率が伸びない別の理由として、「どこで接種できるのかわからない」ということも考えられます。
接種ができる医療機関リストを掲載しているホームページもありますので、ぜひ活用していただきたいと思います。
現代は医療技術が発達したことで、適切な一次予防ができれば防げる病気がたくさんあります。
ワクチン接種もその一つです。
多くの人がワクチンを接種することで免疫を獲得していると、ワクチンを接種していない人の感染リスクも減少し、集団の中で感染者が発生しても流行を阻止・抑制することができます。
いわゆる「集団免疫効果」です。とくにHPVは性交渉を通じて感染するため、女性だけがワクチン接種をしてもHPVは残り続けます。
各自が小さな手間を積み重ねることで、社会全体での大きな病気を防ぐ、という視点で予防行動を選択するべく、男性もHPVワクチン接種を前向きに検討しましょう。
<参考>
・ 一般社団法人Voice Up Japan(Instagramアカウント)
・ 川名敬「HPVワクチン」(「ウイルス」62巻1号、2012年6月)
・ 濵﨑祐実、塚原貴子「男子大学生のがんのイメージと子宮頸がんに対する意識調査」(「川崎医療福祉学会誌」30巻1号139~146頁、2020年)
・ 平川市「男性のHPVワクチン接種費助成事業について」
・ 一般社団法人予防医療普及協会
・ 厚生労働省「定期の予防接種実施者数」
・ 公益社団法人日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」)
・ 「特集 子宮頸がん予防の最前線」(「厚生労働」2022年5月号)
・ 堀江貴文、三輪綾子、予防医療普及協会監修『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』(青志社、2022年6月号)
・ 米川瑞穂、日経BP総合研究所メディカル・ヘルスラボ『ウェルビーイング向上のための女性健康支援とフェムテック』(日経BP、2022年11月)
・ 厚生労働省「HPVワクチンに関するQ&A」