厚生労働省では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレス(いじめやハラスメントなど)が原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や、支給決定件数などを年1回、取りまとめています。
その結果として、2020年6月26日に、令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。
今回は、この公表をもとに労災補償状況の現状や傾向を見ていきましょう。
「過労死等」とは?
まず、過労死等防止対策推進法で定められている「過労死等」は以下のように定義されています。
「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。
引用元:「過労死等防止対策推進法」第2条
仕事の負荷による脳・心臓疾患
請求・支給決定件数について
脳・心臓疾患での労災の請求件数は936件で、前年度から59件の増となりました。
このうち、労災と認められたのは、216件でした。
申請数については、過去5年で最多で、認定数についてはもっとも低い結果になりました。
(厚生労働省資料より作成)
労災認定の多い年齢
年齢別の労災認定数は、以下のとおりです。
働き盛りの40歳以上で労災が多いことがわかります。
19歳以下 0人
20~29歳 4人
30~39歳 46人
40~49歳 189人
50~59歳 267人
60歳以上 178人
労災認定の多い職種
以下は、職種別の労災支給決定件数です。
自動車運転従事者がひと際多いことがわかります。
1位 自動車運転従事者 67人
2位 法人・団体管理職員 15人
3位 飲食物調理従事者 14人
4位 建築・土木・測量技術者 13人
4位 商品販売従事者 13人
時間外労働時間別の支給決定件数
1ヶ月の時間外労働時間が100時間未満、2~6か月の月平均時間外労働時間が80時間未満の場合は、以下の要因を含め、客観的かつ総合的に労災の判断をしています。
① 不規則な勤務
② 拘束時間の長い勤務
③ 出張の多い勤務
④ 交代制勤務、深夜勤務
⑤ 精神的緊張を伴う業務
60時間未満 0名
60時間以上80時間未満 23名
80時間以上100時間未満 76名
100時間以上120時間未満 39名
120時間以上140時間未満 41名
140時間以上160時間未満 10名
160時間以上 11名
ストレスなどによる精神障害
精神障害による労災請求件数は2,060件で前年度から240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件でした。
このうち労災と認められたのは509件で、前年から44件増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度から12件増えた88件でした。
(厚労省資料より作成)
労災認定の多い年齢
年齢別の労災認定数は、以下のとおりです。
脳・心臓疾患の場合は、40代以上がほとんどでしたが、精神障害では、若い世代でも多いことがわかります。
19歳以下 8人
20~29歳 321人
30~39歳 426人
40~49歳 503人
50~59歳 283人
60歳以上 45人
労災認定の多い職種
以下は、職種別の労災支給決定件数です。
脳・心臓疾患では、自動車運転従事者の多さが目立ちましたが、精神障害では大きな差はありませんでした。
1位 一般事務従事者:49人
2位 自動車運転従事者:36人
3位 商品販売従事者:33人
4位 接客・給仕職従事者:29人
5位 建築・土木・測量従事者:27人
時間外労働時間別の労災認定数
時間外労働時間別の労災認定数は以下の通りです。
20時間未満 68人
20時間以上40時間未満 33人
40時間以上60時間未満 35人
60時間以上80時間未満 35人
80時間以上100時間未満 29人
100時間以上120時間未満 63人
120時間以上140時間未満 45人
140時間以上160時間未満 9人
160時間以上 36人
その他(労働時間を明らかにするまでもなく業務上によるもの) 160人
出来事別の支給決定件数
主な出来事別の労災認定は、以下の通りです。
特に、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」「セクシャルハラスメントを受けた」は、昨年から増加しています。
「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」79件
「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」68件
「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」55件
「セクシャルハラスメントを受けた」42件
「2週間以上にわたって連続勤務を行った」42件
など
上記のように、過労やハラスメントによって労災認定される件数は年々増加しており、他人事ではありません。
産業医面談や健康診断(二次健診)、衛生委員会等を活用して、社員ひとりひとりの体調管理の実施や従業員の過重労働・ハラスメント防止の対策を積極的に進めていきましょう!