主食・主菜・副菜が揃っていても栄養素が偏ることも?「新型栄養失調」を簡単、手軽に防ぐ方法

保健指導を行っていると、食事を手軽な菓子パンだけで済ませたり、魚料理は面倒だからと主食がお肉料理ばかりになったり、気づいたら自分の好きな食材ばかりに偏っている方をよく見かけます。
忙しい、お金がかかる、苦手など理由があるかもしれませんが、さまざまな食品を食べることで複数の栄養を取り入れられ、生活習慣病の予防にもつながります。
今回は、こうした食生活の偏りについて「鉄分不足」「お肉」「野菜」の面から解説します。

不調の原因は、偏った食事や食事制限による鉄分不足?

新型栄養失調とは?

菓子パンだけ、パスタだけといった単品料理が多い食事や、「○○抜きダイエット」といった食事制限に起因する「新型栄養失調」が働く女性のなかでも問題視されています。
「新型栄養失調」の症状としては冷え、だるさ、片頭痛、気分の落ち込みなどの不定愁訴、便秘や肌荒れなどが挙げられます。
こうした症状にお悩みの方は、必要な栄養素が不足している場合もあります。

不足しがちな鉄分

東京大学大学院医学系研究科栄養疫学・行動栄養学講座の篠崎奈々特任助教、同研究科社会予防疫学分野の村上健太郎教授、佐々木敏東京大学名誉教授らの研究グループが2023年に発表した「日本人の栄養素摂取量は適切か――8日間秤量食事記録に基づく全国規模調査――」からは、たんぱく質や炭水化物、ビタミンA、ビタミンB1、カルシウム、マグネシウムがが必要量よりも不足している成人女性の割合が高いこと、特に鉄分は多くの世代で必要量より不足していることがわかりました。

鉄分不足は、貧血を引き起こす原因です。
貧血の症状には、めまいや立ちくらみだけでなく、疲れやだるさ、肌荒れ、爪がボロボロになる、むくみやすくなる、などがあります。

必要な鉄分摂取量は?

1日の鉄分摂取量の目安は、以下のとおりです。
月経の有無で量が異なるのは、経血と一緒に鉄分が失われてしまうためです。

推奨量必要最低量
月経のある成人女性10.5mg8.5~9mg
月経のない女性6.5mg5.5mg

鉄分は、レバーや赤身の肉や魚に含まれています。
また、大豆製品やホウレンソウなどの青菜類などの鉄分(非ヘム鉄)は肉や魚などから取れる「ヘム鉄」とくらべるて吸収率は落ちるものの、果物や野菜などビタミンCを含む食品と一緒に摂取することで吸収率を高めることができます。
手軽に取り入れやすい食品は、以下を参考にしてみてください。

鉄分摂取の改善例

鉄分は、欠食をしたり、菓子パンだけ、パスタだけといった単品料理で不足しがちです。
実際、1日どのくらい鉄分を取れているか確認してみましょう。

<食事例>
朝:なし
昼:メロンパン、コーヒー (鉄分0.6mg)
夜:トマトパスタ、サラダ(鉄分2.1mg)

上記のような食事の場合、1日の鉄分摂取量2.7mgです。
最低限必要最な鉄分摂取量とくらべてもおよそ6mg不足しています。
朝食は飲み物でも良いので何か口にしたり、菓子パンに豆乳飲料を組み合わせたり、パスタにイワシやアサリの缶詰をトッピングしたりするなど工夫をしてみましょう。

<改善例>
朝:ココア、豆乳(鉄分4.1mg)
昼:卵サンドイッチ、オレンジジュース(鉄分1.2mg)
夜:トマトパスタ+アサリの缶詰1/2缶、サラダ(鉄分7.2mg)

鉄分の多い食材を取り入れることで1日の鉄分摂取量は、推奨量を上回る12.5mgになりました。
豆乳や鉄分の保有量を強化したヨーグルト飲料や牛乳、イワシ、サンマ、サバ、アサリなどの缶詰を冷蔵庫にストックしておき、いつもの料理にプラスして食べるようにしてみてはいかがしょうか。

働く世代にとって、単品料理は手軽な食事かもしれませんが、忙しいからこそ疲れをためず元気に働けるよう栄養を取ること、特に女性は鉄分をまずは意識してほしいと思います。

おかずは脂質の多いお肉ばかりになっていませんか?

続いて「おかず」についてみていきましょう。
主菜のおかずは、たんぱく源であり、肉、魚、卵、大豆製品などが当てはまります。
ただ、お子さんが中高生でお肉が好きだから、一人暮らしでついお肉ばかり食べているといった事情などから、おかずが肉中心の食事スタイルとなっている方が少なくありません。

<このような食事は続いていませんか?>
朝:ウインナー3本、食パン1枚、野菜サラダ
昼:牛丼並盛、お味噌汁
夜:肉野菜炒め、ご飯、野菜のお味噌汁

上記のような主食、主菜、副菜を揃えたバランスの良い食事でも、おかずが肉に偏ることで脂質の1つ「飽和脂肪酸」を取りすぎてしまう可能性があります。
飽和脂肪酸の取りすぎは、LDLコレステロール値を高める原因にもなります。
LDLコレステロールが高い方は、性別を問わず20~30代に見られます。

飽和脂肪酸の1日の摂取目安量

飽和脂肪酸の目標量は、1日の摂取カロリーのうち7%未満とされています。

・ 1日の摂取カロリーの目安が2700kcalの男性の場合:21g/日
・ 1日の摂取カロリーの目安が2000kcalの女性の場合:15.5g/日

以下は、お肉の部位による飽和脂肪酸の目安量です。

食品飽和脂肪酸目安量
豚バラ肉14.6g
牛バラ肉12.8g
豚ロース肉7.8g
ウインナー7.3g
豚ひき肉6.2g
鶏もも肉(皮つき)4.4g
豚もも肉3.6g
鶏むね肉(皮つき)1.5g
鶏もも肉(皮なし)1.4g
鶏むね肉(皮なし)0.4g
ささみ肉0.2g

