2019年6月28日、厚生労働省は2018年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。
厚生労働省では、仕事の負荷、あるいはストレスなどによる労災の申請件数、および労災と認められた件数を2002年から毎年とりまとめ、公表を行っています。
※「過労死等」とは、過労死等防止対策推進法第2条で以下のように定められています。
「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。
以下では、「仕事の負荷による脳・心臓疾患」と「ストレスなどによる精神障害」に分けて、今般公表された2018年度の状況をみていきます。
仕事の負荷による脳・心臓疾患~申請数は過去5年で最多~
仕事の負荷による脳・心臓疾患での労災の請求は877人(うち死亡は118人)、このうち労災と認められたのは238人(同217人)でした。
申請数については過去5年で最多、一方で認定数については、過去5年で3番目に多い結果になりました。
<労災認定の多い業種>
2018年度に労災として認められた238人を業種別にみていくと、上位10業種は以下の通りです。
1 道路貨物運送業:83人(うち死亡は27人)
2 飲食店:24人(同3人)
3 その他の事業サービス業:10人(同4人)
4 道路旅客運送業:9人(同3人)
5 飲食料品卸売業:8人(同3人)
6 金属製品製造業:7人(同1人)
6 設備工事業:7人(同3人)
6 総合工事業:7人(同5人)
9 飲食料品小売業:6人(同4人)
10 食料品製造業:5人(同1人)
10 宿泊業:5人(同1人)
上記のとおり、運輸業や卸売・小売業、建設業、製造業、宿泊業といった特定の業種での労災が多いことがわかります。
<労災認定の多い職種>
続いて、2018年度に労災として認められた238人を職種別にみていくと、上位10職種は以下の通りです。
1 自動車運転従事者:85人(うち死亡は25人)
2 飲食物調理従事者:20人(同4人)
3 法人・団体管理職員:16人(同9人)
4 運搬従事者:13人(同9人)
5 接客・給仕職業従事者:11人(同1人)
6 建築・土木・測量技術者:10人(同5人)
6 そのほかの保安職業従事者:10人(同4人)
8 商品販売従事者:8人(同3人)
9 営業職業従事者:7人(同3人)
10 営業・販売事務従事者:6人(同3人)
業種別でも運輸業での労災が目立ちましたが、職種別でみていくといドライバーの労災がひと際多いことがわかります。
<年齢別の労災認定数>
年齢別の労災認定数は以下のとおりです。
19歳以下:0人
20~29歳:4人(うち死亡は1人)
30~39歳:20人(同7人)
40~49歳:85人(同27人)
50~59歳:88人(同33人)
60歳以上:41人(同14人)
上記の通り、働き盛りの30歳以上で労災が多いことがわかります。
また、2017年度は全体のうち60歳以上は12.7%だったのに対し、2018年度の結果では、17.2%にまで増加しており、年齢が高い方の労災が増えていました。
<時間外労働時間別の労災認定数>
時間外労働時間別の労災認定数は以下のとおりです。
なお、「時間外労働時間」は、脳・心臓疾患の発症前1ヶ月の時間外労働時間、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間の平均時間外労働時間での評価方法があり、それらを合計したものになります。
また、1ヶ月の時間外労働時間が100時間未満、平均時間外労働時間が80時間未満で労災認定をした場合には、労働時間のみならず、以下の負荷要因も判断基準に含めています。
・ 不規則な勤務
・ 拘束時間の長い勤務
・ 出張の多い勤務
・ 交代制勤務。深夜勤務
・ 精神的緊張を伴う業務
45時間未満:0人
45時間以上60時間未満:2人(うち死亡は1人)
60時間以上80時間未満:13人(同6人)
80時間以上100時間未満:88人(同28人)
100時間以上120時間未満:54人(同24人)
120時間以上140時間未満:30人(同6人)
140時間以上160時間未満:17人(うち5人)
160時間以上:19人(うち10人)
ストレスなどによる精神障害~労災認定数のうち15%はハラスメントが原因~
仕事のストレスなどによる精神障害での労災の請求は1820人(うち自殺・自殺未遂は200人)、このうち労災と認められたのは465人(同199人)でした。
申請数については脳・心疾患同様に過去5年で最多、一方で認定数については、過去5年で一番少ない結果になりました。
<労災認定の多い業種>
2018年度に労災として認められた465人を業種別にみていくと、上位10業種は以下の通りです。
1 道路貨物運送業:37人(うち自殺・自殺未遂は5人)
2 医療業:35人(同3人)
2 社会保険・社会福祉・介護事業:35人(同1人)
4 総合工事業:23人(同5人)
