近未来健康活躍社会戦略〜人生100年時代を健康で生き抜くために〜
- 2024/10/2
- 健康経営
厚生労働省は、人生100年時代を健康で有意義な生活を送りながら活躍できる社会の実現を推進すべく「近未来健康活躍社会戦略」を8月30日に発表しました。
近未来健康活躍社会戦略とは?
日本は、少子高齢化・人口減少、デジタル化、グローバル化という大変革時代の渦中にあります。国民皆保険の持続可能性を確保しつつ、未来に向けて、最先端の技術を医療・介護分野に取り込み、人生100年時代を健康で有意義な生活を送りながら活躍できる社会の実現を目標に、近未来健康活躍社会戦略が立ち上がりました。
国内戦略と国際戦略の二軸で構築されており、概要は以下のとおりです。
国内戦略
・医療・介護DXの更なる推進
・提供体制の改革 (医師偏在対策の推進)
・後発医薬品の安定供給体制の構築
・女性・高齢者・外国人 の活躍促進
・イノベーションを健康づくり・ 治療に活かす環境整備
国際戦略
・創薬力の強化による革新的新薬の開発
・世界の感染症対策を牽引する感染症危機管理体制の構築
・アジア圏等における医療・介護の好循環の実現 (インバウンド・アウトバウンド の推進等)
・「UHCナレッジハブ」 の日本設置
国内戦略と国際戦略についてそれぞれ見ていきましょう。
国内戦略
医療 ・介護DXの更なる推進
DX(デジタルトランスフォーメーション)はデジタル技術を用いてビジネスや生活を変革するという意味です。
医療・介護DXの推進は、国民の健康を守り質の高い医療やケアを効率的に提供することを目指しています。最近、マイナ保険証やお薬手帳の情報をマイナンバーで一元管理し、医療サービスの質向上を図る動きが進んでいますよね。
12月のマイナ保険証への移行に向け、医療DXの基盤を強化し、関係法令の整備を迅速に進めます。
・電子カルテ情報共有サービスの構築・普及を進め、大病院での標準化や診療所への導入、電子処方箋の普及を図ります。また、次の感染症危機に備え、電子カルテ情報と発生届、臨床研究との連携を促進し、JIHS(国立健康危機管理研究機構)への情報集約を行います。
さらに、診療報酬改定のDX、介護情報基盤の構築、PMH(公費負担医療等の情報連携基盤)の推進も行います。
・医療・介護の公的データベースの利用を促進し、仮名化情報や電子カルテの二次利用を行い、安全に利用できるクラウド環境を構築し、手続のワンストップ化を進めます。
また、検査や薬剤に関するコードの標準化を行い、質の高い医療データの整備・管理に取り組みます。
・「社会保険診療報酬支払基金を「医療DX推進機構(仮称)」として改組します。国が医療DX方針の開示や中期計画を取り決め、保険者や国・地方が参画し、迅速かつ柔軟な意思決定を行う体制を整えます。
・国が先頭に立ってマイナ保険証の利用を後押しし、生成AI等の医療分野への活用を視野に入れています。
提供体制の改革 (医師偏在対策の推進)
少子高齢化への対応、医師偏在の是正を目的とした対策を、医師確保計画、育成、配置を柱に2024年末までに策定・推進します。
総合的な対策パッケージの骨子案(引用:厚生労働省「近未来健康活躍社会戦略」)
後発医薬品の安定供給体制の構築
後発医薬品はジェネリック医薬品とも呼ばれており、耳にしたことがある方も多いのではないのでしょうか。
先発薬品の特許が切れた後に販売されるもので、先発医薬品と同じ有効成分や効能を持ち、同等の効き目を持ちながら安価であるのが特徴で、欧米では広く使用されています。
この後発医薬品の安定供給化を目指すため、5年程度の集中改革期間の中で、強化していく構造改革は以下の通りです。
・生産効率向上と供給量増加のため、設備投資などの支援策を検討し、既存企業への支援策の活用を推進します。
・独占禁止法の懸念を解消するため、後発医薬品業界向けの事例集を作成、相談窓口を設置します。これらの取り組みは公正取引委員会と連携して進めます。
・市場参入時の安定供給を求め、医薬品の需給状況を把握・調整します。また、供給不安発生時には解消策を講じるため、安定供給確保のマネジメントシステムに関する法的枠組みを整備します。
