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働きやすさへの重要な手がかり「性差医療」とは
- 2023/4/25
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発生以来いまだ終息に至っていない新型コロナウイルス感染症では、男性のほうが女性よりも重症化率や死亡率が高いといわれています(※1、2)。
その要因は病原体を排除する免疫反応の強さや、免疫力に対する性ホルモンの影響に性差があることなどが考えられています。
「性差医学」とは、性別による違いを医学的根拠として確立するための調査・研究であり、「性差医療」とは明らかにされた根拠に基づいて診断・治療・予防措置を行うことです。
そこで今回は、性差が認められる疾患、はたらく世代に関わりの深い性差のある疾患や症状、性差を超えて健やかにはたらくための考え方について説明します。
女性の心臓発作は胃酸逆流症やインフルエンザと思われることも
性差が認められる疾患は大きく3つに分けられます。
① 女性あるいは男性のどちらかだけに起こる疾患
前立腺がんは男性のみの、子宮癌は女性のみの疾患です。
生殖器の疾患は、その性別特有の疾患になります。
② 男女ともに起こるが、どちらか一方に多く起こる疾患
これまでかかりやすさに性差が明らかな疾患として認識されてきたのは、自己免疫疾患や骨粗しょう症、甲状腺疾患などです。
これらは圧倒的に女性に発症率が高い疾患です。
一方男性に発症が多い疾患には、痛風や食道がんなどがあります。
③ 男女の発症率はほぼ同じだが、病状・発症時期(年齢)・薬の効き方・予後などに男女差がある疾患
たとえば、心臓発作発症時には、警告サインといわれる典型的な症状(胸の痛みや息苦しさなど)があります。
女性の場合、その警告サインが発現しないことも多く、胃酸逆流症やインフルエンザと診断されて治療の開始が遅れることもあります。
2010年には、日本循環器学会、日本性差医学・医療学会などが「循環器領域における性差医療に関するガイドライン」を共同作成作成しました。
各分野における性差医療のガイドラインとしてモデルとなるもので、今後、さまざまな診療科目や領域で性差が研究され、診療ガイドラインが作成されていくことでしょう。
また、疾患の治療に用いる薬の効き方や副作用にも性差があることが分かってきています。
今後は性差に配慮した薬物療法も発展していくと考えられます。
はたらく世代でもたくさんの性差
はたらく世代は、ライフイベントが多い時期で、身体は成熟期から更年期を迎えるなど大きく変容する時期です。
上述した性差のある疾患以外に、はたらく世代に関わりの深い疾患・症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
性ホルモン変動にまつわる症状
女性は月経前症候群(PMS)や月経困難症などの女性ホルモン変動による体調変化が起こることがあります。
また、月経が起こることで発症し、女性ホルモンにより進行する女性特有の疾患として、子宮内膜症もあります。
更年期は今では男女ともに症状が出ることが知られていますが、その症状や発症時期には性差があります。
やせ・肥満
日本は男女ともに肥満の少ない国である一方、女性のやせが問題となっており、摂食障害は平均して女性が男性の約10倍の発症率と報告されています(※4)。
機能性頭痛
性差が明らかにはなっていないものの、性差があると予測され研究が進んでいます。
脳に病変がないにも関わらず起こる「機能性頭痛」は女性に多く、女性ホルモンとの関連が示唆されています。
互いの違いを理解して健やかにはたらくためには
はたらく世代の方々は、性差による疾患や症状を抱えながらはたらいているかもしれません。
仕事に影響が出やすい症状を悪化させずに支障なく仕事を続けるために、適切な医療を受けることも大きな支えとなります。
性差医療に特化した診療科はまだあまり知られていなく、一般的な受診行動に結びつかないことも多いですが、ぜひ活用してみてください。
性差医療情報ネットワーク(※5)によると、男性外来は全国で66件、女性外来は308件あります(2018.1.23最終更新)。
「性差医療」は一見、男女平等に相反するように見えます。
しかし、医学的・生物学的な性差は厳然と存在します。それを否定するのではなく、認め合い支えあうことが本当の「平等」ではないでしょうか。
それは、はたらく人々が健やかにはたらくことにもつながります。
「性差医療」はよりはたらきやすい社会の実現への大きな手がかりかもしれません。
<脚注>
※1:公益財団法人東京都医学総合研究所「COVID-19入院患者致命率の性差」
※2:The Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team「The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases(COVID-19) — China, 2020(PDF)」(CCDCweekly、 Vol.2、No.8)
※3:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成30年版」
※4:高橋 清久「精神医学とジェンダー」(「学術の動向」2003年4号)
※5:特定非営利法人性差医療情報ネットワーク「「女性外来と千葉県大規模コホート調査を基盤とした性差を考慮した生活習慣病対策研究」日本人を対象とした疫学研究の抄録集」
<参考>
・ 小宮ひろみ「性差医療─性差とライフステージを意識した健康支援─」(「理学療法学」2015年8号)
・ 大内尉義「性差医療の考え方と課題 老年医学の立場から」(「学術の動向」2006年11号)
・ 独立行政法人労働者健康福祉機構「働く女性のためのヘルスサポートガイド 別冊(PDF)」
・ 株式会社日本総合研究所「働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性 」
・ 早川純子、早川智、西成田進「性差医学からみた自己免疫疾患」(「日大医学雑誌」2013年3号)