参考:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」

バラ肉は特に飽和脂肪酸をはじめとした脂質が多い部位です。
また、豚肉や牛肉と比較すると、鶏肉は脂質が少なくおすすめです。
「皮なし」にするとより、飽和脂肪酸の量を減らすことができます。

ちなみに、豆腐は半丁あたり0.85g、鮭には1切れあたり0.8gと飽和脂肪酸が含まれる量が少ないです。
そのほか、生活習慣病の予防に効果があるn-3系の不飽和脂肪酸という「あぶら」が魚には多く含まれています。

先にご紹介した食事例は主食、主菜、副菜というバランスはそろっているもの、「肉料理が多い」という課題がありました。
こうした食事の偏りを改善するならば、朝ご飯を納豆や魚料理に変更する、瓶詰の鮭フレークなどを活用するのがおおススメです。
また、お昼ごはんを牛丼ではなく、親子丼や魚定食を選ぶのもよさそうです。
魚料理は、どうしても手間がかかるので、外食になりがちな昼食時などに取り入れてみましょう。

さらにおかずの種類やお肉の部位を変更することで、脂質の量を減らしより栄養バランスを整えることができます。

同じ種類の野菜ばかりになっていませんか?

カットレタスの先へ

健康のために野菜を食べている人は多いと思います。
保健指導の場でも「食事の最初にはサラダを食べます」と言う人は多く、とりわけカット野菜として容易に食べられるキャベツやレタスを選んでいる方が少なくありません。
野菜を食べていることだけで十分だとも思いますが、理想はさまざまな種類を摂取すること。
というのも、野菜は種類により、多く含まれる栄養素の種類が異なるためです。
野菜は、可食部100g当たりのβカロテン含量が600μg(マイクログラム)以上含まれた「緑黄色野菜」と、それ以外の「淡色野菜」に分類されます。
※トマト・ピーマンなどは、可食部100g中のβカロテン含有量が実際には600μg未満であるものの、食べる回数や量が多いため、緑黄色野菜に分類されています。

緑黄色野菜に含まれるβカロテンとは?

βカロテンは、体内でビタミンAに変換されます。
ビタミンAには抗酸化作用があり、皮膚や粘膜を健康に保つ効果があるため、健康や美容のために摂りたい栄養素です。

キャベツやレタスは、淡色野菜に分類されます。
淡色野菜は食物繊維やビタミンCが多く含まれる野菜が多いですが、ビタミンAが含まれる量は緑黄色野菜とくらべて少ないため、淡色野菜ばかりに偏っている方は、緑黄色野菜に分類される野菜も意識して食べられると良いでしょう。

・ 淡色野菜:キャベツ、レタス、タマネギ、ダイコン、ナス、キュウリ、ハクサイ、モヤシなど
・ 緑黄色野菜:ホウレンソウ、コマツナ、ニンジン、ピーマン、パプリカ、トマト、カボチャ、サニーレタス、ニラ、水菜など

緑黄色野菜を簡単に見分ける方法としては、「切った時の断面の色が濃いもの」です。
これからの時期、鍋ものをする時には、ハクサイ、キャベツ、モヤシなど淡色野菜をメインとしがちですが、ニラ、ニンジン、水菜などの緑黄色野菜を足すのもおすすめです。
同じレタスでも、レタスはβカロテン含量が100gあたり240μgなのに対し、サニーレタスには100gあたり2,000μg含まれていますので、サラダに使う種類を変えてみるのもおすすめです。

冷凍野菜も活用しよう

さらに野菜の価格高騰などが気になるときは、冷凍野菜を活用するのがおすすめです。
β-カロテンは冷凍による損失はほとんどありませんし、冷凍野菜は、価格が変動しにくく、旬の時期に収穫しているものが多く栄養価が高い、長期保存が可能というメリットもあります。
ブロッコリー、ホウレンソウ、カボチャなど冷凍野菜でも緑黄色野菜に分類される野菜はたくさんあります。
調理も手軽で忙しいときに手軽に使えます。


今回は、食事の偏りについて解説しました。
主食、主菜、副菜を組み合わせて食べる食事がバランスの良い食事とされます。
さまざまな食品を組み合わせて食べられていることだけでも十分素晴らしいことだとですが、その中身を見直すことでより自分にとって健康な食生活を送りましょう。

<参考>
・ 働く女性の心とからだの応援サイト「日本の女性は鉄分不足!その不調、貧血かも?」
・ 働く女性の心とからだの応援サイト「健康と美を食べるもので叶える!~肌や髪、爪も美しく~」
・ 東京大学「日本人の栄養素摂取量は適切か――8日間秤量食事記録に基づく全国規模調査――(PDF)」
・ 厚生労働省e-ヘルスネット「緑黄色野菜」
・ 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」

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宮野 友里加株式会社ドクタートラスト 管理栄養士

投稿者プロフィール

年間100人以上の特定保健指導、ダイエットサポートを食事面、運動面から行う管理栄養士。
食事に関するアドバイスはもちろん、自分自身がデスクワークを始めてから悩まされている「肩こり・腰痛」「目の疲れ」の予防、改善方法についてもセミナーや執筆活動を通して積極的に情報提供している。
目標は「働く世代の方々にとってが管理栄養士が身近な存在になること」
【保有資格】管理栄養士
【ドクタートラストの特定保健指導サービス詳細はこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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