旅行や出張の際に、公共交通機関を利用する方も多いでしょう。
今回はこれらを利用するとき、あるいは実際に乗っているときに浮かんでくる疑問点を解決します。
「あれ? 産業保健新聞って乗り物系のメディアじゃなかったよね」
と突っ込みが入りそうですね。
もちろんその通りで、産業保健新聞は労働安全衛生法や健康、そして働き方をテーマにしたメディアです。
しかし、実は乗り物の「なんで?」と思う部分のなかには、働き方と関係していることもあるのです。
サービスエリアに立ち寄るのに降ろしてもらえない~夜行バスのなぞ~
長距離夜行バスは、道中に何度かサービスエリアやパーキングエリアに立ち寄ります。
けれども、場合によっては、ドアが開かず下車することができないこともあり、もどかしさを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
下車できないのにサービスエリアに立ち寄るのはなんで……?
これは、乗客の休憩のためではなく、バス運転手の休憩のために立ち寄っているからなのです。
運転手の労働条件については、労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が策定されており、以下のように「連続運転時間」についての定めが置かれています。
・ 連続運転時間は4時間が限度
・ 4時間の運転につき、合計30分以上の休憩が必要
つまり、バス運転手は、4時間運転したら30分休憩を取らなくてはいけないのです。
なお、休憩時間については「連続30分」である必要はなく、「合計30分」であればよいとされています。
たとえば2時間運転したら15分の休憩を取る。という方法でも構わないため、多くの夜行バスはこの方法で基準を満たしていることでしょう。
渋滞で遅れているのになんでサービスエリアやパーキングエリアに立ち寄るのか、と不満に思うときもあるかもしれませんが、別の視点からみれば、ルールに則った運行をしているといえます。
宮古と室蘭を結ぶ新しい航路 ~フェリーのなぞ~
バイクで旅をする人にとって助かるのがフェリーの存在です。
特に本州から北海道へはさまざまなフェリーが就航しています。
このうち、本稿執筆時点(2018年12月)で一番新しい航路が、岩手県宮古市と北海道室蘭市を10時間で結ぶシルバーフェリーで、2018年6月に就航しました。
さて、このフェリー、いったいどういった人たちが利用しているのでしょうか。
もちろん、バイク乗りの人を含めて、旅人もいますが、メインになってくるのは「トラックドライバー」です。
本州―北海道について、鉄路であれば青函トンネルがあるものの、陸路はありません。
そのため、本州から北海道へ、あるいは北海道から本州への物流を担うトラックドライバーは、津軽海峡をフェリーでわたっていきます。
トラックドライバーの運転条件についても、前述の労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が適用され、以下のように「1日の拘束時間・休息時間」が定められています。
・1日の拘束時間は13時間以内
・延長しても16時間が限度
・1日の休息時間は継続8時間以上
トラックドライバーにとって、フェリーに乗船している時間は休息時間に該当します。
もし、乗船時間が8時間未満であれば、乗船前や下船後に別途休息をとる必要があるのですが、この宮古―室蘭航路のように「所要時間10時間」が確保されているのであれば、下船後、すぐに運転を始めても構わないということです。
もっとも、宮古―室蘭航路は、こうしたトラックドライバーの需要を見込んで就航したのですが、伸び悩みが見られたことから、2018年12月現在では、宮古発便は青森県八戸市にも寄港するようになっています。
人材不足のドライバー業界が率先して取り組む働き方改革
今回は、バス運転手とトラックドライバーについて取り上げましたが、これらの業界では人材不足が深刻化しており、運転者の労働条件や労働環境の改善、そして運転者の確保が急務の課題となっており、業界を挙げての「働き方改革」が求められています。
自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議で2018年5月に策定された「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」をもとに、国道交通省では、長時間労働の是正などに積極的に取り組む事業者を認証する「ホワイト経営認証」を2019年以降に運用開始する見通しです。
また、業界団体である公益社団法人全日本トラック協会では2018年3月に「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を策定し、「労働生産性の向上」「多様な人材の確保・育成」に向けて取り組んでいます。
<参考>
・ 厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善の基準」
・ シルバーフェリー
・ 首相官邸「建設業・自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」
・ 国土交通省「自動車運送事業のホワイト経営の「見える化」検討会」
・ 公益社団法人全日本トラック協会