「なんだか最近眠いと思ったら生理前だった」「生理前は眠くて集中できない」ということはありませんか?
それ、ひょっとすると月経前症候群(PMS)の症状の一つかもしれません。
日中に眠いと仕事や家事の集中力が低下してしまいとても困りますよね。
日本産婦人科学会の発表によると、大企業4社10,948名と中小企業8社2,546名への調査の結果では、日常生活に影響する程度の眠気がある人の割合は18.2%、仕事に影響する程度の眠気がある人の割合は19.8%であり、およそ5人に1人が生理前の眠気に悩んでいることがわかっています。
じつは、生理前にやたらと眠たいのは、女性ホルモンの増減を起因とする体温の変化と、神経伝達物質の働きの変化、自律神経の乱れが影響しています。
生理前に眠たい理由
体温の変化
そもそもPMSにおける月経前という時期の定義は、「月経前3~10日」となっています。
この時期は、医学的には黄体後期と呼ばれ、「高温期」に当てはまります。
高温期とは、名前の通り基礎体温(安静時の体温)が上昇している時期で、月経後と比較して基礎体温が0.3~0.5℃高い状態です。
この体温上昇は、排卵が終わった後の月経前2週間の頃から多く分泌される、プロゲステロンというホルモンによって起こります。
とはいえ、この若干の体温上昇でなぜ日中に眠たくなるのでしょうか。
ポイントは「一日の体温変化が小さくなることで、睡眠と覚醒のメリハリがなくなること」にあります。
私たちには、一日の中で体温が変化するリズム(概日リズム)があり、具体的には、朝から夕方まで上昇した体温は、夜間には低下し、身体は睡眠に向けて全身を休ませる準備に入ります。
眠気は体温の低下と共にやってくるため、日中の体温と入眠するときの体温の変化が大きいほど、スムーズに、そしてぐっすりと眠ることができます。
そのため、月経前に基礎体温が上昇し一日の体温変化が小さくなることで、睡眠と覚醒のメリハリがなくなり、日中の眠気が強くなると考えられています。
神経伝達物質の影響と自律神経の乱れ
じつは、このプロゲステロンというホルモンには、催眠効果もあります。
プロゲステロンの代謝産物が、ガンマアミノ酪酸(GABA)という神経伝達物質を活性化することで、眠気を促すからです。
そして、このプロゲステロンの分泌は月経前5日頃から減少しますが、それに伴いGABAも減少します。
GABAは脳の興奮を抑え、ストレスを低下させる働きをもつため、月経前5日頃からは不安感が強くなり、不眠の原因となることも考えられます。
さらにプロゲステロンは、セロトニンやドーパミン、ノルアドレナリンなどの感情を調整する脳の神経伝達物質にも作用しています。
月経前に気分が落ち込みやすくなったり、イライラしたりすることが多くなるのは、これらの「気持ちを落ち着かせる神経伝達物質」がうまく働かなくなっているからかもしれません。
このような精神状態では、リラックスして眠るのも難しいですよね。
特にセロトニンは、不安や緊張を和らげる働きをもつだけでなく、睡眠を促すメラトニンの原料になります。
そのためセロトニンが月経前に減少することで、睡眠の質が下がってしまうというわけです。
そして月経前には、副交感神経を優位にするエストロゲンというホルモンの分泌が減少します。
深い睡眠をとるには、精神状態を安定させリラックスモードにする働きをもつ副交感神経を優位にしなくてはいけません。
そのため、月経前にエストロゲンの分泌が減少することで副交感神経の働きが弱まると、心身が活発な状態が続き、寝つきが悪く、眠りが浅くなることが考えられます。
日中に眠くならないためのポイント
先ほども触れましたが、月経前に睡眠と覚醒のメリハリをつけるためにも、概日リズムを整えることが大切です。そのためには、できるだけ毎日同じ時間に布団に入ることが大切です。
休日になると寝だめをしてしまう方は、平日と休日を行き来する度に体内時計が乱れてしまうため、「平日の睡眠時間+1時間」程度を心がけましょう。
また、日中眠くならないための生活習慣については、取り入れるタイミングがとても重要です。
以下の内容を取り組める範囲内で意識してみてください。
【朝~昼間】
・ 起きたらまずカーテンを開けて自然光を部屋に取り込みましょう。後ろにずれがちな体内時計を24時間に調整してくれます。
・ 朝食で午前中の活動エネルギーを補給し、昼夜の活動にメリハリをつけるイメージで過ごしましょう。昼間の光は夜に分泌されるメラトニンを増やし、入眠を促してくれるため、意識的に浴びるのもいいかもしれません。
【夕方~夜】
・ 可能であれば就寝の3時間くらい前に有酸素運動を取り入れるか、2~3時間前に入浴しましょう。体温が一時的に上がり、入眠時のタイミングで体温が低下することで眠りにつきやすくなります。
・ 就寝に近い時間帯の食事はできるだけ控えましょう。消化活動によって睡眠が妨げられてしまいます。
・ 体内時計を遅らせてしまうため、夜の明るい光は避けましょう。
とはいえ、心身の体調が揺らいでいる月経前の時期に、これだけのことを意識して取り組むのは大変だと思います。
どうしても眠たい時には、15~20分程度のお昼寝がおすすめです。
月経前にいつも眠たくなることがわかっている場合は、昼食後の休憩時間内に、デスクでお昼寝をすると、午後の眠気の解消につながります。
また、お昼ごはんの内容や食べ方を見直すのもおすすめです。
血糖値が上がる炭水化物メインの食事は、食後の血糖値が急降下するタイミングで眠気やだるさの原因になります。
定食スタイルの食事を選び、副菜や汁物から食べるベジファースト、炭水化物を最後に食べるカーボラストを心掛けてみてください。
おわりに
女性の社会進出が進む中で、日中の眠気は避けたい問題だと思います。
働く世代にとって必要な睡眠時間は6~9時間ですが、就業形態や残業時間などによっては難しいかもしれません。
PMS自体も、症候群であることから症状が人によって多種多様であり、明確な病態や治療法は明らかになっていないのが現状です。
経済産業省は、このような月経随伴症状による経済損失を約5,700億円と試算しており、「女性特有の健康課題は、業務効率や就業継続にも大きな影響を与えており、経営者が十分に理解し、職場環境などを適切に整備することで改善が期待される重点的テーマ」であるとしています。
私たち女性が自身の症状を自覚して対策をとると共に、健康経営に取り組むうえでの一つの要素として、実態把握や施策整備を行う企業が増えることを願っています。
<参考>
・日本産婦人科学会誌第69巻第6号「生殖・内分泌委員会」
・ 女性の健康推進室ヘルスケアラボ「基礎体温」
・ 公益社団法人日本産婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)」
・ 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の睡眠障害」
・ 厚生労働省「良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと」
・ 経済産業省 ヘルスケア産業課「女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について」