運送業の長時間労働に対して、改善策検討まとめを公開 ~加工食品、飲料・酒物流編~

運送業の長時間労働に対して、改善策検討まとめを公開 ~加工食品、飲料・酒物流編~

国土交通省は、令和3年4月27日に「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン(加工食品、飲料・酒物流編)」のとりまとめを公表しました。

運送業、物流業界では以前より問題視されている「荷待ち時間」。
トラック運転手が時間通りに集荷や配達場所に着いたとしても、荷物の積み下ろしが完了するまで待機する時間が発生します。

この「荷待ち時間」が30分以上生じた件数が多い品目(加工食品、建設資材、紙・パルプ)について改善策の検討などを行い、昨年令和2年5月にそれぞれの品目のガイドラインを策定しました。
ガイドライン策定の詳細は下記記事をご覧ください。

そしてこのガイドラインは、「加工食品物流編」からこの度「加工食品、飲料・酒物流編」へと改訂しています。
今回はこの「加工食品、飲料・酒物流」に関して長時間労働対策をとりまとめられた内容を簡単にご紹介いたします。

解決に向けて、問題の整理

まず、問題となっている飲料・酒物流の現状及び課題について、関係事業者等から聴取を行い、状況の整理をされました。
下記にその一部を抜粋いたします。

(1)発注ルール

現状・課題
リードタイムが短く、また少量・多頻度納品が多発。結果、実車率・積載効率の悪化につながっている

解決の方向性に係る論点
「加工食品物流ガイドライン」で掲示した方向性に沿いつつ、引き続き取り組みを実施

リードタイムとは、商品の発注から納品に至るまでの生産や輸送などにかかる時間のことをいう物流用語です。
小品についても梱包の規程があったり、ガイドラインによりさまざまな対応を実施しています。

(2)納品時間・荷待ち時間

現状・課題
物流が多く、さらに繁閑散差もあるため、センターのキャパシティオーバーや納品時間の集中、荷役・附帯作業に時間を要することによる荷待ち時間が長時間化

解決の方向性に係る論点
予約受付システムの導入や検品作業の効率化により、納品時間の管理を実施

物流は一般的に年末年始、夏期、その他イベント事の時などが繁忙期となり、閑散期とは差があります。
また、IT化によって作業の管理がいきわたることはどの業界においても効率的だと考えられるでしょう。
ぜひ導入していただきたいところです。

(3)帰り荷の確保

現状・課題
メーカーから卸への配送後は、一部回収した空容器等の荷物はあるにしても、空車で回送することが多い

解決の方向性に係る論点
メーカー・卸で車輛の相互活用に向けた取組みを実施

上記3点の他にも、「共同輸送」「季節・繁閑波動」「附帯作業(卸・小売物流)」など合計12点ほどの現状整理がおこなわれました。

改善のための実証実験

さて、現状を整理した上で、実際に労働環境の改善をするための施策が必要です。

令和2年度は、荷待ち時間の発生が引き続き多かった「飲料・酒物流」について、トラック運送事業者や発着荷主等関係者が連携した合同会議をおこない、実証実験を実施しました。
下記はその実証実験結果の一部です。

(1)出荷情報の事前共有によるノー検品
実施事業者:アサヒビール、国分首都圏
内容メーカーから卸に送付されたASN(※1)が、卸の入荷予定情報として正しければ入荷確定データとして取り込む。これにより、卸拠点でおこなう検品作業の省略(ノー検品)を実現。
結果ドライバーの荷待ち時間の短縮、そして労働時間の短縮・負荷軽減につながることが期待される。また、卸拠点のバース(※2)回転率の向上や人員配置計画の最適化に資する示唆が得られた。

※1:ASN…事前出荷明細送付。集荷する前に、商品の納付先へ納品予定数などの情報を送付すること。
※2:バース…トラックから荷下ろしする場所のこと。

このノー検品によって、バースでの荷下ろし以外の時間、つまりフォークリフト用バースでの約67時間/月(9分24秒×約430件)と、手作業バースでの約125時間/月(8分32秒×約880件)、合計約192時間/月がドライバーの附帯時間から削減されると仮定されており、大幅な改善が期待できます。

(2)年月日表記と年月表記の作業比較・検討
実施事業者:国分首都圏、日本酒類販売
内容年月表記と年月日表記の商品補充作業を比較して、年月表記に切り替えた場合の効果を推計。また、商品補充時におこなう先入先出作業等の時間を計測して、年月表記に統一することによる効果を別途推計した。
結果年月表記への統一が進むことで、先入先出の回数が減るため、庫内作業含む附帯作業の削減につながると考えられる。また、食品ロスの削減など、サプライチェーン全体に与える好影響も大きいという示唆が得られた。

こちらは賞味期限や製造時期の表記についての検討です。
チューハイなどの酒類の年月表記、炭酸など飲料の年月日表記が混在していることが作業時間に影響していることを踏まえたとのこと。

各棚の補充につき、年月表記のほうが年月日よりも30秒ほど短く、合計時間でも10分程度の差が発生していました。
そして、実際にすべて年月表記に統一したときの作業時間を計測したところ、入庫日時が古いものから順番に出庫する「先入れ先出し」の作業時間は平均2分42秒(n=30)、棚入れ作業は32秒(n=56)という結果になりました。

そこから推計として、年月表記への切替えによる時間は月間で約10時間51分3秒、年間で約130時間12分38秒が削減されることが期待されます。
一つの作業は数分、数十秒だとしても、塵も積もれば……ということで、ここまでの改善が見込まれるようでしたら、ぜひ本格的に実施いただきたいところです。

また、上記(1)、(2)の他にも、
「自動販売機オペレーター拠点における附帯作業の見える化」
「小売・料飲店における附帯作業の見える化」
「車輛の共同活用」
の実証実験結果が挙げられています。
詳細は下記よりご覧ください。

◆ 国土交通省「加工食品物流における生産性向上及びトラックドライバーの労働時間改善に関する懇談会 飲料・酒物流分科会 実証実験の内容の詳細」

まとめ

荷待ち時間は車内で待機している時間ですが、一般的には休憩時間ではなく労働時間とされることが多いため、運送業の長時間労働に拍車をかけていることの一つです。

しかしこれは、小さな作業の積み重ねで発生しているものでもあるので、今回の改善策の検討のように、荷待ちに間接的に関わってくる一つ一つの業務、1分1秒の作業でも見直しすることがとても重要になってきています。

私たちの生活に物流は必要不可欠です。トラック運転手はじめ運送業全体の労働環境が少しでも早く改善されていくことを期待していきたいです。

<参考>
・ 国土交通省「飲料・酒の物流改革を進めていきます~『荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン 加工食品、飲料・酒物流編』をとりまとめ~)」
・ 国土交通省「加工食品物流における生産性向上及びトラックドライバーの労働時間改善に関する懇談会 飲料・酒物流分科会 実証実験の内容の詳細」

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海南 一肇株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

他業界より転職し、今に至ります。激務をこなすことが当たり前になっている日本の風潮に、「働き方改革」はまだまだ発展途上だと感じておりました。
企業で働く皆さまの健康的な労働環境を守るため、少しでもお力になれるような情報をお届けします。
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