未実施は損をする可能性も!特定健康診査、特定保健指導を実施すべきこれだけの理由

皆さんは、恒例行事のように受診している定期健康診断(業種によっては特殊健康診断)とは別に「特定健康診査」があること、そしてその結果でリスクが高いとされた対象者が受けることのできる「特定保健指導」をご存知でしょうか?
今回は、これらの制度について紹介します。

そもそも特定健康診査と特定保健指導って?

特定健康診査と特定保健指導は、超少子高齢化に伴なって上昇する医療費の財源確保が難しいなか、医療費自体を抑制するために健康な人を増やそうという考えから、国の取り組みとして始まった制度です。
保険加入者のうち、特に健康リスクが高まる40歳以上のメタボリックシンドローム該当者と予備軍を対象に生活習慣を改善し、各種疾病の発症リスクを低減するべく、2008年4月からスタートしました。

特定健康診査

特定健康診査は、40〜74歳を対象にした健診で、定期健診とは異なり、事業者に実施義務はありません。
実施の主体は、健康保険組合や共済組合など保険者であり、実施義務も保険者にあります。
ちなみに意識したことはないかもしれませんが、実は特定健康診査は、労働者自身が知らない間に受診が済んでいることがほとんどです。
なぜなら、健診項目が定期健診と重複しており、定期健診を受診していればそれだけで網羅できているからです。
国民健康保険等加入者や、被保険者として含まれる労働者の扶養家族の定期健診の受診率が伸び悩んでいる背景もあり、全体の実施率がなかなか上がりきらない状況が続いているようですが、それでも結果的に平均実施率は制度開始から伸びています。
制度が始まった2008年度の実施率は38.9%であったのに対し、2017年度は53.1%という結果が出ています。

特定保健指導

特定保健指導では、特定健康診査の結果、対象者になった保険加入者に対して、医師・保健師・管理栄養士等が生活習慣改善の支援を行います。
リスクの程度によって支援方法は次の2種類です。

・ 初回に面談を行い生活習慣の確認と目標設定をし、その後3〜6カ月間の設定期間内に継続的に指導者が進捗状況を確認しながら支援を行う「積極的支援」
・ 初回の面談で目標設定を行ったのちは、自主的な取り組みを促すべく動機付けをし、3〜6カ月の設定期間後に取り組み結果の確認として実績評価を行う「動機付け支援」

こちらは、特定健康診査とは異なり、改めて実施をしなければならないため、実施率は2008年度が7.7%、2017年度が19.5%と、上昇傾向にあるとはいえ、まだまだ低い状況が続いています。

実施しないと損をする可能性も

「実施義務がないのであれば関係ない」「面倒で手間がかかりそう」と思われた方も多いかもしれません。
しかし、そうも言っていられないのです。
開始から5年ごとの見直しを行い、2018年度から第3期に突入した同制度ですが、第2期からは実施義務の課せられた保険者に対して、各実施率に応じたペナルティとインセンティブが設けられました。
第3期では、数値目標より厳しくなり、実施率に応じて課されるペナルティ「後期高齢者支援金」負担額の割合が大きくなる可能性が高まりました。
前述の通り、特定健康診査実施率は50%を超えている状況ですので、ペナルティ対象となる保険者も少ないようですが、特定保健指導実施率が伸び悩んでいることから、各保険者で実施率向上のために取り組みを強化する動きが目立つようになってきました。
「加入者である自分(企業)にペナルティがあるワケではないから…」と思われるかもしれませんが、保険者の財源は基本的に加入者から徴収する保険料です。
保険者の支出としての負担額が増加することは、皆さんが毎月支払っている保険料を決定する保険料率が高くなる可能性につながりかねません。
結果的に負担増加となるリスクを孕んでいるのです。

実施はそれほど手間じゃない

とはいえ、企業としては義務でもないのに余計な経費がかかったり、煩雑な事務手続が生じるのでは…及び腰になると思います。
特定保健指導実施に企業や個人が負担する費用は基本的に必要ありません。
該当者本人の希望で規定以上の支援を行なった場合には、自己負担が発生するケースもありますが、この負担額は医療費控除対象として確定申告が可能です。
さらに、実施主体が保険者であるため企業には契約などの事務手続や支払いなどの経理上の手続も発生しないのです。
対象労働者の初回面談のスケジュール調整や、面談場所の確保などについてはお手伝いいただくことはありますが、その他のことは保険者と実施機関の間で処理が行われるため、企業担当者に煩雑な業務が発生することはまずないといっていいでしょう。

一方で、対象者本人は、面談を受けなければならず、リスクの程度によっては一定期間、指導支援を受けなければならないため、気が重くなると思います。
しかし、自らの健康リスクを無料で専門家に指導してもらえる上に、将来的な医療費負担の軽減にもつなげることができる可能性のあるチャンスです。
やみくもに行うダイエットと異なり、専門家の指導にもとづく生活習慣の改善ができるため、少なからず成果も実感しやすいようです。

たった一社、たった一人が実施をしただけでは保険加入者全体の実施率は上がらないため、保険料率の上昇を抑制することと直結はしません。
けれども、何もしなければ上がっていくだけの保険料増額を止める一助となり、自己負担医療費の支出を抑え、健康に長く働き続けることのできる一つのきっかけとして用意されている制度を利用しない手はないのではないでしょうか。

<参考>
・ 厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」
・ 厚生労働省「2017年度特定健診・特定保健指導実施状況(PDF)」
・ 厚生労働省「後期高齢者支援金の加算・減産制度について」

<根拠となる法律など>
・ 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
・ 特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準
・ 「特定健診及び特定保健指導の実施に関する基準」に関する大臣告示

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唐澤 崇株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

前職では、長時間労働があたりまえの業種で働いていました。
好きな仕事であれば特に苦にも感じず働いていましたが、子どもが産まれてプライベートな時間とのバランス考え転職。
現在は、縁もあり産業医の先生方はもとより、法学者や社会保険労務士の方々ともお付き合いをさせていただくようになりました。
法律の面からも働く方々はもちろん、企業自体が安全で健全な繁栄を続けていけるよう、サポートしていきたいと考えています。
【保有資格】メンタルヘルス法務主任者/産業保健法務主任者/ハラスメントマネージャー/ハラスメントカウンセラー/健康経営アドバイザー/ソムリエ
【詳しいプロフィールはこちら】

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