拘束時間は長いけど幸福度は高い?~「令和6年過労死等防止対策白書」から見えた芸術・芸能従事者の特徴~
- 2024/11/11
- 長時間労働
2014年10月11日、日本は「令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(以下、「令和6年過労死等防止対策白書」)を公表しました。
「過労死等防止対策白書」とは、過労死等防止対策推進法6条に基づき、国会に毎年報告を行う年次報告書で、今回で9回目となります。
(年次報告)
第6条 政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならない。出所:過労死等防止対策推進法
「令和6年過労死等防止対策白書」の主要な内容は以下のとおりです。
・ 2024年8月に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更経緯やその内容
・ 医療従事者(医師・看護師)の精神障害の労災認定事案の分析結果、DXなど先端技術担当者、および芸術・芸能従事者(スタッフ)の働き方の実態
・ 長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民に対する啓発、民間団体の活動に対する支援など、労働行政機関の施策状況 など
ここでは上記のうち「過労死等の防止のための対策に関する大綱の変更」および、大綱の変更によって重点業種に追加された「芸術・芸能従事者(スタッフ)の働き方の実態」をわかりやすく解説します。
過労死等の防止のための対策に関する大綱の変更
そもそも「過労死等の防止のための対策に関する大綱」は、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するため、過労死等防止対策推進法に基づき2015年7月に初めて閣議決定されたものです。
社会経済情勢や過労死をめぐる情勢の変化や、対策の推進状況などを踏まえておおむね3年を目途として必要に応じて見直しを行うこととされています。
「過労死等の防止のための対策に関する大綱」にもとづくさまざまな取り組みの結果、長時間労働は減少傾向、有給休暇の取得率が増加するといった一定の成果が見られている一方で、特に若年層の心身の健康が損なわれるような痛ましい事態が今なお多く発生している状況が見られています。
こうした状況を踏まえて、2024年8月には、新たな大綱が閣議決定されました。
<大綱の変更ポイント>
・ 大綱策定10年を振り返り、さらなる推進を取り組み
・ 上限規制の順守撤廃、過労死などの再発防止指導、フリーランス対策などの強化
・ 業種やハラスメントに着目した調査・分析を充実
・ 関係者による取り組みを推進
芸術・芸能従事者(スタッフ)の働き方の実態
上記変更ポイントのうち「業種やハラスメントに着目した調査・分析を充実」の一つとして、調査研究を行う重点業種に芸術・芸能分野が追加されました。
ここでは「令和6年過労死等防止対策白書」のうち芸術・芸能従事者(スタッフ)の結果を見ていきます。
まず、1週間あたりの拘束時間をみたところ、20時間未満が9.7%、20時間以上40時間未満が15.4%、40時間以上60時間未満が39.7%、60時間以上が35.2%でした。
1週間あたりの実労働時間が60時間を超えるのは就業者全体で5.5%にとどまっていることを考えると、芸術、芸能従事者(スタッフ)は長時間労働の傾向があることがうかがえます。
さらに、1ヵ月あたりの完全休養日数0~3日(週1日未満)が55.1%と過半数を占め、4~6日(週1日)が18.9%、7~10日(週2日)が16.9%、11~14日(週3日)が3.5%、15~19日(週4日)が2.2%、20~23日(週5日)が2.2%、24日以上(週6日以上)が1.2%となるなど、休養日の非常に少ない実態も明らかになりました。
うつ傾向・不安傾向についてみたところ、「うつ・不安障害の疑い」と「重度のうつ・不安障害の疑い」を合わせた割合が一般就業者全体では28.5%であったのに対して、芸術・芸能従事者(スタッフ)は、30.5%となるなど高い傾向が見られました。
一方で、とても不幸せ(1)~とても幸せ(10)の10段階で主観的な幸福感をみたところ、8~10の割合は、一般就業者全体では31.2%であったのに対して、芸術・芸能従事者(スタッフ)は、45.0%となるなど高い傾向が見られました。
これらの結果を踏まえると、芸術・芸能従事者(スタッフ)に対しては、心身の健康と幸福感のバランスをとった対策をしていくことが考えられます。
さいごに
今回は、「令和6年過労死等防止対策白書」から「過労死等の防止のための対策に関する大綱の変更」および、大綱の変更によって重点業種に追加された「芸術・芸能従事者(スタッフ)の働き方の実態」をわかりやすく解説しました。
なおから「令和6年過労死等防止対策白書」全体版においては、芸術・芸能従事者(スタッフ)についてより細かな職種別の分析がなされています。
これまで数値的な実態が明らかになることの少なかった業種ですので、ぜひ皆さんも一度目を通してみてください。