・安定供給を実現するため、企業努力の可視化に向けて企業情報の活用と公表の仕組みを創設します。また、令和6年度の薬価改定では、不採算品の再算定を含む薬価下支えルールを導入し、適正価格での流通を確保するために流通改善ガイドラインを改訂します。
女性・高齢者・外国人 の活躍促進
多様性の尊重は社会の持続的な発展に不可欠であり、女性や高齢者、外国人が自己実現を果たし能力を発揮することで社会全体の活力になると期待されています。
そのために、働き方改革を通じて国民が安心して活躍できる環境を整備します。
【女性の活躍】
日本の「女性活躍推進」を強化し、女性が能力を最大限に発揮できる社会を目指します。
就業環境整備に取り組む企業への支援を通じて働き方の見直しを促進し、2024年10月に国立成育医療研究センターに「女性の健康総合センター」を開設して研究・診療機能を充実させ、コンサルティング支援で男女間の賃金差異是正や女性登用を加速します。
【高齢者の活躍】
諸外国で最も高齢化が進んだ日本の知見を活かし、高齢者が長く活躍できる社会の実現を目指す。
介護予防の推進、高年齢労働者の働きやすい環境整備、そして認知症に関する理解促進と早期発見・対応を目指した支援モデルの確立に取り組みます。
【外国人の活躍】
海外から選ばれる国として適切な外国人材の確保を目指し、受入れ・就労環境の整備を進めます。25年度には受け入れ方策を検討して、外国人の就労状況や労働条件の適正化を推進します。また、育成就労制度の準備や外国人技能実習機構の体制整備を行い、アジアでの国際協力を推進します。
イノベーション(技術革新)を健康づくり・ 治療に活かす環境整備
多様なイノベーションや最先端技術を国民の健康に活かすため、医療現場での活用と産業政策の観点を踏まえたスタートアップ支援の両面から、効果的な取り組みを推進します。
・ウェアラブルデバイスによるライフログデータを含むPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を標準型電子カルテと連携させ、医療・介護現場での活用を促進し、民間企業の製品開発を促進するとともに、認知症の方へのデジタル技術の活用についてナショナルセンターを中心に地域で実証的な研究を実施します。
・医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の機能を強化し、スタートアップからの承認申請や診療報酬に関する要望を一元的に受け付ける窓口を設置するとともに、介護分野にも同様の相談窓口「CARISO」を立ち上げ、AIなどの革新的技術を活用したプログラム医療機器の有用性を実証する場を提供して開発支援を進めます。
・国民皆保険を維持しつつ、医療技術の進歩と多様化する患者ニーズを踏まえ、保険収載を進めるとともに、民間保険の活用を含む保険外併用療養費制度の見直しを検討します。
国際戦略
創薬力の強化による革新的新薬の開発
「創薬力」は日本の経済成長を牽引していき、海外市場を活性化させます。アカデミアの研究成果を創薬に結びつけてドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスを解消、画期的な医薬品を提供することを目指します。そのため、民間投資を促進し、製薬企業、アカデミア、政府が協力するエコシステムを構築して創薬基盤を強化します。
・民間のさらなる投資を呼び込むため、必要な予算を確保して実施し、製薬企業、アカデミア、政府が協力し合う「エコシステム」を構築します。これにより、国内の創薬基盤を再構築・再強化します。
・日本を世界の人々に貢献できる「創薬の地」としていくため、政府と国内外の製薬企業・VC等がエコシステム構築に係る議論を行う官民協議会を、来年度に設置予定です。
・スタートアップ支援や民間投資を促進するため、創薬クラスターでアカデミアシーズの実用化支援や薬効試験の実施、官民連携で基礎研究から創薬を支援します。また、非臨床段階の企業に資金提供や、社会的ニーズの高い疾患の実用化を加速し、国際的に競争力のあるFIH試験(ヒト初回投与試験)体制を整備して革新的新薬候補の国内研究開発を促進します。
・ 実生産設備を利用した実践的研修の実施により、製造人材を育成します。
