ベジファースト、カーボラストは無駄だった?食糧摂取基準から削除されたエビデンスを徹底解説!

厚生労働省が2024年10月に公表した「日本人の食事摂取基準(2025年版)」から、ベジファーストに関する記述がなくなったことで、大きな話題をよんでいます。
ベジファーストは、野菜を先に食べることで食事による血糖値の急上昇を抑え、糖尿病予防やダイエット効果があるとされている食事法です。
今回は、ベジファーストの記載が削除された背景と、エビデンスを解説していきます。

「日本人の食事摂取基準」から削除されたベジファーストに関する項目とは

「日本人の食事摂取基準」は、健康な個人または集団を対象として、健康の維持・増進、エネルギー・栄養素欠乏症の予防、生活習慣病の予防、過剰摂取による健康障害の予防を目的とし、エネルギーおよび各栄養素の摂取量の基準を示すもので、5年ごとに改訂されています。
2019年12月に公表された「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、糖尿病との関連として「食事摂取パターン」の項目があり、以下の内容が記載されていました。
しかし、最新の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」からはこの項目自体がなくなっています。

近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制し得ることが注目されている。特に、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1cを低下させ、体重も減少させることができることが報告されている。ただし、これは野菜に限らず、たんぱく質などの主菜を先に摂取し、その後に主食の炭水化物を食べると食後の血糖上昇は抑制される。
出所:厚生労働省「『日本人の食事摂取基準(2020年版)』策定検討会報告書」469ページ

内容をみると、そもそもベジファーストに限らず、炭水化物を最後に食べる食事法「カーボラスト」の説明がされています。
また、ベジファーストについては、「血糖上昇を抑制し得る」、「報告されている」といった表記の仕方にとどまっています。

ベジファーストが削除された背景

筆者は、ベジファーストに関する記述が削除に至った理由としては主に4つあると考えています。

① 推奨するにはエビデンスがやや曖昧であるため

そもそも、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で引用されていた論文の研究は、ベジファーストの介入だけが対象者に行われていたわけではありませんでした。
具体的に説明すると、介入群には、毎食炭水化物の前に野菜を食べること、果物ではなく緑黄色野菜を少なくとも1日1回食べること、一口20回以上噛むことが奨励されています。
また、オリジナルの教育用パンフレットを用いて、野菜、きのこ、海藻類などの食品の摂取量の増加を促す介入が行われています。
結果的に、ベジファースト実施群(介入群)の白米や果物の摂取量が減り、緑野菜の摂取量が増えているのです。
つまり、「ベジファーストの食事法だけで血糖値が下がった」という効果検証ができているとは言えないと考えられます。

② エビデンスとなる研究の一般化に限界があるため

有名なベジファーストに関する研究のほとんどは、2型糖尿病患者に対して行われています。
つまり糖尿病予備群や、血糖値が正常である人に対して効果があるかどうかはわかりません。
また、研究方法は「野菜だけを食べて10~15分休んだ後に米だけを食べる」といったものです。
カーボラストの研究も、通常間に10分~15分の休憩を挟みます。
この食事中の休憩スタイルを普段の食生活に取り入れることは少し難しいかもしれません。
最初の野菜やたんぱく質の摂取から、10分以上たって炭水化物を食べることは、鍋の〆や旅館のご飯、懐石料理のコースくらいでしかないかもしれませんね。

③ ベジファーストが正しく理解されることなく広まりすぎたため

現在一般的に広まっているベジファーストのイメージは「野菜を先に食べるほうが健康に良い」というものですよね。
しかし、上記で説明した通り、単純に先に野菜を食べる“だけ”ではどのような効果があるかの検証はできていません。
もともとベジファーストは主に血糖値管理に関する食事法ですが、サイトによってはダイエット効果があるという記載もあります。
実際には、「食事の順番を替える“だけ”で減量した」ことを示す研究はなく、因果関係は立証されていません。

④ 海外ではそもそも推奨されていないため

海外の糖尿病や肥満のガイドラインには、ベジファーストに関する記述はありません。
つまり、「糖尿病予防や肥満改善に効果がある」とまでは言えず、既存の研究は、その手掛かりの段階であると言えるでしょう。

さいごに~ベジファーストは無駄だった?~

ここまで読んでくださった方のなかには、「ベジファーストは無駄だったんだな……」とショックを受けた方も多いかもしれません。
しかし、これまでベジファーストを実践してきた皆さんは、「野菜を先に食べよう」と思うことで、必然的に日々の野菜摂取量が増えているはずです。
野菜に含まれる食物繊維は、一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」に記載があるように、食後の血糖値の上昇を穏やかにしてくれることが明かになっています。
また、野菜は塩分の排出を促すカリウムが豊富で、高血圧予防に効果的なだけでなく、悪玉コレステロールを低減する効果もあります。
野菜を食べようと思う意識はこれからもぜひもっていただきたいものです。
著者は今後も、ベジファーストの効果が一般化されるかどうかを見守りながら、引き続きベジファーストやカーボラストを実践していこうと思います。

<参考>
・ 厚生労働省「『日本人の食事摂取基準(2020年版)』策定検討会報告書」
・ 厚生労働省「『日本人の食事摂取基準(2025年版)』策定検討会報告書」
・ 一般社団法人日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイドライン2024」3章食事療法
・ Saeko Imai、Michiaki Fukui、Shizuo Kajiyama「Effect of eating vegetables before carbohydrates on glucose excursions in patients with type 2 diabetes」(『Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition』2014 Jan;54(1):7-11)
・ Saeko Imai、Mikuko Matsuda、Goji Hasegawa、Michiaki Fukui、Hiroshi Obayashi、Neiko Ozasa、Shizuo Kajiyama「A simple meal plan of ‘eating vegetables before carbohydrate’ was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes」(『Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition』2011;20(2):161-8)
・ Alpana P Shukla、Jeselin Andono、Samir H Touhamy、Anthony Casper、Radu G Iliescu、Elizabeth Mauer、Yuan Shan Zhu、David S Ludwig、Louis J Aronne「Carbohydrate-last meal pattern lowers postprandial glucose and insulin excursions in type 2 diabetes」(『BMJ Open Diabetes Research & Care』2017 Sep 14;5(1):e000440)

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前川 アイ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

地域で潜在的に困っている方の助けになりたいという想いから保健師を志し、大学で看護師資格を取得後、大学院にて保健師資格を取得しました。学びを深めるなかで、人生で最も長い働く世代の健康を考えられる産業保健に興味を持ち、ドクタートラストに入社いたしました。
健康に関する発信をしていくことで、一人でも多くの方が生きがいを持って笑顔で働けるお手伝いをさせていただければと思っております。
【保有資格】修士(公衆衛生看護学)、保健師、看護師
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