災害時のセルフケア~時間の経過とともに変わる心理状態~

2024年を迎えてすぐに能登半島地震が起きました。被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

私自身は関西に住んでおり、被害はありませんでしたが、震度4の揺れを体感しました。とても長い揺れに感じ、その後の複数回にわたる余震に不安を覚えました。被災地では想像できないほどの恐怖や不安があるかと思います。
私たちは大規模な災害に遭遇すると大きな衝撃を受けるため、心身にさまざまな影響を受けます。今は平気でも、落ち着いた時に急に症状が出ることもあります。今回は災害時の心身の変化やメンタルヘルスケアについて解説します。

被災による心理状態の変化

大規模な災害によるストレスは、どんな方でも感じるものです。被災した方の心理状態は下図のような段階で経過するといわれています。

出所:厚生労働省委託事業DPAT事務局「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル_ショートバージョン」(被災者の心理の時間的経過(金吉晴『心的トラウマの理解とケア 第2版』(2006年3月、じほう)より改変))

茫然自失期

災害発生後数時間から数日間の期間のこと。災害の衝撃や恐怖で感覚や感情が麻痺したようになり、気が抜けてどうにもならないような状態になる。逆に高度な覚醒状態になり、行動的になる人もいる。

ハネムーン期

災害発生後数日から数週間・数か月の期間のこと。災害後の生活に適応したように見え、被害の回復に向かって積極的に立ち向かいお互いに協力し合う。一見元気に見えるが、生活ストレスが蓄積していくため、心身の不調が起こりやすい。急性ストレス反応・障害が生じる人もいる。

幻滅期

災害発生後数か月から1年程度の期間のこと。災害直後の混乱が治まり、復旧が始まる。メディアの報道が減り、被災地以外の人々の関心が薄れていく。
一番辛い時期といわれており、この時期を乗り越えるためには、外部の支援が不可欠。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断される方も出てくる。

再建期

復旧が進み、生活の目途が立ち始める。被害の程度や経済状況、支援などの要因により、被災者間で格差が生じ、取り残されたように感じる人もいる。PTSDが長引くこともあり、長期的なサポートが必要な場合もあり。

災害後の心身の反応や変化

生命の危機に遭遇した際には、身体的反応と心理的反応が起こります。これは震災後に起こる正常なストレス反応です。

●心理面

不安、恐怖、意欲減退、不眠、悪夢、イライラ、気分の落ち込み、自責、集中力低下、混乱、記憶障害、判断力低下など

●身体面

頭痛、胃痛、筋肉痛、胸痛、動悸、発汗、倦怠感、眩暈、嘔気、感染症にかかりやすい、持病の悪化など

●行動の変化

食欲不振、過食、ひきこもり、飲酒過多、喫煙量増加、攻撃的になるなど

数か月程度経つと症状が次第に落ち着いてくる方が多いですが、中には時間が経っても災害にまつわる体験が過去のものにならず、不調が長引く方もいます。

●急性ストレス反応

生死にかかわるような被災を体験し、大きなストレスを受けた場合に、体験直後から数時間、2~3日で消失する著しい症状のこと。

フラッシュバック(再体験):自分の意思とは関係なく自動的に災害時の様子がリアルに強い感情と伴ってよみがえる。
麻痺・回避:災害に関することを避けてしまう。出来事や特定のもの、場所を避けるようになる。
過覚醒:緊張が続く、攻撃的な状態が続くことにより対人関係の妨げとなる。周囲から孤立してしまう可能性もあり。

●急性ストレス障害(ASD)

急性ストレス反応は2~3日で症状が消失するが、その期間を超えても持続し1か月以内の期間に認められた場合、ASDと診断される。さまざまな症状により日常生活に支障をきたす強く不快な状態のこと。

●心的外傷後ストレス障害(PTSD)

ASDの症状が1か月以上続く場合を、PTSDと診断される。PTSDは3か月以内に約半数は回復するが、それ以上症状が続く場合もあり。慢性化し日常生活や仕事に影響が出ることもある。災害後3か月以降に引きこもりや自殺などが起こることもあり、自殺のリスクはPTSDでない人の6倍ともいわれている。

●サバイバーズ・ギルト

災害や事故、事件などに遭遇し助かった人が、同じ体験を経ながらも助からなかった人に対して感じる罪悪感のこと。特に肉親を亡くした人、悲惨な死を目撃した場合に起こりやすい。
PTSDとも関連しており、重なっている部分も多い。

被災後のメンタルヘルスケア

被災後は「安全・安心・安眠」の確保が最重要となります。まずは自身や家族の身の安全、衣食住の確保、適切な医療を受けられるなどが必要です。そして、学校や仕事など日常生活を送れるようになり、適切な情報を手に入れることが、心身の健康を回復していくための基盤となります。
被災後すぐに元の状態に戻るのは難しいため、なかなか自身のメンタルヘルスに目を向けるのは難しい場合も当然です。避難生活の中で気にしなければならないことがたくさんありますが、自身の抵抗力を下げないよう、できる限り健康に過ごすために大切なことを下記にまとめました。

●セルフケア

・できる限り親しい人と過ごす時間を増やす
・SNSなどの情報を見過ぎない、鵜吞みにせず必要な情報(公的な機関から出されている情報)のみ確認する
・食事や睡眠のリズムはできる限り崩さないようにする
・避難中のお酒は避ける
・信頼できる人に話をする(無理に話す必要はない)
・家族や大切な人同士で肩や背中などを優しくさする
・深呼吸する時間を作る など

●大切な人に対するケア

・そばに寄り添う
・普段よりもゆっくり喋り、短い言葉でわかりやすく話す
・無理に話を聴きださない
・非難や否定せず、受け止める など

●相談窓口

企業によっては産業医や保健師などが窓口となり、メンタルヘルスケアを実施します。
それ以外にも労働者健康安全機構や全国の産業保健総合支援センターなどでも相談窓口が設置されているので、ぜひ活用しましょう。(下記に相談窓口を載せていますので参考にしてください)

次のような症状がある場合は、専門機関に相談、つなぐ必要があります。専門機関とは精神科医療機関や保健所、保健センター、DPAT(災害派遣精神医療チーム)などになります。

心配な症状
・不眠が長期にわたって続く
・飲食できない状態が続く
・表情がない
・興奮する
・自殺を考える
・幻覚や幻聴が出現する など

●身体のケア

身体をケアすることも重要です。意識して休憩をとる時間をとりましょう。また体力を極力落とさないように、エコノミークラス症候群を予防するために、意識的に身体を動かしましょう。同じ姿勢が続くと血栓ができやすくなるため注意が必要です。

<参考>
・ 厚生労働省委託事業DPAT事務局「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル_ショートバージョン」
・ 厚生労働省こころの耳「被災者に対するこころのケア(被災者やその家族、支援者などの方へ)」
<相談窓口>
・ 労働者健康安全機構「令和6年能登半島地震関連情報」
・ 労働者健康安全機構「産業保健の相談」

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保健師 大島かよ

投稿者プロフィール

病棟・クリニックでの患者さんとの関わりの中で、「もっと早く治療開始できていれば」、「病気になる前に何かできないか?」と考えるように。その思いから次第に予防に興味を持ち、「働く世代」に対するアプローチがしたい!と、産業保健の世界へ飛び込みました。
現在産業保健師として数社訪問、健保で特定保健指導を担うフリーランスの保健師です。
自分の経験なども盛り込みながら、産業保健に関連する情報を発信していきます。
【取材、記事協力などのお問い合わせはこちらからお願いします】

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