2019年4月の改定に向けて、検討が続いていた高度プロフェッショナル制度。
その労働条件などについて、労働政策審議会にて詳細が固まったことが発表されました。
高度プロフェッショナル制度とは
「産業保健新聞」でも何度か触れていますが、高度プロフェッショナル制度とはそもそも、労働基準法第41条第2項に書かれた対象職種を定め、制度を明確化させようというものです。
該当の条文は以下の通り。
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第1第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
この通り、労働時間などで仕事を図ることができない一部の職種に関して、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の対象外とするにあたり、第2項に当てはまる職種を「高度プロフェッショナル」と名づけました。
今回の指針案の確定に伴い、抑えるべきポイントは以下3つです。
① 対象職種・業務
② 対象労働者の管理
③ 導入に伴う準備
対象業務について
対象業務は、主に以下の5職種となります。
1. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
対象業務となり得る業務の例)
・ 資産運用会社における新興国企業の株式を中心とする富裕層向け商品(ファンド)の開発の業務
2. 資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
対象業務となり得る業務の例)
・ 資産運用会社等における投資判断に基づく資産運用の業務(いわゆるファンドマネージャーの業務)
・ 資産運用会社等における投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務(いわゆるトレーダーの業務)
・ 証券会社等における投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務(いわゆるディーラーの業務)
3. 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
対象業務となり得る業務の例)
・ 特定の業界の中長期的な企業価値予測について調査分析を行い、その結果に基づき、推奨銘柄について投資判断に資するレポートを作成する業務
4. 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
対象業務となり得る業務の例)
・ コンサルティング会社において行う顧客の海外事業展開に関する戦略企画の考案の業務
5. 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
対象業務となり得る業務の例)
・ メーカーにおいて行う要素技術の研究の業務
・ 製薬企業において行う新薬の上市に向けた承認申請のための候補物質の探索や合成、絞り込みの業務
・ 既存の技術等を組み合わせて応用することによって新たな価値を生み出す研究開発の業務
・ 特許等の取得につながり得る研究開発の業務
これらの例に含まれない業務は、原則高度プロフェッショナル制度の対象外となりますので、注意をしましょう。
対象労働者の管理
<勤務時間と健康管理について>
同、4月1日に改定される労働安全衛生規則の変更に伴い、使用者は他の労働者同様に長時間労働とならないように注意するなど、勤務時間の管理をしなくてはなりません。
しかし、そもそも高度プロフェッショナル制度の対象業務は勤務時間で裁量が決まる仕事ではありません。
そのため、今回の指針案では次のようにまとめられています。
① タイムカードやパソコンの使用時間の記録などで、労働した時間の把握に努める。
② 少なくとも毎月、1ヶ月の労働時間の合計を把握するよう努め、医師の面接指導を適切に実施できるようにする。
③ 上記に合わせて、上司が健康状態を定期的にヒヤリングし、健康状態を把握するよう努める。
特に②に関しても、やむを得ない事情(顧客先に直行直帰する場合やパソコンを利用しないでの作業など)を除いて、必ず把握に努める必要があります。もちろん、健康診断などもきちんと行わせるようにしましょう。
<指示について>
次に、高度プロフェッショナル制度対象の労働者においても、使用者は他の労働者同様に指示を行うことができます。
しかし、以下のような指示は、高度プロフェッショナル制度の対象業務から外れてしまうため、行うことができません。
① 出勤時間の指定等始業・終業時間や深夜・休日労働等労働時間に関する業務命令や指示
② 労働者の働く時間帯の選択や時間配分に関する裁量を失わせるような成果・業務量の要求や納期・期限の設定
③ 特定の日時を指定して会議に出席することを一方的に義務付けること
④ 作業工程、作業手順等の日々のスケジュールに関する指示労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者 の適正な労働条件の確保を図るための指針案 第3 1項(1)イ
すなわち、労働者が働く時間帯の選択や時間配分についての裁量を失わせるような指示は行うことができないので注意してください。
<休日・休暇について>
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、年間104日以上の休日取得が義務づけられています。
さらに細かく言えば、4週間に4日以上の休みが必要です。
そのため、もしこれを守れないことが分かった場合、その段階から高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は適応されなくなります。
休日を設定し、きちんと計画的にからだを休ませることは、人が働くためにとても大切なことです。
必ず対象労働者には休日の取得について、手続きの方法などを伝えるようにしましょう。
前述の通り、健康管理を行うにあたってのヒヤリングを行う際、休日の取得状況などについても確認し、把握に努めることが望ましいとされています。
導入に伴う準備
ある日突然、会社からあなたの業務が高度プロフェッショナル制度の対象となるので、給与形態を変えます!と対象労働者に一方的に言い渡す。
こんな形で手軽に導入できるものではありません。
<本人の同意について>
高度プロフェッショナル制度は対象労働者の同意があって初めて導入することができます。
使用者は以下を説明の上、労働者本人に予め書面で明示しなくてはなりません。
① 高度プロフェッショナル制度の概要
② 当該事業場における決議の内容
③ 本人同意をした場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度
④ 本人同意をしなかった場合の配置及び処遇並びに本人同意をしなかったことに対する不利益取扱いは行ってはならないものであること
⑤ 本人同意の撤回ができること及び本人同意の撤回に対する不利益取扱いは行ってはならないものであること労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者 の適正な労働条件の確保を図るための指針案 第2 2項
また、対象労働者が高度プロフェッショナル制度の同意を撤回した場合、その時から高度プロフェッショナル制度の適応外となります。
予め双方でしっかりと条件などをすり合わせる必要があるでしょう。
<期間>
さらに、高度プロフェッショナル制度には同意の対象となる期間が決められています。
1年未満の短期契約の労働者はその期間満了時まで。
1年以上の契約の労働者の場合は、長くとも1年間。
それを超える場合は、両者で改めて評価制度や沈金制度などを見直しを行い、本人の同意をもう一度得る必要があります。
また、1年未満とは言いましたが、1ヶ月未満での契約の労働者に高度プロフェッショナル制度を適用することはできません。
<賃金と評価>
高度プロフェッショナル制度とは、労働時間で裁量を図れない業務についても適正な労働条件を確保することを目的としています。
そのため、導入後に導入前よりも処遇などが悪化することは認められていません。
現在賃金の年収要件は1,075万円とされています。
現場の労使交渉で変更は可能となりますが、今までの評価よりも下がるような契約を本人の同意なく導入することはできない他、もし条件がすり合わずに本人が同意を断ったとしても、それに伴う不利益が発生しないように注意しなくてはなりません。
いかがでしたでしょうか?
今回指針において対象となる業務が固まったことで、高度プロフェッショナル制度の姿が明確になりました。
社内での導入を決める前に、今一度、確認を怠らないように注意してください。