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事業所負担も自己負担も不要!労災保険の二次健康診断を活用しましょう
- 2024/11/26
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はじめに
みなさんは、脳血管疾患や心臓疾患の原因と聞いて何を思い浮かべますか?
脂肪分や塩分の過剰摂取、運動不足といった悪い生活習慣のイメージでしょうか。
あるいは、加齢によって血管が詰まり、高齢の方が発症するイメージをお持ちかもしれません。
しかし、忘れてはならないのが、仕事が特に過重であったために、血管病変が著しく増悪して起こる脳・心臓疾患です。
業務によるストレスや過重な負荷によって、脳・心臓疾患を発症し、死亡または障害状態に至り、労災認定されることもあります。
このような脳・心臓疾患は若い方であっても発症する可能性があり、本人やその家族はもちろん、企業にとっても重大な問題です。
社会的にも「過労死」として取り上げられ、損失は大きなものになることが予想されます。
一方で、脳・心臓疾患については、発症前の段階における予防が効果的であるとされています。
そのため、一個人にとっても会社にとっても、脳・心臓疾患の予防は力を入れるべきだと考えられるでしょう。
労災保険の二次健康診断とは
脳・心臓疾患の予防に有効なのが、労災保険による二次健康診断です。
具体的には、職場の定期健康診断において脳・心臓疾患に関連する一定の項目に異常所見がある場合に、追加の健康診断や保健指導を無料で受けられる「二次健康診断等給付」を指します。
脳・心臓疾患は過労死などの原因となるため、二次健康診断は労災保険として受診ができ、事業所負担や自己負担はありません。
二次健康診断を経て、脳・心臓疾患の症状を有していないことを確認できた場合は、発症の予防を図るため、医師または保健師の特定保健指導を受けることができます。
2020年に新たに策定された「特定保健指導の実施基準」によると、実施時間の目安は20分以上となり、面接指導は主に医師が行うこととなりました。
また、特定保健指導の指導票に、二次健診給付医療機関から産業医などに情報提供できるよう、本人同意欄が設けられています。
具体的な給付の内容は以下の通りです。
① 二次健康診断
1)空腹時血中脂質検査
2)空腹時血糖値検査
3)ヘモグロビンA1C(エーワンシー)検査
※ 一次健康診断で受検している場合は、二次健康診断では行いません
4)負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
5)頸部超音波検査(頸部エコー検査)
6)微量アルブミン尿検査
※ 一次健康診断の尿蛋白検査で、疑陽性(±)または弱陽性(+)の所見が認められた場合に限ります
② 特定保健指導
1)栄養指導
2)運動指導
3)生活指導(飲酒、喫煙、睡眠など)
「二次健康診断等給付」の利用者数は、制度施行当初(2001年)の約3,200人から年々増加しており、2023年度は57,354人となっています。
つまり、およそ20年間で利用者は約18倍に増えていることがわかります。
医療保険による二次検査や二次健診とは違い、無料で受診できるのが嬉しいですよね。
ただし、給付には3つの条件があるため、確認しておきましょう。
① 一次健康診断の結果、次のすべての検査項目について、「異常の所見」があると診断されていること
1)血圧検査
2)血中脂質検査
3)血糖検査
4)腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
ただし、一次健康診において「異常なし」と診断された場合であっても、産業医が就業環境等を総合的に勘案し、異常の所見を認めた場合には、産業医の意見が優先されます。
② 脳・心臓疾患の症状を有していないこと
③ 労災保険の特別加入者でないこと
給付手続きの流れ
「二次健康診断等給付」は、かかった費用ではなく、健康診断と健康指導そのものが給付されるのが特徴です。
まずは、二次健診の受診を希望する従業員の方が「二次健康診断等給付請求書」に必要事項を記入し、事業主の証明を受けます。
この請求書と、一次健康診断の結果を証明できる書類(健診結果の写しなど)を受診する病院に提出することで、二次健診を自己負担なく受けることができます。
この際、労災病院または都道府県労働局長が指定する病院・診療所を受診するようにしましょう。
二次健康診断等給付は、健診給付病院などでのみ受けることができるからです。
請求書は、健診給付病院などを経由して所轄の都道府県労働局長に提出され、費用が病院に支払われるしくみになっています。
また、基本的に、職場の健康診断の受診日から3か月以内に請求する必要があり、1年度以内に1回の受診に限られるため、注意が必要です。
事業主による受診勧奨のススメ
最後に、健診の事後措置に関する労働安全衛生法の条文や指針を確認しておきましょう。
「事業者は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対し、医師または保健師による保健指導を行うように努めらければならない」(第66条の7)
「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない」(第69条)
「事業者は、二次健康診断の対象となる労働者を把握し、二次健康診断の受診を勧奨するとともに、二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当である」(労働安全衛生法に基づく厚生労働大臣の指針)
最後の指針における二次健康診断に関しては、医療保険のものか労災保険のものかは明記されていません。
つまり、どちらの二次健康診断を勧奨するかは問わないと考えられます。
以上の内容から、事業主の方は、従業員の健診結果を把握し、必要な受診を勧めることは、労働安全衛生法の趣旨に照らしても問題ありません。
むしろ、重大な疾病によって業務に影響が出る前に、1日も早く病院へかかるように働きかけができると良いと考えられます。
労災保険における二次健診等給付の条件に該当しない場合であっても、「要精密検査」や「要治療」の方は、二次健康診断の受診勧奨と、その後受診したかどうかの確認ができると良いでしょう。
<参考>
・ 厚生労働省東京労働局「二次健康診断等給付について」
・ 厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署「労災保険 二次健康診断等給付の請求手続」
・ 厚生労働省「労災保険二次健康診断等給付」
・ 厚生労働省「健診給付医療機関の皆さまへ 労災二次健康診断等給付を一部改定します」
・ 厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(PDF)」
・ 厚生労働省「令和5年度労災保険事業の保険給付等支払状況 1. 都道府県別、保険給付支払状況(業務災害+通勤災害+複数業務要因災害+二次健康診断等給付)」