世界の感染症対策を牽引する感染症危機管理体制の構築
次のパンデミックに備え、感染症危機管理体制の構築を進め、コロナ禍の経験を活かしてグローバルに影響する感染症分野で世界をリードする体制を整えます。
そのために、新たに創設する国立健康危機管理研究機構(JIHS)を国内外の情報ネットワークのハブとし、情報集約と人材の引き寄せを通じて革新的研究と投資を促進する好循環をつくりだします。
・2025年4月に国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを再編した、国立健康危機管理研究機構(JIHS)を創設して感染症対応を強化します。質の高い科学的知見を迅速に提供し、自治体と連携して次の感染症危機に備えます。
・臨床研究ネットワークを充実させ、感染症の科学的知見や医薬品の研究開発を進め、地域の感染症危機に対応できるリーダーシップを持つ人材を育成します。
・重点感染症に対する危機対応医薬品の開発を円滑に進めるため、企業が研究開発しやすい環境を整備します。
・新型コロナの重層的サーベイランスを継続し、下水サーベイランスを拡充、急性呼吸器感染症のサーベイランスのあり方を検討します。
・予防接種事務のデジタル化のために予防接種データベースを整備し、有効性・安全性の分析体制を構築します。
※その他、新型インフルエンザ等対策政府行動計画の確実な実施や、薬剤耐性(AMR)対策への対応等も実施します。
アジア圏等における医療・介護の好循環の実現 (インバウンド・アウトバウンドの推進等)
医療のインバウンド・アウトバウンドに関する戦略的取り組みを通じて、アジア諸国をはじめとするインド太平洋地域への国際貢献や、日本の医療・介護産業の成長とさらなるイノベーションにつなげます。
・アジア諸国を中心にインド太平洋地域の医療水準向上と健康格差是正のため、外国医療人材の育成を推進します。ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)への拠出金を活用し、日本の大学医学部への外国人留学生受け入れモデルを20名規模で実証する事業を実施し、具体的な受け入れ体制も検討します。
・公的医療保険の枠外で訪日外国人患者の受け入れや医薬品・医療機器の海外展開を推進し、医療インバウンドの体制を整備します。感染症対策専門家組織「JIHS」を通じて医療従事者の派遣や研修生受け入れを行い、開発途上国や新興国のニーズに基づく医療技術の実用化研究を実施し、国際機関の調達枠組みを活用して医薬品・医療機器の海外展開を促進します。
・海外からの介護人材確保に積極的な介護事業者を支援します。そのために、現地教育機関との連携を強化するとともに、日本から帰国した介護人材のネットワーク構築を推進します。
「UHCナレッジハブ」 の日本設置
日本は1961年に国民皆保険制度を構築し、UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)を推進してきました。この経験を活かし、国際貢献を通じて日本の影響力を高め、国内外の課題解決に寄与しています。
そこで、WHOや世界銀行と連携し、途上国のUHC達成に向けたデータ整備や人材育成を行う「UHCナレッジハブ」の設置を進め、国際機関と協力してUHC推進の中心地を目指します。
「UHCナレッジハブ」の主な取り組み(予定)
・UHCに係るデータの整備、グローバルな知見の収集と共有
・途上国の財務・保健当局者に対する保健財政に関する研修等を通じた人材育成
・少子高齢化の中で質の高いUHCを維持するための取組など、日本の知見や経験の提供
さいごに
近年、私たちの身の回りではデジタル技術を中心に革新が進んでいます。
特にインターネットの普及により、国内外問わず多くの人々と繋がれるようになり、様々な価値観や技術を知る機会も多くなったように思えます。
これにより、医療技術もよりグローバルな視点からの変革が求められており、人生100年時代において健康で充実した生活を送るためには、デジタル技術が不可欠であると考えます。
持続可能な未来の実現に向け、これからも最先端技術の動向に注目していきたいと思います。
<参考>
厚生労働省「近未来健康活躍社会戦略」