新年度を迎えてから1か月以上が過ぎました。
昔からよく知られる「五月病」が起こりやすい時期でもあります。
五月病は、正式な疾患名ではなく一般に呼ばれる言葉で「アパシー・シンドローム」(「apathy」=無関心・無感動・無気力、「syndrome」=症候群)の表現の一つです。
社会人のみならず大学生や中高生、小学生などさまざまな世代にみられる、新しい環境に適応できないことによって生じた無気力などの精神的症状がある状態のことをいいます。
企業では、新年度にあたり組織の編成や個人の異動、新入社員の入社、上司や先輩社員の退職などによる自身の役割の変化など、環境の大きな変化による精神的な負担が積み重なる人もいることでしょう。
五月病は精神的な症状とお伝えしましたが、精神状態は身体症状として現れることがあります。
この記事では、ストレスによって引き起こされる諸症状のうち、「めまい」について詳しくお伝えします。
ストレスによって引き起こされる「めまい」
「めまい」と一口にいっても、目の前が真っ暗になるもの、ふわふわと浮いている感覚になるものなどいくつか種類があります。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2022年)によれば、全国でめまいを訴える人は1,000人あたり20.3人います。
めまいの原因には脳神経的な問題や内科的問題などさまざまあり、その中で、精神的なストレスが一因であるものとして「良性発作性頭位めまい症」や「メニエール病」があります。
これらの疾患は、芸能人も発症したとして度々メディアでも伝えられることがあり、発症した場合は一定期間の休養が必要になるものです。
企業に勤めている人の場合、休職が余儀なくされる可能性もあります。
なぜめまいが起こるのか?
「良性発作性頭位めまい症」は、起き上がる、寝返りを打つなど頭を動かしたときに急に起こる、自分や周りがグルグルと回転しているように感じるめまい症状が特徴の疾患です。
耳の奥の内耳にある「耳石」という結晶が本来の場所から剥がれ落ちることで体の平衡感覚が乱れ、めまいを生じます。
「メニエール病」も突然発症し、良性発作性頭位めまい症と同じく回転するような激しいめまいが起こりますが、メニエール病は内耳にあるリンパ液が増えて中が浮腫んだ状態になることによりめまいを生じます。
さらに、良性発作性頭位めまい症はめまいの持続時間が数十秒から数分であるのに対して、メニエール病は数十分から数時間程度持続し、めまいに加えて耳鳴りや難聴を生じ津ことがあるのが特徴です。
どちらも器質的に原因でめまいを生じるものではありますが、そのおおもとの要因にはストレスがあることがわかっています。
良性発作性頭位めまい症は、耳石が本来の位置から剥がれることでめまいを生じますが、耳石が剥がれる要因には、転倒など、頭や耳の部分に強い外的な衝撃が加わることもありますが、疲れやストレスも関係しているといわれています。
しかし、その機序は明確ではありません。
メニエール病は、ストレスによって、自律神経のバランスが乱れることで、全身の水分調整にかかわるバソプレッシン(抗利尿ホルモン)の分泌量が増加し、それによって内耳のリンパ液が増え浮腫みを引き起こしている可能性も示唆されています。
心因性めまいの対策は日頃のストレスケアから
良性発作性頭位めまい症とメニエール病の予後についても違いがあります。
良性発作性頭位めまい症は、一般的には予後は良好であり、多くが1か月程度で自然に治ります。
治療では、耳石を正しい位置に戻すように頭を動かすリハビリを行います。
対してメニエール病は、薬物療法が中心となり、内耳の血流をよくするものや、利尿剤などを点滴投与することがあります。
しかし、良性発作性頭位めまい症とは異なり、症状を繰り返し、完全に治癒しないこともあります。
どちらの疾患も、発症後早期に治療することが重要です。
また、記事の前半でお伝えした通り、めまいを引き起こす疾患は脳神経的な問題や内科的な問題など、心因性めまい以外にもあります。
めまいが生じた時には、耳鼻咽喉科もしくは脳神経外科、または内科の受診をすることを強くおすすめします。
最後に、今回ご紹介した2つの疾患以外にも、ストレスは全身に好ましくない影響を及ぼす危険因子です。
過労や睡眠不足のほか、気候や環境の変化、人間関係など、ストレスのもととなるものが周囲にある場合が、自分自身の心身の状態をより一層細かに見つめて、ほどほどの気持ちで過ごしていきましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」
・ 堀井新「耳鼻咽喉科領域における心身相関 1めまいについて」(『新潟医学会雑誌』132巻6号209-213頁)