2022年5月、スペインでひどい生理痛に悩む女性が医療休暇を取れるようにするための法整備が計画されていると現地メディアが報じました。
法案の草案では、女性は月に3日間、場合によっては最長5日間まで、休暇を取れるとされています。
法案が通れば、ヨーロッパで初めて、こうした法的権利が認められることになります。
そこで今回は、日本の生理休暇、世界での動向、これからの向き合い方についてご説明します。
世界で最もはやく生理休暇を法制化したのは日本
日本では世界に先駆けて1947年に生理休暇が法制化されました。
労働基準法第68条では「使用者は生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と規定しています。
詳細は以下のとおりです。
・ 自動的にもらえる休暇ではなく、申請した場合に取得できる
・ すべての雇用形態が含まれているため、契約社員やパートを問わず申請することが認められている
・ 労基法では生理休暇の日数が限定されていない
→ 職場によって日単位、半日単位、または時間単位で請求できるよう運用されている
・ 労基法では生理休暇が有給か無給かについて規定していない
→ 会社ごとに就業規則で定められている
・ 休暇を取得する際に証明を要求される場合があるとしても、法律上では医師の診断書は必要とされていない
令和2年度(2020)の厚生労働省の調べでは、生理休暇中の賃金の有無別事業所割合は「無給」が67.3%(平成27年度74.3%)と最も多く、「有給」は29.0%(同25.5%) で、そのうち65.6%(同 70.6%)が「全期間100%支給」となっています。
また、女性労働者がいる事業所のうち、平成31年4月1日から令和2年3月31日までの間に生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%(平成 27 年度 2.2%)でした。
女性労働者のうち、生理休暇を請求した者の割合は0.9%(平成27年度0.9%)にとどまっています。(下記の図参照)
世界で生理休暇制度を導入している国はわずか
海外での生理休暇制度の実態はどうでしょうか?
韓国・台湾・ザンビアではすでに生理休暇制度が法制化されていますが、休暇日数や診断書や証明の提出といった点では国によって対応はさまざまです。
一方、現在のところヨーロッパには生理休暇の政策はありません。
2017年にイタリアで「医師の診断書があれば毎月3日間の有給生理休暇を与える」という法案が議論されましたが、制定には至りませんでした。
背景として、性別による雇用上の差別が禁止されていたり、生理休暇制度は社会の中で男女の差を際立たせてかえって性差別を助長してしまう、といった主張があるようです。
生理休暇制度をめぐっての対応は、国の文化や宗教観とも大きく関わりがあり、時代の流れの中でこれからも変化していくことでしょう。
誰もが働きやすい環境づくりのためにできること
日本で生理休暇制度が法制化されてから今年で75年になります。
法制化から18年の1965年には取得率がピークを迎え、26.2%(※1)と4人に1人が生理休暇を取得していました。
時代が進んで女性の就業率は上がったにもかかわらず、現在の休暇取得率は0.9%と下降しています。
誰もが働きやすい職場づくりのためにできることは何でしょうか?
「生理にともなう不調に苦しむ方編」と、「周囲の方々や職場編」で考えてみましょう。
【生理にともなう不調に苦しむ方編】
生理と悟られたくないから……と無理に頑張ると、そのこと自体がストレスになってしまいます。
職場では無理のない範囲で業務することは大切ですが、そのうえで周囲に対して理解を求めても良い時代です。
生理は病気ではありませんが、生理痛というのは決して我慢の対象ではありません。
「生理だからしょうがない」と、その時点で対処法を考えたり試すことをやめてしまっていないでしょうか?
不調症状が辛くて生理休暇を取ることは大事な権利です。
言いづらい、仕事を休んで周囲に迷惑をかけられない、という気持ちもあると思いますが、体調が悪いのに無理して仕事をしても効率は上がりませんし、かえって周囲に迷惑をかけてしまうかもしれません。
仕事ができないほどに体調が悪い時はしっかり休んで、その分、元気な時にベストな状態で仕事に臨みましょう。
加えて、働く人として自分の体調をより良くできるよう努力し、仕事を遂行する上で妨げとなる原因を取り除いていくことも、社会人としての大事な義務です。
自分のコンディション管理も仕事のうちと考えられると、みんなが気持ちよく働けるようになります。
現代は症状緩和や治療の選択肢もたくさんあります。
積極的に情報を収集して、必要があれば専門家に相談するなど、自分のからだに向き合ってみましょう。
そんな姿勢は自分自身を助けるだけでなく、同じ悩みを抱える人を支えることにも繋がるでしょう。
【周囲の方々や職場編】
まず、生理休暇について「女性の特権的なものではなく、仕事が出来ないほどに症状が重くて休まざるを得ないもの」ということを正しく認識しましょう。
また、同性である女性は、自分も生理痛を経験しているからといって、周囲の人の生理痛も自分と同じくらいの痛みだと思い込まないようにすることが必要です。
生理痛の程度は人によって本当にさまざまです。
ごく軽い人もいれば、寝込んでしまったり救急車で搬送されるほどの人もいます。
生理痛が重い場合は、子宮内膜症などの病気が潜んでいる場合もありますし、生理痛を我慢して放置することで子宮内膜症のリスクを高めることも分かっています。
自分の経験とは異なる痛みがあり得るという想像力を持っておきましょう。
男性は自分では経験ができない領域のことであるからこそ、より正しく理解する必要があります。
ご自分の身近なご家族やご友人に話を聞くのも良いでしょう。
そうすることで、職場でだけでなく、ご家庭などでも不調に苦しむ女性をサポートできるきっかけになるかもしれません。
生理休暇は労働基準法に定められているため、どの会社でも利用できる制度ですが、約6割の女性がそのことを知らなかったという調査結果もあります。(※2)
また、ただ制度がないと認識していることで利用できないわけでは無く、「利用しづらい雰囲気がある」「利用しようと思ったが上司や労務に断られた」などの要因で辛くても休むことができない女性がいることも分かっています。
人事や管理職の人は間違った対応をしないよう、研修の機会を持つのも良いかもしれません。
また、従業員にも正しい情報を周知することも必要でしょう。
日本でも世界でも、女性の健康への向き合い方はまだまだ模索が続きそうです。
時代が進んでも、性別による機能や特性の違いはありますが、一方で、その違いを越えて「誰もが生きやすい環境づくり」を目指すことはできます。
すべての働く人々が「誰もが働きやすい環境づくり」のために、それぞれの立ち位置でできることに取り組んでいきましょう。
<参考>
※1 SankeiBiz(サンケイビズ)「生理休暇取得1%割れ ピーク26.2%から大幅減 母性の保護の後退浮き彫り」
※2 東晶貿易株式会社プレスリリース「7割の女性が生理休暇を利用できない?生理休暇の実態に関するアンケートを実施しました。」
・ 細川モモ著『生理で知っておくべきこと』(日経BP、2021年)
・ 堀江貴文・三輪綾子共著『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』(青志社、2022年)
・ 高尾美穂著『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社、2022年)
・ BBC News JAPAN「生理休暇の申請却下、アシアナ航空元CEOに罰金 韓国裁判所」
・ WOW Tech Groupプレスリリース「世界26カ国の“生理休暇調査”を実施 日本だけでなく世界でもタブー視されている実態が明らかに」
・ NHK みんなでプラス「生理」