女性特有の健康課題、歯科健診はどうなる?~労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会 中間とりまとめ~

労働安全衛生法に基づく一般健康診断について、近年の高齢化や女性の就業率増加を背景に、健康診断項目の見直しが検討されています。
政府方針では、最新の医学的知見や社会情勢を踏まえ、2024年度中に結論を得る予定です。
2024年11月、こうした内容について、厚生労働省内に設置された労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会は中間報告を取りまとめました。

健診項目を検討する際の要件と着眼点

健康診断には、労働安全衛生法(安衛法)に基づくもののほかに、高齢者医療確保法に基づく特定健康診査や、健康増進法に基づく自治体の健康診査があります。
安衛法では、労働者の健康悪化を防ぐため、事業者に健康診断の実施を義務づけ、必要に応じた就業上の措置も義務づけています。
また、健康診断費用は事業者負担とされています。
さらに、健康診断の結果を適切に活用するため、労働者の健康情報はプライバシーに配慮しつつ、安全配慮義務の範囲内で使用することが求められています。
2016年の検討会報告では、健康診断の目的や項目について、業務による健康影響の把握や生活習慣病予防を重視することが示されました。
検査項目の設定にあたっては、業務との関連性や検査精度、費用負担などを考慮する必要があるとされています。
本稿では、検討会で議題になった以下2点について取り上げます。

• 女性特有の健康課題に関する項目
• 歯科に関する項目

女性特有の健康課題に関する項目と検討結果

近年、急速に進む高齢化の中、職業生活が長期化してきています。
そして、女性の就業率増加に伴い、女性特有の健康課題への対応が重要視されています。
これは、働く女性の月経、妊娠・出産、更年期など、女性のライフステージごとに起因する望まない離職などを防ぎ、女性が活躍し、また、健やかで充実した毎日を送ることができるよう目指したものです。
政府方針では、事業主健診に女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害等)にかかわる質問項目を追加し、専門医の受診を促進することが提案されており、健康診断結果は労働者のプライバシーを保護しつつ、本人の希望に応じて事業者と共有するしくみが議論されています。
その場合、たとえば次のような質問を設けることが考えられます。

質問:女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか。
① はい ② いいえ

健康診断を担当する医師は、「①はい」と回答した労働者に対し、必要に応じて女性特有の健康課題に関する情報提供や専門医への受診を促すべきとしつつも、担当医が専門知識を持たない場合もあるため、情報提供用ツールの作成や研修が必要不可欠です。

こうした検討の中、月経随伴症状や更年期障害など女性特有の健康課題と業務との関係について、論文検討では、夜勤やセデンタリーワーク(sedentarywork、継続的な座位による業務)との関係性を示唆するとの研究報告を確認できた程度であり、業務起因性または業務増悪性を示す明らかなエビデンスがあるとまではいえないという意見もあります。
しかしながら、研究によると、月経困難症や更年期障害などにより仕事で困難を感じたり、会社の支援が必要だと感じている女性労働者は少なくありません。
また、月経困難症などでは、本人が自分の不調を「病気」と認識せず、自覚症状がないと捉えてしまうことが大きな問題だという指摘もあります。

厚生労働省は、女性特有の健康課題への対応を支援するため、健診機関向けマニュアルや事業者向けガイドラインを作成する方針です。
具体的には、女性特有の健康課題について、専門医の早期受診を促し、必要に応じて診断書を事業者に提示して相談できることを明確化することが重要です。
また、労働者自身が事業者に相談を行う場合には、専門医の診断書を示すことが望ましいとされ、これらの取扱いについては、衛生委員会等での労使間の十分な話し合いが求められます。
さらに、職場環境の改善を目指す企業においては、労働者の同意を得た上で、集計情報を活用することが推奨されますが、プライバシー保護の観点から、情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。

歯科に関する項目と検討結果

一般健康診断の検査項目として、歯科健診を追加する可能性について、公益社団法人日本歯科医師会からの提案を踏まえ、検討しました。
歯周病は初期に自覚症状がほとんどないため、定期的な歯科健診で口腔の状況を把握する必要があるとの意見があります。
現在、市町村には健康増進法に基づき歯周疾患検診の実施が努力義務とされていますが、受診率は低調という結果が現状です。
日本歯科医師会は、高齢労働者の活躍を支えるため、一般健康診断に歯科健診を追加し、歯周病予防や転倒防止、顎関節症の予防を提案しています。
また、事業者には有害物取り扱い労働者を対象とした歯科健診の義務があり、2024年度からはリスクアセスメント対象物による健康診断も実施され、一般健康診断では特定健康診査と同時に歯科に関する質問項目が含まれています。
歯周病は成人の約8割が罹患しているとされ、日常的なケアや早期の歯科受診が重要と考えられます。
一方、顎関節症については、職場の発症率が高いとする研究もあるものの、業務起因性を示す明確なエビデンスは乏しいとの意見があります。
ストレスとの関連も示唆されていますが、定量的な証拠はなく、事後措置の基準設定は困難とされています。
また、歯科健診の実施には時間と体制の課題があり、代替手法の確立が求められており、効率性の観点からは、既存の特定健康診査の質問項目を活用することが提案されています。
労働者の口腔の健康保持・増進は重要ですが、業務起因性や就業上の措置に関するエビデンスが乏しいため、安衛法に基づく一般健康診断に歯科健診を追加することは難しいとされています。
一方で、歯周病と全身疾患の関連が示唆されており、口腔保健指導の意義は大きいと考えられます。
現在、健康保持増進のための指針に「歯と口の健康づくり」が盛り込まれていますが、十分に実施されていないため、好事例の展開や普及啓発を強化し、歯科受診につなげる方策を検討することが提案されています。
また、健康診断強化月間や全国労働衛生週間などの機会を活用して、口腔保健指導の周知をさらに進めることが望まれます。

労働者の健康管理に関する課題として、女性特有の健康問題と歯科に関する健康診断項目の検討状況を取り上げました。
いずれも労働者の健康保持と職場環境の改善において重要な課題である一方、業務起因性や実施体制に関する課題が指摘されています。
女性特有の健康課題については、月経困難症や更年期障害などに対応するため、健康診断項目の追加や専門医受診の促進が検討されています。
ただし、業務との関連性に関するエビデンスが不十分であるため、労働者のプライバシー保護を重視しつつ、適切な支援体制を構築することが求められています。
一方、歯科健診の追加については、歯周病予防や口腔健康の重要性が強調されるものの、業務起因性の証明や実施体制の課題が挙げられています。
既存の健康診査項目の活用や普及啓発の強化が現実的な対応策として提案されています。
これらの検討を踏まえ、健康診断のあり方については、最新の医学的知見を取り入れつつ、労働者の健康管理の充実と職場環境の改善を目指す取り組みを進めることが重要です。

<参考>
厚生労働省「『労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会』の中間とりまとめ」

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伊藤アリサ株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

服飾デザイナーを経験した後、WEBデザイナーとして仕事に携わっていました。デザイナー業を長く経験していくうえで働く環境の大切さを強く感じ、健康経営の良さを世の中の働く方々に知っていただくお手伝いがしたいと考え、ドクタートラストに入社いたしました。みなさまが元気で健康な日々を送れるようなお役立ち情報を発信していきます!

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