定期健康診断の事後措置とは?どんな目的があるの?

世間はすっかり新年度に向けた準備が進んでいますね!
人事・総務部門や産業保健部門の方々は新入社員の受け入れ、すなわち健康診断実施の時期が近づいてきたのではないでしょうか。
私も普段営業担当として企業担当者さまとお話をすることがあるのですが最近多いご質問としては、「定期健康診断を実施しているだけだとダメなの? 定期健康診断結果ってどのように管理をしたら良いの?」が挙げられます。
そこで今回は「定期健康診断の実施後の扱い」をあらためて解説します。

そもそも定期健康診断とは?

定期健康診断とは、事業者が雇用した週30時間以上(正規従業員の労働時間4分の3以上)働く労働者に対し、医師による健康診断を事業者に義務づける制度です。
なお、この「労働者」には正社員だけでく、パート社員、アルバイト社員も含みます。
(※以下で解説する内容は、労働安全衛生法66条に定められている内容です)

健康診断の実施は事業主の義務であり、受診は労働者の義務となります。
しかし2013年9月に公表された厚生労働省「平成24年 労働者健康状況調査」によると、定期健康診断の実施率は91.9%、受診率は81.5%です。
また、事業所の規模によって実施率や受診率は異なるものの、大きな事業所ほど実施率、受診率ともに高い傾向が見られます。
ただし500人以上の事業所では健康診断の実施率が100%を達成しているものの、労働者の受診率は80%台にとどまっているのが現状です。

また、一般健康診断における有所見率(検査項目においての異常率)は増加傾向にあります。
厚生労働省「定期健康診断結果報告」によると、2006年には有所見率48%だったのに対して、直近の2022年では58.3%でした。
調査を開始した1991年の有所見率が27.4%だったので、この30年で約2倍以上に増加していることとなります。

繰り返しになりますが、事業主にとって定期健康診断は労働者に対して実施させることは義務です
「忙しい」などの理由で受けてくれない、といったお話を伺うことがありますが「健康診断の重要性をわかりやすく周知する」など従業員側への意識づけも大切です。

定期健康診断の実施後はどうすれば良いのか?

今回、定期健康診断の「事後措置」について考えてみます。

健康診断の事後措置とは

健康診断の事後措置とは、健康診断の結果、異常の所見が見られた労働者に対して企業側が行う対応のことです。
有所見者の判定には「保留」「要観察」「要医療」などがあり、労働者ごとに対応(事後措置)が変わってきます。
そして企業は、ときには下記の対策を講じることが必要になります。

・ 職場の変更
・ 業務内容の転換
・ 労働時間のシフト変更
・ 労働時間や時間外労働の短縮 など

事後措置を行う2つの意義

健康診断の事後措置には「労働者の健康を守るため」と「企業経営のメリットのため」という2つの意義があります。

・ 労働者の健康を守るため:健康診断で身体の異常を早期発見し、事後措置を行うことで早期治療が可能となり、健康被害のリスクを下げる
・ 経営的メリットのため:労働者の健康を守ることで、組織の活性化や生産性が高くなり業績が向上する(健康経営の実現の向上)

健康診断実施後の流れ

健康診断の実施、および実施後は以下の流れで進みます。

(1)健康診断の実施

医療機関へ委託し、適切なタイミング・回数で実施をします。

(2)健康診断結果を本人に通知

事業者は、従業員が自主的に健康管理に取り組めるよう、異常の所見の有無にかかわらず、健康診断結果を本人に通知しなければなりません(労働安全衛生法66条6)。

(3)医師等からの意見聴取を実施する

事業者は、異常の所見があると診断された従業員の健康を保持するための措置について、医師等から意見聴取をしなければなりません(労働安全衛生法66条4)。
意見聴取とは、就業区分といわれることもあり「通常勤務可能」「就業制限」「要休業」の3つが主となります。
また、これを実施する医師は事業所の産業医が行うことが多いですが、産業医の選任義務のない企業の場合は近隣の地域産業保健センターも利用できます。

(4)事後措置を行う

医師の意見をもとに必要があると認めた場合、従業員の実情を考慮したうえで事後措置を行うこととなります。
1. 従業員からのヒアリング(産業医等による)
2. 事後措置内容の決定(就業内容、就業場所、労働時間、深夜業務の妥当性等)
3. 衛生委員会等への報告
4. 定期的な保健指導の実施(経過観察)

(5)労働基準監督署への報告

労働者数が常時50人以上の事業場では、定期健康診断の実施後、速やかに所轄労働基準監督署長に「定期健康診断結果報告書」を提出する義務があります。(労働安全衛生規則52条)。

さいごに

事業者は従業員の定期健康診断結果を5年間保存をしなくてはなりません(労働安全衛生規則51条)。
この場合の保存形式は、紙だけでなく電子形式も可能です。

健康経営の推進に伴い、健診結果をもとにどのような施策を行っていくかが非常に重要視されています。
また、紙のまま保管するとなると集計や書類整理に時間と手間がかかりますが、データ形式の保存であれば、分析も容易にできます。
事業者として健康診断を確実に実施し、事後措置や保健指導などの対応がスムーズに行えるよう一度実施体制の見直しを検討いただいてみてはいかがでしょうか。

<参考>
・ 厚生労働省「平成24年 労働者健康状況調査」
・ 厚生労働省「定期健康診断結果報告」

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田野優人株式会社ドクタートラスト 産業カウンセラー

投稿者プロフィール

日本の働き方、メンタルヘルスのあり方に不信感を抱き、大学では社会学を専攻。卒業後、健康経営のコンサルタントの道を進むべくドクタートラストへ入社。今まで延べ500社以上の企業へ訪問し、産業保健体制の実態を目の当たりにしてきました。また、産業カウンセラーとしても日々、悩みを抱える方々との面談を行っています。
【保有資格】産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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