みなさんは、普段の生活の中で転ぶことはあるでしょうか。
2024年に厚生労働省が発表した「令和5年労働災害発生状況」によると、休業4日以上の死傷者数において「転倒」が36,058 人と最も多く、全体の26.6%でした。
転倒災害の死傷者の年代別割合は、30歳代までは労働者1,000人あたり0.5人以下ですが、40歳代になると少しずつ増えはじめ、50歳代になると労働者1,000人あたり1.3~2人以上と急増することがわかっています。
加齢によって転倒のリスクが高くなることは間違いないものの、若い人であっても転倒事故が起きている事実にも注目しなくてはいけません。
人はなぜ直立二足歩行で転ばないのか?
人は、1歳頃から立ち上がり、その後は特別教えなくても直立二足歩行を開始することがほとんどです。
日頃から意識しなくても上手にバランスをとって走ったり歩いたりしていますが、実は非常に複雑なメカニズムにより実現できていることなのです。
人間は、視覚によって、自分と周囲の位置関係を確認したり、耳の中にある器官によって、地面に対しての自身の頭の位置や体の傾きに関する情報を受け取ったりします。
また、足の裏には姿勢調整のための感覚を受け取る器官がたくさんあり、体重がどのように足の裏にかかっているのか、自分が立っている床や地面がどのくらいの硬さでどういう状態になっているのかなどを知る手がかりを得ています。
さらに、それらの感覚が脳に伝わり、その情報から、立ったり歩いたりするのに適切な筋肉の動作を行うことで、人は転ばずにいられます。
事例から見る「転倒する状況」とは?
直立二足歩行のためのさまざまなメカニズムを備えている「人」ですが、どうしても転倒してしまう場面はあります。
それは、スケートやスノーボードなどのバランスがとりにくい場面に限らず、何気ない日常生活の中にもたくさん潜んでいます。
事例① 新聞販売業の配達員
配達中に、配達先の門の手前の階段を登っていたところ、雨で足を滑らせバランスを崩し、後方の路上に尻もちをつき負傷しました。
この配達員は急いで配達を行っており、足元への注意が散漫になっていたことや、普段から配達をしている地域であるため、配達日の天候に対し十分な注意を払わなかったことが要因でした。
事例②社会福祉施設の職員
デイサービスのホールにて、洗濯物を持ち脱衣所に向かっていたところ、扇風機の電源コードにつまずき、床に膝を強打して骨折しました。
扇風機のコードが、通り道の床にあったことや、当該職員自身が、足元がよく見えないほどの洗濯物を抱え込んでいたことが要因でした。
転倒しないための対策を考えましょう
これらの事例や、人が転ばないためのメカニズムなどから、転倒防止の対策を考えていきましょう。
事例①では、地面が濡れていなければ足元を滑らせることはなかったでしょう。
また、事例②では、床上にコード類が通っていない、もしくはコードを見て認識できていれば、つまずくことはなかったかもしれません。
そのほかにも「履いていた靴が滑りにくいものであれば……」「つまずいたとしても、瞬時に体勢を整えられていれば……」など、さまざまな要因に対してよりよい状況を作り出す手段があります。
まだまだ寒いこの時期は、それだけで筋肉の動きや感覚が鈍くなりやすく、重ね着など厚着をすることで物理的に運動の制限が加わりやすくなります。
地域や時間帯によっては、降雪や地面の凍結によって、さらに体のバランスを崩すリスクが増します。
これらのことは、決して高齢の人にのみ当てはまることではありません。年代を問わず、転倒事故の予防のためにできることを実践していきましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「令和5年の労働災害発生状況を公表」
・ 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター「第三次産業における災害事例・ヒヤリ・ハット」