運送業や外食産業の労働実態が明らかに~「令和3年版 過労死等防止対策白書」が公表されました~

運送業や外食産業の労働実態を調査!「令和3年版 過労死等防止対策白書」公表

令和3年10月26日(火)、厚生労働省は、過労死等防止対策推進法第6条に基づき、令和3年度版「過労死等防止対策白書」(以下、白書)を公表しました。
白書は毎年公表されており、今回で6回目となります。

※令和2年度版の白書(以下、白書)は、以下の記事をご参照ください。

令和3年版白書のポイントとしては以下が挙げられています。

(1)7月30日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更経緯やその内容の報告
(2)大綱で定める重点業種等のうち、自動車運転従事者、外食産業に関する調査・分析結果(新型コロナウイルス感染症の影響を含む)の報告
(3)長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民に対する啓発、民間団体の活動に対する支援など、昨年度の取組を中心とした施策状況の詳細報告
(4)企業でのメンタルヘルス対策や勤務間インターバル制度の導入など、過労死等防止対策のための取組事例を紹介

今回は、主に(2)の自動車運転従事者や外食産業に関する分析をわかりやすく紹介します。

トラック運転者やタクシー運転者の悩みは「賃金水準の低さ」が最多

まず、トラック運転者の精神障害事案237件を男女別にみた場合に、男性が214件(90.3%)、女性が23件(9.7%)でした。
事案件数だけでは男性のほうが圧倒的に多いようにみえますが、トラック運転手の男女比率は現在でも大きな差があり、女性は全体のわずか2.4%ほどに留まっています。
それを念頭に置くと、女性の事案件数も決して少なくないことがわかりますね。
また、年齢別に見た場合は、40歳代が最多で96件(40.5%)、次いで30歳代が73件(30.8%)、50歳代が36件(15.2%)でした。
事案の具体的な内容としては、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が最多で34件(25.6%)、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」、「上司とのトラブルがあった」が24件(18.0%)、「(重度の)病気やケガをした」23件(17.3%)と続きます。
また、全国の運送業企業4,430社、労働者5,180人を対象にアンケート調査を行ったところ、業務に関連したストレスや悩みの内容に関しては、トラック運転者やタクシー運転者は「賃金水準の低さ」が最も多く、バス運転者では「不規則な勤務による負担の大きさ」が最多でした。
「事故等の恐れ」や「職場の人間関係」などもそれぞれ見逃せない結果です。

出所:厚生労働省「令和3年版過労死等防止対策白書」

また、運送業に携わる労働者の深刻な問題の一つとして、「過重労働」が挙げられますが、運送業の企業側としては以下のような対策を実施している状況だとわかりました。
「安全面・健康面に配慮したゆとりのある運行管理」(61.2%)が最も多く、次いで「休日の振替又は代休(代償休日)の付与」(55.0%)、「改善基準告示や国土交通省告示に関する従業員への教育研修」(37.8%)です。
どれもしっかり取り組まれていたら効果が期待できる施策なので、実施が広まっていくことを期待します。

出所:厚生労働省「令和3年版過労死等防止対策白書」

新型コロナウイルス感染症の影響に関しては、労働時間が減った者や休日・休暇が取得しやすくなった者がいる一方で、ストレスや悩みが増えた者も全体の3割を占めました。
事業者はストレスチェックによりこれらの従業員の状況に気づき、集団分析を利用した職場環境改善を促進するべきとされています。

外食産業の従業員の悩みは「職場の人間関係」が最多

続いて外食産業を含む「宿泊業、飲食サービス業」の分析結果もみてみましょう。
精神障害事案214件を具体的な出来事別にみると、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が最も多く48件(22.4%)、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」46件(21.5%)、「仕事内容・量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」40件(18.7%)、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」33件(15.4%)の順に多いことがわかりました。
また、全国の外食産業企業4,000社、労働者4,860人を対象にアンケート調査を行ったところ、業務に関連したストレスや悩みの内容に関しては、スーパーバイザー等や店長では「売上・業績等」が最も多く、店舗従業員では「職場の人間関係」が最多でした。

出所:厚生労働省「令和3年版過労死等防止対策白書」

新型コロナウイルス感染症の影響に関しては、前項の運送業と同様で、労働時間が減ったり休日が取得しやすくなった一方で、ストレスや悩みが増えた者も見られたとのことです。
注目すべきは、職場でのパワーハラスメントの有無について「ハラスメントを受けていた(いる)」の割合は全体では8%程度であるものの、20歳代以下の男性に絞ると25%(4人に1人)となっており高い割合だと考えられます。
一方で、企業を対象としたアンケート調査によると、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況は、約半数の企業が「実施していない」と回答しています。
今後2022年4月から中小企業でもパワハラ防止対策が義務化することに向けて、少しずつでも改善していくことを望みます。

最後に

今回はコロナ禍において大きく影響を受けた業種の中でもふたつ、運送業と外食産業の分析にスポットライトをあてて調査結果を取り上げました。
コロナ前からも依然として問題となっている過重労働や職場の人間関係、ハラスメントについては、各業界全体として引き続き真摯に向き合い、対策を講じてほしいと考えます。

<参考>
・ 厚生労働省「『令和3年版 過労死等防止対策白書』を公表します」

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海南 一肇株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

他業界より転職し、今に至ります。激務をこなすことが当たり前になっている日本の風潮に、「働き方改革」はまだまだ発展途上だと感じておりました。
企業で働く皆さまの健康的な労働環境を守るため、少しでもお力になれるような情報をお届けします。
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