経団連が裁量労働制の拡充を提言。対象業務の見直しで柔軟な働き方の実現を目指す
- 2026/8/31
- 働き方改革

2026年5月19日、経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)は「裁量労働制の拡充を求める―柔軟で自律的な働き方をさらに広げるために―」を公表しました。
提言では、労働生産性の向上や多様な働き方への対応を目的に、裁量労働制の対象業務を拡大し、より柔軟で成果を重視した働き方を実現する必要性を訴えています。
日本の労働生産性向上が急務~裁量労働制拡充を求める背景~
経団連が裁量労働制の見直しを提言した背景には、日本の労働生産性の低さがあります。
提言によると、2024年の日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は98,344ドル(約935万円)で、OECD(経済協力開発機構)加盟38か国中29位にとどまり、G7では最下位という状況が続いています。
また、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、今後は労働力そのものを増やすことが難しくなるため、一人ひとりの生産性を高めることが不可欠だとしています。
デジタル化が働き方に迫る変化
さらに、生成AIをはじめとするデジタル技術の急速な普及により、定型業務の自動化が進む一方で、人には企画力や創造力、課題解決能力など、より付加価値の高い仕事が求められるようになっています。
経団連は、このような時代においては「労働時間の長さ」で評価する働き方ではなく、「成果」や「アウトプット」を重視する働き方へ転換する必要があると指摘しています。
その実現手段の一つとして、裁量労働制の拡充が重要であると位置付けています。
裁量労働制の現状と利用者の評価について
裁量労働制は、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」に基づいて賃金を支払う制度です。
専門業務型と企画業務型の2種類がありますが、適用できる業務は法律で限定されています。
提言では、現行制度の利用率は決して高くなく、専門業務型裁量労働制の適用者は労働者全体の約1.1%、企画業務型は約0.3%にとどまるとしています。
そのため、実際には高い裁量性を持つ業務であっても制度を利用できないケースが多いことが課題として挙げられています。
制度利用者からの高い満足度
一方で、制度利用者からの評価は比較的高い結果が示されています。
厚生労働省の調査では、裁量労働制適用者の約8割が制度に満足していると回答しており、制度への評価は総じて高い傾向がみられます。
さらに、経団連が2025年に全国のホワイトカラー労働者約1,000人を対象に実施した調査では、裁量労働制の適用を受けている労働者の67.4%が「メリハリをつけて自分のペースで働ける」と回答しました。
また、32.5%が「業務を通じて自分の知識や経験・スキルを伸ばせる」と回答しており、制度が働き手の能力発揮や成長意欲の向上につながっていることがうかがえます。
非適用労働者が求める働き方
また、裁量労働制が適用されていない労働者の約33%が制度の適用を希望していることも明らかになりました。
その理由として最も多かったのは、「メリハリをつけて自分のペースで働きたい」(79.3%)で、次いで「就労時間が短くても一定額の裁量労働手当等がもらえるなど、成果に応じた処遇が受けられる」(34.2%)、「業務を通して自分の知識や経験・スキルを伸ばしたい」(28.3%)が続いています。
経団連は、これらの調査結果から、働き手が求めているのは長時間労働ではなく、柔軟で自律的な働き方や成果に応じた処遇であると分析しています。
そのため、働き方の選択肢を広げる観点からも、裁量労働制の対象業務を拡充する必要があると提言しています。
経団連が提案する裁量労働制の見直しポイント
経団連は、裁量労働制をより活用しやすくするため、対象業務の見直しを提案しています。
具体的には、裁量性の高い業務であっても、一部に対象外業務が含まれるだけで制度を適用できなくなる現行ルールを見直し、業務全体として裁量性が認められる場合には適用可能とすることを求めています。
また、経団連は、裁量労働制の対象業務についても見直しを提案しています。
具体的には、業務全体として裁量性が高いにもかかわらず、一部に定型業務が含まれるため適用対象外となっている業務のほか、顧客の課題を分析して最適な解決策を提案するコンサルティング型の営業・提案業務(課題解決型提案業務)や、グループ企業の人事・経理・法務などを集約し、制度設計や企画・管理を担うシェアードサービス業務などを、新たな対象業務の例として挙げています。
見直しの必要性
経団連は、これらの業務はいずれも高度な専門知識や判断力、創造性を必要とし、自ら業務の進め方を決定する場面が多いにもかかわらず、現行制度では裁量労働制を適用できないケースが少なくないと指摘しています。
そのため、業務の実態に即した制度へ見直すことで、より柔軟で自律的な働き方を実現できるとしています。
長時間労働への懸念と対応策
一方で、裁量労働制には「長時間労働につながるのではないか」「本人が制度利用を断りづらいのではないか」といった懸念もあります。
経団連は、本人同意や健康・福祉確保措置、労使委員会によるチェックなど、現在の制度には一定の保護措置が設けられていることを踏まえ、適切な運用を前提とした制度拡充が重要であるとしています。
今後、政府でも労働時間制度の見直しに関する議論が進められる見込みです。
裁量労働制の拡充は、生産性向上や多様な働き方の実現につながる可能性がある一方で、労働者の健康確保や長時間労働防止との両立も重要な課題となります。制度の柔軟性と労働者保護のバランスをどのように確保するかが、今後の議論の焦点となりそうです。
<参考>
一般社団法人日本経済団体連合会「裁量労働制の拡充を求める―柔軟で自律的な働き方をさらに広げるために―」






