5 飲食店:20人(同5人)
6 機械器具小売業:19人(同6人)
7 情報サービス業:18人(同3人)
8 食料品製造業:17人(同3人)
9 設備工事業:15人(同5人)
10 そのほかの小売業:13人(同2人)
上記のとおり、医療、福祉関係での労災が多いことがわかります。
また、脳・心臓疾患とは異なり、精神障害では情報通信に関する業種が上位に入りました。
<労災認定の多い職種>
続いて、2018年度に労災として認められた465人を職種別にみていくと、上位10職種は以下の通りです。
1 一般事務従事者:41人(うち自殺・自殺未遂は9人)
2 営業職業従事者:38人(同6人)
3 自動車運転従事者:35人(同5人)
4 法人・団体管理職員:32人(同10人)
5 建築・土木・測量技術者:23人(同9人)
6 商品販売従事者:23人(同4人)
6 保健師、助産師、看護師:22人(同0人)
8 介護サービス職業従事者:20人(同0人)
9 製品製造・加工処理従事者(金属製品を除く):19人(同3人)
10 情報処理・通信技術者:17人(同4人)
業種別でみたとき、医療、福祉関係の労災が多いことがわかりましたが、これらのうち多くが看護師などの医療職や介護に携わる人など、現在の最前線で業務に従事されている方たちでした。
<年齢別の労災認定数>
年齢別の労災認定数は以下のとおりです。
19歳以下:5人(うち自殺・自殺未遂は0人)
20~29歳:93人(同18人)
30~39歳:122人(同19人)
40~49歳:145人(同20人)
50~59歳:81人(同13人)
60歳以上:19人(同6人)
脳・心臓疾患による労災の場合は、比較的年齢層の高い方に偏りがありましたが、精神障害は特に30歳代、40歳代の働き盛り世代に集中していることがわかります。
<時間外労働時間別の労災認定数>
時間外労働時間別の労災認定数は以下のとおりです。
なお、「時間外労働時間」は、事案ごとに定めた評価期間の1ヶ月平均を算出しています。
20時間未満:82人(うち自殺・自殺未遂は8人)
20時間以上40時間未満:30人(同4人)
40時間以上60時間未満:37人(同8人)
60時間以上80時間未満:27人(同6人)
80時間以上100時間未満:30人(同9人)
100時間以上120時間未満:61人(同16人)
120時間以上140時間未満:34人(同10人)
140時間以上160時間未満:17人(同5人)
160時間以上:35人(うち4人)
労働時間を明らかにするまでもなく業務によると判断できるもの:112人(同4人)
<出来事別の労災認定件数>
精神障害については、原因となった出来事を以下のように分類しています。
① 事故や災害の体験
② 仕事の失敗、過度な責任の発生等
③ 仕事の量・質
④ 役割・地位の変化等
⑤ 対人関係
⑥ セクシュアルハラスメント
⑦ 特別な出来事
⑧ そのほか
さらに上記類型を具体的な出来事に分類しており、上位には以下が挙がりました。
・嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた:69人(うち自殺・自殺未遂は7人)
・仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった:69人(同14人)
・悲惨な事故や災害の体験、目撃をした:56人(同0人)
上記に挙げた以外にも、セクハラを受けた(33人)、上司とのトラブルがあった(18人)など人間関係によるものは少なくありませんでした。
国を挙げての対策と、業界別の対策
現在、国を挙げて進められている「働き方改革」では過重労働対策も盛り込まれており、実際に2019年度より施行された働き改革関連法では時間外労働時間についても規定されています。
一方で、業種別・職種別での対策も少しずつではありますが進められています。
脳・心臓疾患の労災で上位に挙がってきたドライバーについては、国道交通省と全日本トラック協会が「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を公表しています。
ガイドラインの詳細はこちらの記事をご覧ください。
また、精神障害の労災で上位に挙がってきた医療従事者についても、2019年4月に日本看護協会が厚生労働大臣に対して、職場でのハラスメント対策強化を求める要望書を提出しています。
産業保健新聞では今後も、これら動向を追いかけていきます。
<参考>
・ 厚生労働省「平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」
・ 厚生労働省労働基準局労働条件政策課、国土交通省自動車局貨物課、公益社団法人全日本トラック協会「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」
・ 公益社団法人日本看護協会広報部「厚生労働大臣へ要望書医療現場におけるハラスメント対策を求める」