国が週2~3回の筋トレを推奨!やりすぎは逆効果?その理由とは

皆さん、筋トレはしていますか?
コロナ禍で、自宅トレーニングをしていた方の中でも、それを継続できている方は少ないかもしれません。
厚生労働省の発表(健康日本21(第二次)最終報告書)によると、実は筋トレに限らず、運動習慣者の割合は、ここ20年間で成人男女ともに有意に減少しています。
特に女性は、運動習慣者の減少傾向が顕著です。ここでいう運動習慣者とは、「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者」のことを指します。
国が設定した目標割合は男性36%、女性33%であるのに対し、2019年の最終評価時は男性23.5%、女性16.9%です。つまり、運動習慣者は成人全体でも5人にひとり程度であり、国が設定している運動習慣者の割合目標に長年到達できず、むしろ悪化傾向にあります。

都内では、公共交通機関や自動車だけでなく、電動キックボードなどのレンタルサービスを活用し、移動・通勤されている方を多く見かけるようになりました。
生活が便利になるにつれて、かつては当たり前だった歩行運動の機会も減少しつつあるかもしれません。
そこで今回は、天候や気温に左右されない屋内で取り組める筋トレについて、国が推奨している理由と、その推奨事項をお伝えします。その効果を知れば、あなたも筋トレをしたくなるかもしれません。

国が週2~3回の筋トレを推奨する理由

厚生労働省は2024年1月、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公開しました。
「身体活動基準2013」が策定されてから改訂は10年ぶりで、その背景には、身体活動や運動における新たな知見が蓄積されてきたことが考えられます。

というのも、これまで筋トレは、筋力や身体機能、骨密度を改善するという知見にとどまっていましたが、新たに生活習慣病の発症予防や死亡リスクの低減につながることが明かになりました。
具体的には、筋トレを実施している群は実施していない群と比較して、総死亡、および心血管疾患、全がん、糖尿病の発症リスクが、有酸素性の身体活動量に関わらず、10~17%下がることが示されました。
しかも、わずかな時間でも筋トレを実施していた群のほうが、まったく実施していない群と比較して、これらの発症リスクの低下を示すことが報告されています。
つまり、少しでも筋トレをすることで、健康増進効果が期待できます。

一方で、週あたりの実施時間が長くなりすぎると、健康管理には逆効果である可能性も示されています。
研究報告によると、各種リスクを下げるのに最大効果を発揮する実施時間は、1週間あたりおよそ40~60分であることがわかっています。
そして、その2~3倍にあたるおよそ130~140分以上の実施は逆効果になる可能性があることもわかっています。その実施時間については、まだ研究の蓄積が必要なようですが、やり過ぎによるリスクの上昇を防ぐためにも、筋トレは適度な強度と時間で実施し、しっかりと身体を休めることも大切です。
このことから厚生労働省は、休息日を念頭に置いた「週2~3日」を推奨値として設定しています。
この頻度はあくまで目安であり、個人の健康状態や健康づくりの目的に合わせて筋トレを実施すると良いでしょう。


筋トレと総死亡および疾患発症リスクとの関係(参考2から作成)

おすすめの筋トレ習慣

筋トレを習慣化するためには、頻度だけでなく、実施する部位、強度、1回あたりの回数とセット数を決めておくことが大切です。
そこで、筋トレを始めたい方のうち持病がない方向けに、一つずつ提案させていただきます。

① 実施する部位

まずは大きな筋肉である、胸・背中・下肢の3か所を鍛えられる筋トレを選びましょう。

② 強度

  • 最大挙上重量(1回しか反復できない重さ)の6~8割の重さにしましょう。
  •  九州大学健康学科センターの研究によると、ベンチプレスを1回持ち上げるときの最大重量の平均は男性でおよそ40kg、女性はおよそ20kgです。個人差はありますが、目安として男性は24~32kg、女性は12~16kgの重さに設定しましょう。
  • イメージとしては、無理せず15回ほど連続で動作を繰り返せるくらいの重さです。

③ 回数とセット数

  • 8~12回を2~4セット
  • 最初は少ない回数とセット数からはじめましょう
  • 筆者のおすすめは、覚えやすく習慣化しやすい10回×3セットです

筋トレを実施する際のポイントと注意点

筋トレを実施する際は、有酸素運動と組み合わせることでさらに高い効果が得られることがわかっています。
研究報告によると、まったく運動をしない群と比較して、筋トレのみを実施した群は総死亡の相対リスクが0.82倍になる一方で、筋トレと有酸素運動を両方実施した群は0.60倍という結果が出ています。
総死亡リスクが半減するまではいかないものの、得られる効果としてはとても大きい値ではないでしょうか。
そのほか、心血管疾患死亡や全がん死亡も、筋トレや有酸素運動を単独で実施するよりも両方組み合わせて実施したほうが、リスクが下がることがわかっています。
そのため、さらなる健康増進効果を狙いたい方は、中強度なら30~60分、高強度なら20~60分の有酸素運動を週2~5回実施してみてください。きっと健康で過ごせる期間が延び、老後も楽しく過ごせるはずです。

また、普段運動をされていない方が急に運動をされる際は、心血管系の事故のリスクが高まってしまうため、軽い強度で短めの時間から始め、4~6週間は強度を保ったまま徐々に時間を延ばしていきましょう。
そして、血圧の急激な上昇を抑えるために、息をこらえないように注意してください。

繰り返しにはなりますが、筋トレを行う際は、個人の特性や能力に合わせて実施することがとても大切です。
今回取り上げた内容は、長期間にわたる健康の維持・増進を目的とした場合の目安です。体型改善や競技力向上などを目的とした場合は、個人に合ったプログラムを実施するようにしましょう。
仕事で忙しくて運動習慣のない方は、わずかな時間でも筋トレを実施すれば、生活習慣病のリスクを下げられるので、まずは1日1分からでも、できるところから筋トレに取り組んでみませんか?

<参考>
1. 厚⽣科学審議会地域保健健康増進栄養部会 健康⽇本 21(第⼆次)推進専⾨委員会「健康日本21(第二次)最終評価報告書 第3章-⾝体活動・運動」
2. Momma H、Kawakami R, Honda T, et al. 「Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies」 British Journal of Sports Medicine,2022 Jul,pp.755-763.
3. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 成人版」
4. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 筋力トレーニングについて」
5. 厚生労働省「成人を対象にした運動プログラム」
6. 厚生労働省e-ヘルスネット「『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』情報シート:筋力トレーニングについて」
7. 林 直亨、宮本 忠吉「週1回の大学授業における筋力トレーニングが筋力に与える影響」 体育学研究 54.2009,pp.137-143.

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前川 アイ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

地域で潜在的に困っている方の助けになりたいという想いから保健師を志し、大学で看護師資格を取得後、大学院にて保健師資格を取得しました。学びを深めるなかで、人生で最も長い働く世代の健康を考えられる産業保健に興味を持ち、ドクタートラストに入社いたしました。
健康に関する発信をしていくことで、一人でも多くの方が生きがいを持って笑顔で働けるお手伝いをさせていただければと思っております。
【保有資格】修士(公衆衛生看護学)、保健師、看護師
【ドクタートラストの保健師サービスへのお問い合わせはこちら】
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