健康診断は終わったあとこそ大事~見逃してはならない4つのポイント~

みなさんこんにちは。
「産業保健新聞」運営元、ドクタートラストの田野です。
毎年この時期になると、健康診断結果の取り扱い方法についてお問い合わせが増えます。
新入社員の入社もあり、4月、5月に健康診断を実施されている企業も多いのではないでしょうか。

今回は、従業員の健康管理いおけるファーストステップ「健康診断の扱い」をわかりやすく解説します。

なかなか100%に到達しない健康診断実施率

2013年に厚生労働省が公表した「平成24年 労働者健康状況調査」によると、定期健康診断を実施した事業所の割合(実施率)は91.9%でした。
事業所規模別にみると、労働者数500人以上の事業所では100%実施されているのに対して、30~49人規模では96.8%、10~29人規模では89.4%にとどまっていました。
事業所が労働者に対し医師等による健康診断を実施することは、労働安全衛生法で義務づけられており、怠った際の罰則も定められています。

健診で大事なのは「受診後」

それでは健康診断は「会社として実施する」にだけ注力していれば良いのでしょうか?
健康診断は、実施だけでなく、その後の対応が非常に大切です。

具体的に行うべきポイントは以下の4つです。

1. 健康診断結果の通知
2. 医師(産業医)からの意見聴取
3. 就業上の措置の決定
4. 産業医による保健指導・受診勧奨の実施

1.健康診断結果の通知

健康診断の結果については必ず本人に通知する義務があります。
健康診断結果の通知義務については労働安全衛生法66条6項に規定されています。

(健康診断の結果の通知)
第66条第6項
事業者は、第66条第1項から第4項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。
出所:労働安全衛生法

雇入時健康診断や定期健康診断などの種類を問わず、人事部で健康診断結果を受領した後には、労働者に対して通知を行わなければいけません。
この際、所見の有無は関係なく、健康診断を受けたすべての労働者に通知する必要があります。

ここでよく質問いただくのが「労働者側は結果を知っているが、事業主側が結果を知らないのはOK?」です。
労働者個人が健康診断結果を事業主側に開示したがらないケースが増えているのです。
この場合、労働安全衛生法に定められた項目に関する健診結果は、本人へ提出を命じることは可能です。
事業主として従業員の健康管理を行う安全配慮義務上の観点からも、全労働者分を事業主として保管しておくことが非常に重要です。

2.医師(産業医)からの意見聴取

健康診断の結果について、異常な所見ありと判定された労働者については、就業上の措置について産業医の意見を聴取しなければいけません。
労働安全衛生法66条4項には、医師からの意見聴取義務が規定されています。

(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第66条の第4項
事業者は、第66条第1項から第4項まで若しくは第5項ただし書又は第66条の2の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
出所:労働安全衛生法

タイミングとしては、医師からの意見聴取は健康診断の実施から3ヶ月以内に行う必要があります。

自社で産業医の選任がない場合にはどうしたら良いのでしょうか?
労働者が50人未満の事業場であれば、地域産業保健センターの意見聴取サービスを利用することもできますが、その事業所の業務内容や職場環境を詳しく把握している産業医から意見を聴取するのが適切だと考えます。
また、ドクタートラストも従業員数50人未満の事業所さまからの産業医相談も多くいただいています。
健診結果への意見聴取のためというケースも多くあります。

3.就業上の措置の決定

事業者は産業医から意見を参考に、職場の変更、作業内容の変更、時短勤務といった就業上の措置や、労働環境の整備などを進めていきます。
就業上の措置も労働安全衛生法66条5項で定められた事業者の義務です。

(健康診断実施後の措置)
第66条の5 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)第7条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
出所:労働安全衛生法

4.医師(産業医)による保健指導・受診勧奨の実施

健康診断の結果、今すぐには就業上の措置が必要なくても、生活習慣病などの潜在的リスクがある労働者に対しては、産業医による保健指導と受診勧奨が必要となります。
産業医による就業判定は事業者の義務となっているのですが、保健指導と受診勧奨については努力義務にとどまっており、実施できていない企業も少なくありません。
しかし、明らかに異常数値である労働者がいることを把握していたにもかかわらず、「労働者が急に倒れてしまった!労災が発生してしまった!」となった際、事業主として判然配慮義務を怠っていたということで厳しく指導を受けてしまう事例も、最近は耳にすることが増えました。

さいごに

健康診断には、不調の発見と対処以外にも、不調の未然予防という予防的役割にもあります。
労働者の健康を守り、長期的な休業リスクを軽減するためにも、不調が起こる前の保健指導と受診勧奨の扱いを見直してみてはいかがでしょうか?

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田野優人株式会社ドクタートラスト 産業カウンセラー

投稿者プロフィール

日本の働き方、メンタルヘルスのあり方に不信感を抱き、大学では社会学を専攻。卒業後、健康経営のコンサルタントの道を進むべくドクタートラストへ入社。今まで延べ500社以上の企業へ訪問し、産業保健体制の実態を目の当たりにしてきました。また、産業カウンセラーとしても日々、悩みを抱える方々との面談を行っています。
【保有資格】産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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