ここ数週間、マイコプラズマ肺炎が話題になっています。
「何となく聞いたことがあるけど、よく知らないな……」という人も、この記事を読んでぜひマイコプラズマ肺炎への知識を増やしていきましょう。
「歩く肺炎」マイコプラズマ肺炎って、どういうもの?
マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)という細菌がもたらす呼吸器感染症で、感染症法上は新型コロナウィルス感染症や季節性のインフルエンザと同じ5類感染症に分類されます。
この肺炎は、なぜ「歩く肺炎」と呼ばれているのでしょうか?
マイコプラズマ肺炎は、感染から発症までの潜伏期間が2~3週間と、他の感染症とくらべて長いのが特徴です。
たとえば、インフルエンザの潜伏期間は1~4日、麻疹(はしか)は8~12日程度なので、マイコプラズマ感染の潜伏期間の長さは明らかです。
さらに、感染した場合は約10%の人が肺炎を発症しますが、その症状は一般的な風邪と区別がつきにくい場合もあります。
インフルエンザのようにわかりやすく急激な発熱や関節痛を起こせば、本人も病原体への感染を自覚しやすいでしょう。
しかし、マイコプラズマ肺炎の場合には、発熱しても微熱程度のものから高熱のものまでさまざまです。
ほとんど発熱がない、またはすぐに解熱してしまうことや、4~5日かけてジワジワと発熱していくこともあります。
マイコプラズマ肺炎の最大の特徴は、痰がらみのない乾いた咳ですが、これは解熱後も数週間続くので、たとえ発熱期間中には自宅で安静にしていた人であっても、乾いた咳のみであれば、「風邪をひいて、喉が荒れただけだろう」と、普段通りに外出して人と交流し、感染を広げてしまうケースもあります。
このことから、「歩く肺炎」と呼ばれるようになりました。
むしろ、「歩けてしまう肺炎」という考えもあるかもしれません。
マイコプラズマの感染状況
マイコプラズマ肺炎は、子どもが比較的多くかかる肺炎として知られてきました。
厚生労働省によると、感染者の約80%が14歳以下であり、特に5~9歳に多いといいます。しかし、実は20歳代や30歳代など、大人でもかかる人はいます。
2024年は1月1日~10月6日までで、9,650件のマイコプラズマ肺炎の発生報告がありました。
マイコプラズマ肺炎のような5類感染症は、国内すべての医療機関での発生報告を受けているわけではなく、全国のうち約500の定点医療機関からの発生報告のみを受けています。
つまり、たった500の医療機関で確認できただけでも、9,650件も感染者が確認された、ということです。
2014~2023年での10年間では、年間の感染者数が最も多かった2016年で19,721件でした。
マイコプラズマは、秋から冬にかけて感染者数が特に増えやすくなる傾向にあるため、このままだと2016年の感染者数を上回る可能性もあります。
マイコプラズマ肺炎への対策は?
マイコプラズマ肺炎へは、予防接種などの特異的な予防方法はありません。
そのため、手洗い、うがいなどの一般的な予防方法と、感染者との接触を避けることが重要です。
マイコプラズマ肺炎の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。飛沫感染は、感染者のくしゃみや咳などによって、病原体が空気中へ放出し、それを吸い込むことで起こります。
しかし、この飛沫の粒子は空気感染やエアロゾル感染するものと比較して大きいため、1~2m程度で床や地面に落下していきます。また、接触感染は、感染者の鼻や口もと、あるいは、くしゃみをする際に手のひらで口元を覆い、そのままの手で何かに触れるなどによって、病原体をうつすことで起こります。つまり、そういったことに注意していくことが、感染予防のために重要といえます。
また、マイコプラズマへの感染をいち早く疑い、周囲へ感染させない心掛けも必要です。マイコプラズマ肺炎によくみられる以下の症状があれば、早めに医療機関へ相談し検査・治療を受けると同時に、感染が疑わしい本人もマスクの着用や咳エチケットを徹底しましょう。
<マイコプラズマ肺炎によくみられる症状>
・ 発熱
・ 頭痛
・ 倦怠感
・ 痰がらみのない、乾いたしつこい咳(発熱に遅れて症状が出ることも多い)
解熱した後も数週間単位で咳が続くのも大きな特徴です。
マイコプラズマ感染者からの排菌の期間は、発症前2~8日、そしてその後1.5カ月~2か月程度も続きます。
解熱した、症状が出始めてから時間がたった、と思っていても、まだ周囲へ感染させる可能性があることをぜひ覚えておき、感染の爆発的な拡大を皆で防いでいきましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「感染症情報」
・ 国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎とは」
・ 国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎の発生状況について」