
治療が必要な病気になったときに「仕事を続けられるか」「職場に迷惑をかけてしまうかも」などの不安をひとりで抱えてしまう人は少なくありません。
治療と仕事、どちらか選ぶものではなく、両立できるものとして支える仕組みが各企業で進められており、広がり始めています。
2026年4月に施行される法改正は、その流れを後押しするものになります。
今回は2026年4月に改正される「治療と仕事の両立支援」努力義務化のポイントを解説します。
改正の背景と概要
2026年4月に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が改正され、「治療と仕事の両立支援の推進」が事業主の努力義務として法律に明記されることになりました。
これまで国のガイドラインに基づく任意の取り組みであった両立支援が法的に位置付けられる大きな転換点となります。
第27条の3 事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によつて疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針(以下この条において「治療と就業の両立支援指針」という。)を定め、これを公表するものとする。
3 治療と就業の両立支援指針は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第70条の2第1項に規定する指針と調和が保たれたものでなければならない。
4 厚生労働大臣は、治療と就業の両立支援指針に従い、事業主又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
日本は高齢化社会の進展と医療技術の向上により、慢性疾患やがんなどの治療を続けながら勤務する労働者の割合が増えています。
「令和7年版厚生労働白書」によると、何らかの疾患により通院しながら働く労働者の割合は2022年時点で約4割にのぼっています。
たとえば、がん患者の5年生存率は60%を超えており、治療は入院より退院中心へと変化しています。
もちろん病気の程度によりますが、治療に通いながら働くことが一般的になりつつあります。
従来は厚生労働省が策定したガイドラインで企業の自主的な対応を促してきましたが、実行状況には企業ごとにばらつきがありました。そこで今回の改正では両立支援への取り組みを法律上の努力義務化へと進みました。
ガイドラインではなく法的根拠を持つ指針になることで、事業者の取り組みが明確化します。
自主的な両立支援が、事業者の基本的な責務として位置づけられることになります。
努力義務化で企業は何をすべきか
「治療と仕事の両立支援」とは、病気の治療と仕事を同時に継続したい労働者が安心して働き続けられる環境を整えることを指します。
両立支援のための取り組みは、以下の対応が重要となります。
基本方針の周知
・ 企業として治療と仕事の両立を支援する方針を策定・掲示
・ 社内イントラネットや文書で周知することで従業員に認識させる
相談体制の確立
・ 両立支援専門の相談窓口や担当者を設置
・ 産業医や産業保健スタッフと連携しやすい体制づくり
・ 本人の同意なしに周囲へ勝手に話さないようにする
意識啓発
・ 管理職研修や講習を通じて従業員全体の理解を促進
・ 病気に対する偏見や遠慮を減らす
個別支援
・ 本人の同意のもと主治医や産業医と情報共有し、治療内容と仕事への影響を理解することで最適な措置へとつなげる
・ 労働者と会社、医療機関、産業保健スタッフが連携し、具体的な両立支援計画を策定する
・ 勤務時間の調整や業務変更、休暇制度など柔軟な仕組みの整備が含まれる
また、企業が整備すべき具体的な制度は以下になります。
・ 柔軟な勤務制度:時差出勤、テレワーク、フレックスタイム制
・ 短時間勤務制度:治療期間中の短時間業務
・ 有給休暇の弾力的運用:時間単位や病気休暇の整備
企業や社会にとっての意味と課題
改正労働施策総合推進法により治療と仕事の両立支援が努力義務とされたことは、多くの企業にとって単なる福利厚生の拡充ではなく、戦略的な人材確保策となる可能性があります。
人材の確保と定着
病気を抱えながら働く労働者が安心して働き続けられるということは、離職の抑制や経験豊富な人材の育成、継続雇用につながります。
これは特に少子高齢化による人手不足が深刻な現代の日本企業にとって大きなメリットになります。
企業風土や職場文化への影響
両立支援への取り組みを進めることは、職場文化の改善も促します。
相談しやすい環境によって適切な対話ができる、管理職の理解の促進や社員間の支援意識の向上など、職場全体のモラル向上にも寄与する要素になりえます。
中小企業の課題
大企業はすでに取り組んでいることが多いですが、中小企業は手厚い制度を整えるのは現実的にも難しい印象を受けます。
産業保健スタッフが不在、制度整備のための人員・予算不足などの課題が浮き彫りになるでしょう。
全て実践するのが難しくても、日ごろから相談してほしいことを社内掲示で明記したり、面談等で伝えたりすることは可能です。
また、復職後いきなりフルタイム復帰ではなく段階をふめるような受け皿作りを検討することが重要です。
改正労働施策総合推進法は誰もが安心して働き続けられる社会づくりを後押しする法改正となります。
65歳以上の労働者も増え、多様なライフステージや健康状態に応じた柔軟な制度の普及がこれまで以上に必要になってくるでしょう。
今回の法改正は努力義務であり罰則はない以上、制度化や運用面での工夫と経営資源の投入が求められるため、現時点では人材戦略の位置づけになります。
この法改正をきっかけに、自分たちの職場では何ができそうか、立ち止まって考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
<参考>
・ e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
・ 厚生労働省「白書、年次報告書」
・ 国立研究開発法人国立がん研究センター「最新がん統計」





















