企業におけるハラスメント対策の実態と課題:経団連調査から読み解く現状と対策強化の必要性

近年、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)は社会的に大きな関心を集めており、企業においても対策の強化が求められています。
東京都が「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(2025年4月施行)を制定したほか、「カスハラ防止指針」の策定をする企業もみられるようになってきました。
さらに2024年12月26日に公表された労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」では、カスハラから労働者を守るため、企業に対策を義務づける方針が示されました。
具体的には「会社の方針の明確化およびその周知・啓発」「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「カスハラへの迅速かつ適切な対応」などが挙げられており、今後の法制化が見込まれています。
2025年1月21日に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が公表した「企業のハラスメント防止対策の実態調査」は、その現状と課題を浮き彫りにする上で重要な資料となります。
本稿では、同調査の結果をもとに、企業におけるハラスメント対策の現状と課題をわかりやすく解説します。

調査結果の概要:ハラスメント対策への意識の高まり

本調査によると、顧客からのハラスメント(カスタマー・ハラスメント)防止対策を積極的に推進している(「対策を取りまとめて実施している」と「現在、対策を取りまとめるべく検討している」の合計)企業は43.2%という結果が出ています。

具体的な対策内容として多かったのは以下です。

・ 従業員を対象とした相談窓口の設置(73.3%)
・ 社内向けの対応マニュアルの策定(61.7%)
・ 顧問弁護士や警察等との連携(60.0%)
・ カスハラ発生時の社内体制の構築」(58.3%)

一方では、「対策が必要と認識しているが、特に対応していない」27.5%、「対策が必要とは認識しておらず、特に対応していない」22.1%と、およそ半数の企業では対応できていないのが現状です。

ハラスメント対策の課題

また、カスハラ対策にあたっては、本調査からは企業が以下の点で苦慮している様子もわかります。

・ カスハラと一般的なクレームの線引きが困難
・ 顧客という関係性ゆえ強く指摘ができない
・ 「不当要求」や「迷惑行為」の定義や基準に社会的なコンセンサスがない
・ カスハラの態様がさまざまであるため、現場の対応力に依拠せざるを得ない
・ カスハラに対する対応者が、能力のある一部の社員に偏ってしまう
・ 被害を受けたとしても取引停止や刑事告訴の判断が難しい
・ カスハラを受けた従業員のケア
・ SNSでの拡散リスク など

さらに、これらを踏まえて、企業から政府へは以下のような要望が聞かれています。

・ 法制面の整備
・ カスハラの定義および判断基準の明確化
・ BtoB型カスハラの事例や判断基準の策定
・ 消費者に対する意識啓発・教育の強化
・ 相談窓口・仲裁機関の設定
・ SNS等への根拠のない情報流布に対し、発信元を公表することの義務化 など

カスハラの対策強化に向けて

カスハラ対策を強化するためには、多角的なアプローチが必要です。

対策の具体化と優先順位付け

各企業は、自社の状況や課題に合わせて、具体的なカスハラ対策を策定・実施する必要があります。

実効性のある対策の実施

相談窓口の拡充や研修の質の向上など、形式的な対策に留まらない、実効性のある対策を実施する必要があります。また、ハラスメントが発生した場合の対応マニュアルを整備し、従業員に周知徹底することも重要です。

ハラスメントに対する意識改革

経営層から従業員まで、ハラスメントに対する認識を深め、その深刻さを共有する必要があります。
「仕方がない」といった風潮を払拭し、ハラスメントは許されないという意識を醸成しましょう。

ハラスメントは、個人の尊厳を侵害するだけでなく、企業の生産性やイメージにも悪影響を及ぼします。
企業は、ハラスメント対策を強化することで、従業員が安心して働ける職場環境を実現し、持続的な成長を目指すべきです。
本調査結果を参考に、自社のハラスメント対策を見直し、より実効性のある対策を講じる必要があるといえるでしょう。

<参考>
・ 一般社団法人経済団体連合会「ハラスメント防止対策に関するアンケート調査結果(PDF)」
・ 労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

この著者の最新の記事

関連記事

解説動画つき記事

  1. 【新春企画「カニ食べ行こう!」】カニは美味しくて体にイイ?美容・ダイエット効果を徹底解説

一目置かれる健康知識

ページ上部へ戻る