頭痛には大きく分けると1次性頭痛と2次性頭痛があります。
1次性頭痛とは、片頭痛(※1)や緊張型頭痛(※2)、群発頭痛(※3)などで、頭痛そのものが病気のものです。
2次性頭痛は、ほかの病気が原因で起こる頭痛で、くも膜下出血や髄膜炎、脳腫瘍、うつ病、副鼻腔炎など目・鼻・あごの病気、薬の使い過ぎなどの原因があります。
薬の使い過ぎによる頭痛の有病率を国内で初めて調査した糸魚川総合病院の研究結果では、その有病率は2.3%、女性に限ると3.8%でした。
15~64歳のはたらく世代の女性の26人に1人が薬剤の使用過多による頭痛であることになります。
そこで今回は薬剤の使用過多による頭痛についてわかりやすく説明していきます。
(※1)片頭痛:頭の片側にズキンズキンと脈を打つような痛みが生じることが多く、体を動かすと痛みが悪化したり、光と音に敏感になるなどの特徴があります。症状は一般的に4~72時間継続します。これから頭痛が起こるかもしれないという予兆を感じる場合もあります。
(※2)緊張型頭痛:頭痛の中で最も多いのが緊張型頭痛です。圧迫されて締め付けられるような痛み、体を動かしても痛みが悪化しない、頭の両側に起こる、などの特徴があります。
(※3)群発頭痛:頭の片側だけ、目の奥や側頭部に激しい痛みが起こります。1回の痛みは1~2時間のことが多く、痛みと同じ側の目の充血、涙、鼻水、鼻詰まりなどがみられます。
痛みの悪循環が起きている
「薬剤の使用過多による頭痛」とは、片頭痛や緊張型頭痛など、1次性頭痛を持つ人で、鎮痛薬の使用頻度が多い場合にみられる頭痛です。
以前は「薬物乱用頭痛」とされていましたが、「薬物乱用」という言葉が非合法の薬物の乱用を連想させるとして、不利益や誤解が生じないようにするため「薬剤の使用過多による頭痛」に変更になりました。
〈メカニズム〉
市販の鎮痛薬やトリプタンを使いすぎていると、脳が痛みに敏感になり少しの刺激でも痛みを感じやすくなります。
頭痛が起こる回数が増え痛みが強くなり、薬が効きにくくなります。
その結果、薬を使う回数や量が増えて、さらに症状が悪化するという悪循環になってしまいます。
片頭痛のある人は、早めに鎮痛薬を飲まないと薬の効果が低下することを経験的に知っていることで、痛みに対する不安から、薬を早めに飲んだり、少しの症状でもすぐに薬を飲む傾向があります。
特に注意が必要です。
薬の使い過ぎによる頭痛かを見分ける目安
以下の項目に当てはまる場合は、薬の使い過ぎによる頭痛の可能性を考えましょう。
1:もともと片頭痛や緊張型頭痛などの1次性頭痛がある
2:頭痛が1か月に15日以上起こる
3:鎮痛薬や頭痛の治療薬を3か月以上定期的に使用している
(定期的な使用とは、薬の種類によって使用日数の目安が異なりますが、1か月に10~15日以上使用している場合を指します)
また、個人差はありますが以下のような代表的な症状も目安になります。
<症状>
・ 朝目が覚めると頭が痛い
・ 一日中頭が痛くてすっきりする時間がない
・ 痛みに波がある
・ 頭が締め付けられるような痛みが続く
・ 頭が締め付けられるような痛み+ズキンズキンとした強い痛み
頭痛は生産性低下の原因にも。軽く考えずに正しい対策を
上述の目安に当てはまった方は、ご自身が感じている頭痛が薬剤の使用過多による頭痛である可能性を考えて、早めに受診しましょう。
医療機関では、原因となっている薬の使用をできるだけ中止し、予防薬を使って治療します。(他の疾患の治療のために開発された薬の中で、片頭痛の予防にも効果があると分かった予防薬があります。また、2021年に片頭痛が起こる仕組みに直接作用する新しい予防薬も発売され、これまでの予防薬より高い効果が期待されています)
同時に、原因薬物を中止したことによっておこる頭痛への対処を行います。
薬剤の使用過多による頭痛は1年以内に3割程度の人で再発するといわれています。
再発させないためには、予防薬の内服と同時に、頭痛が起きた日や鎮痛薬や頭痛の治療薬を使用した日を「頭痛ダイアリー」などに記録して、薬の使用状況を確認することが大切です。
頭痛はプレゼンティーイズムの原因の一つといえます。プレゼンティズム(presenteeism)とは、心身の不調を抱えていながら業務を行っている状態のことを言います。
この状態で業務を行うと生産性が下がったり、ケアレスミスが起きてしまったり、終いには大きなトラブルを招きかねません。
また、プレゼンティーイズムを放置していると、アブセンティーイズムにつながってしまう可能性もあります。
アブセンティーイズム(absenteeism)」とは、体調不良による遅刻や早退、欠勤や長期休職など、業務が行えない状態を指します。
欠員が出てしまうとチームや組織全体のパフォーマンスが下がる原因となるため、企業において大きな損失が生まれてしまいます。
頭痛は誰もが経験したことがある症状であるため、軽く考えがちです。頭痛に困っていたら、迷わずに専門家に相談し、正しく対処しましょう。
<参考>
・ Masahito Katsuki、Chinami Yamagishi、Yasuhiko Matsumori、Akihito Koh、Shin Kawamura、Kenta Kashiwagi、Tomohiro Kito、Akio Entani、Toshiko Yamamoto、Takashi Ikeda、Fuminori Yamagishi「Questionnaire-based survey on the prevalence of medication-overuse headache in Japanese one city-Itoigawa study」(『Neurological Sciences』2022年6月)
・ 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修『頭痛の診療ガイドライン2021』(医学書院、2021年10月)
・ 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会『国際頭痛分類 第3版』(医学書院、2018年11月)
・ 柴田護「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛、MOH)」(『ファルマシア』54巻6号、2018年)
・ 花岡啓子、花岡芳雄、村上正人、 桂戴作「薬物乱用頭痛への心身医学的アプローチ」(『心身医学』47巻5号、2007年)
・ 端詰勝敬「心療内科的アプローチが必要となる慢性頭痛」(『臨床神経学』52巻11号、2012年)
・ 一般社団法人日本頭痛学会「薬剤の使用過多による頭痛」