令和6年版厚生労働白書を公表しました~労働者の健康を確保するための対策の充実~

2024年8月27日、厚生労働省は「令和6年版厚生労働白書」(令和5年度厚生労働行政年次報告)を公表しました。第1部のテーマは「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」です。
「令和6年版厚生労働白書」は、今年のテーマについて掘り下げる第1部と、厚生労働行政の施策をまとめた第2部の2部構成となっています。
このうち、その年ごとのテーマを設定している第1部ではこころの健康を損ねる背景にある「ストレス要因」に着目し、幼年期から老年期までに至るライフステージに沿って、現代社会のストレスの多様さについて考察した上で、こころの健康に関する対策や支援の現状および今後の方向性を提示しました。
そこで今回は、その中でも労働者の健康を確保するための対策の充実についてご紹介いたします。

労働者の健康を確保するための対策の充実

厚生労働省の「令和6年版厚生労働白書」では「こころの健康」を下記のように示しています。

「こころの健康」は、「人生のストレスに対処しながら、自らの能力を発揮し、よく学び、よく働き、コミュニティにも貢献できるような、精神的に満たされた状態」とされており、すべての人の健康とウェルビーイングに不可欠な要素であり、精神障害の有無にかかわりないものであるとされている。
これは、世界保健機関(WHO)が2022年に刊行した報告書“World mental health report: Transforming mental health for all”( 以下「WHO2022報告書」)で用いられている用語であるmental healthの定義を参考にしているものである。

引用:厚生労働省「令和6年版厚生労働白書」
第1部 こころの健康と向き合い、健やかに 暮らすことのできる社会に

からだの健康はもちろんのこと、「こころの健康」も大切です。しかし、こころの健康は一見して気づきにくいため、周囲の人の気づきやサポートできる環境が重要となります。
第2部の第1章第6節「労働者が安全で健康に働くことができる職場づくり」の中で、労働者の健康を確保するための対策の充実して「ストレスチェック制度の周知・啓発等 」「その他メンタルヘルス対策の推進 」「過重労働による健康障害を防止するための面接指導等の推進 」「産業保健活動の促進 」の4つが取り上げられています。

(1)ストレスチェック制度の周知・啓発等

2015(平成27)年よりストレスチェック制度が施行されています。
ストレスチェック制度の目的は、労働者の心理的な負担の程度を把握し、セルフケアや職場環境の改善につなげ、メンタルヘルス不調の未然防止の取組みを強化するためとされています。
ストレスチェック制度の運用に当たって、「具体的な実施方法」「実施体制」「不利益な取扱いの禁止等」の重要な事項に直面することが想定されます。
これらついては、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」などで解説されています。
さらに、厚生労働省では、ストレスチェック制度の適切な運用を図るため、実際に事業場においてストレスチェックの導入に携わる人事労務担当者や産業保健スタッフ向けに、より具体的な運用方法等を解説した「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」を作成し周知を行っています。
また、独立行政法人労働者健康安全機構における「ストレスチェック制度サポートダイヤル」での相談対応、全国の産業保健総合支援センターにおける研修などを実施しています。
このほか、「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を作成し、厚生労働省の Webサイトで無料配布するともに、ストレスチェック制度の実施に係る事業場の工夫例等を公開しています。

厚生労働省「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」

(2)その他メンタルヘルス対策の推進

2006(平成18)年に策定された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、 メンタルヘルスケアの基本的な実施方法を示し、この指針に則した取組みが行われるよう求めています。
取組みが遅れている事業場に対しては、全国の産業保健総合支援センターで事業者からの相談に応じる、個別に訪問して助言を行うなど、メンタルヘルス不調の未然防止から休業者の職場復帰に至るまでの総合的なメンタルヘルス対策導入についての支援を行っています。
また、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」において、事業者、産業保健スタッフ、働く方やその家族に対して、メンタルヘルスに関する最新情報や、事業場のメンタルヘルス対策の取組事例等やセルフケアの方法などのさまざまな情報を提供しています。そのほか、電話・メール・SNSによる相談も行っています。

厚生労働省「こころの耳」

(3)過重労働による健康障害を防止するための面接指導等の推進

労働者の健康管理に関する措置として、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(2002(平成14)年2月策定、2020(令和2)年改正)では、労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9の規定に基づき、長時間労働を行った労働者への医師による面接指導や、その結果によって就業上の措置などを行うよう、国からの指導を徹底する旨が記載されています。
2019(平成31)年4月施行の改正労働安全衛生法関係法令により、事業者は、労働時間の状況の把握が義務づけられました。また、時間外・休日労働時間が80時間を超え、かつ、申出のあった労働者への面接指導の義務化や、高度な知識やスキルを持つ研究開発業務などに従事する労働者に対して、労働基準法による労働時間、休憩、休日、深夜割増賃金に関する規定を適用しない高度プロフェッショナル制度も導入されました。
労働安全衛生法の条文には、長時間労働を行った労働者に対して、面接指導を実施しなければならないことと明記されています。

(4)産業保健活動の促進

メンタルヘルス不調や過重労働などによる健康障害が課題となっている中、これらの予防や早期の対応を行う上で一層重要な役割を担うものです。そのため、各都道府県労働局では、事業者に対し、産業医などの適切な選任、衛生委員会の活動の活性化などについて指導を行うとともに、全国の産業保健総合支援センターにおいて、産業保健関係者からの専門的相談対応、研修を実施しています。
また、産業保健体制が不十分な労働者数50人未満の小規模事業場に対して、産業保健総合支援センター(地域産業保健センター)において、健康診断の結果に関する相談、長時間労働者や高ストレス者に対する面接指導、脳・心臓疾患のリスクの高い労働者に対する保健指導、メンタルヘルス不調者への相談指導などを実施しています。

まとめ

目には見えない「こころ」のことは、予測はできても、実際にどうなるかはそのときになってみないとわからないものです。
「まだ、大丈夫」「きっと時間がたてばなんとかなる」とそのままにしている人もいるのではないでしょうか。そのときは平気だと思っていても、メンタルヘルス不調は突然訪れます。
「こころの健康」を保つためにも、周囲の人のサポートや気づきはもちろんのこと、ストレスなどのこころの不調にすぐに対処できるような環境を今一度見直しましょう。

<参考>
・ 厚生労働省「「令和6年版厚生労働白書」を公表します」
・ 厚生労働省「令和6年版厚生労働白書」
・ 厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づ き事業者が講ずべき措置に関する指針」
・ 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
・ 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
・ 厚生労働省「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」

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須賀 実咲株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士

投稿者プロフィール

大学で臨床心理、福祉を専攻し、福祉介護業界に勤めていました。自立支援や就労支援も経験し、生活での悩みや環境について強い興味関心があります。
日常の健康や不安に向き合える機会や、きっかけになれる情報を発信していきます。
【保有資格】精神保健福祉士
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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